夜の帳が落ちても街はまだ眠らない。
メインストリートから一本外れた通りは、夕焼けと共に目を覚ます。
昼間は閑散としているその場所は、夜には全く違う顔を見せる。
今日も鮮やかな光の粒子と艶やかな女たちの姦しい声が溢れている。
『夜の蝶の社交場』とはよく言ったものだ。
ここは男と女の一夜の夢の世界。ここは様々な欲望が行き交う場所。
―そして、私が羽ばたくための舞台。

『La Fiesta』

暗いカーテンの裏側から店の様子をこっそり窺う。
程よく照明の落とされた店内では何人かの客が入っているのか分からない。それでもシックなドレスを着た女たちが何度も行き来しているのだけは見えた。今日も客の入りは上々らしい。
一つ、息をつく。カーテンを握る手の力が少し強くなる。
ここにいるといつものこと。体の中心からの震えが胸全体を揺らす感覚。
緊張か高揚か…それとも歓喜か。全て含みながらしかし一つに断定出来ない高ぶり。
炎が燻ぶる時にも岩が落ちる寸前にも似た、始まりを待ちわびる高まり。
様々な感情が私の中でせめぎ合い混じり合う。
一つ、息を吐く。細く長くゆっくりと。
それだけでこの波が収まるとは考えていない。けれど幾分かは楽になる。
カーテンから手を離すとサイドテーブルの上のカスタネットを持ち、中指に紐を通して手の平に固定する。二度三度音は立てずに動かして具合を確かめた。
日頃から手入れを欠かさない黒い相棒は、今日も私の手にしっかりと馴染んでいる。
「リン、そろそろ出番よ」
「わかってる。いつでもいけるわ」
カーテンの向こう側から小さな声が聞こえて、いつものように大丈夫と伝えて。
しばしのざわめき。静めるように時計の鐘が鳴り響く。
長針と短針が重なり合う時にしか動かないからくり時計。
それは今宵も始まる、一回限りの真剣勝負の開始を告げる音。
カーテンが左右に開き、丸い舞台の中央へ。
思った通り、今日は客が多い。けれど誰一人として動く者はいない。
左腕を上げ右手でドレスの裾を掴む。たん、と一歩踏み出したヒールの音が響いて溶けて。
カスタネットを強く打ち鳴らす。閉じた目を開く。
―そして、今日も私は踊りだす。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

【捏造風味】 La Fiesta 【支援】

前の投稿からだいぶ日が空いてしまってあわわな七瀬です。本当何で自分こんなに打つの遅いんだ…!

やっぱり今回も曲からのイメージ小説となっております。この曲が大好きで大好きで…!ピアプロ時からもう100回以上は聴いてる(←聴き過ぎ) 
支援絵もどれもこれもイケリンばっかりで、個人的に非常に美味しい作品です。
原曲⇒http://www.nicovideo.jp/watch/sm8008750

そして、どんな曲でもリンレンにするのが私の趣味さ!(キラッ …すみませんごめんなさい。でも今回はレン出てないけどな!…ああ石投げないで…!

いつものごとく感想・評価・誤字脱字の指摘は大歓迎です。

ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました! 

閲覧数:421

投稿日:2009/08/30 00:05:53

文字数:910文字

カテゴリ:小説

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