――――――――――#16
そしてエルメルトに平和が訪れ、街はまた何事もなく時を紡いでいくのだろう。
「――という、お話だったのです」
「そうですか。とても素晴らしい冗談はともかくとしてですね!」
「ノリツッコミDeathね♪巡音市長は腕を上げました♪」
「あなたは相変わらず、変わりませんね初音中将。基地司令にもなって、少しは大人しくなるかと思ってました」
エルメルト市本庁の市長室。エルメルト攻響旅団の初音ミクとエルメルト市長の巡音ルカが会談している。会談と言えば聞こえは良いが。
「この非常時に、市庁舎の屋上に侵入しないで貰えますか。市は軍ではありませんし、私も攻響兵ではないのですよ」
「だから来たんじゃん。こっちに逃がしたらルカちゃん戦っちゃうかなって思って♪」
「……、別に、警察もいますし、あなた方がしっかり任務を果たすなら、私は殊更に武を誇る真似はしません、軍人でも野蛮人でもありませんし、その、当然の責務であって、私に配慮したとかそういう理由で来たのなら感謝など」
「変な勘違いはしないよ?現に脅威なんかないし。変な噂話を流されても困るから、警察や消防と情報やりとり出来るここに来たの。市長の許可さえあれば、テトの動向をすぐに伝達できるじゃん♪」
「まあ、それは有り難いですね。デマを流す輩には苦労しますから」
「メディソフィスティア戦争の事はよく覚えているよ。軍人よりも怖かった人達が一杯いたから」
「懐かしいですね。見えない敵よりも見えない味方が始末に負えない。不思議な戦争でした」
攻響兵という存在が生まれる以前、ちょっと前に、ちょっとした戦争が始まった。
今では「メディソフィスティア僭主討伐戦争」と呼ばれる、歴史上は変哲の無い、ただの覇権争いである。
前の時代区分では英雄だった文明が、血みどろの革命の結末で暴君として倒される、良くある話だった。
けれども、やはり歴史上良くある話で、その後の分け前で勝利者側は相争った。
敵が強かったので、味方は競って強くなった。その結果、強くなり過ぎた。
みな、楽観的ではなかった。希望も持たず、ただ自分達の都合だけが全てになっている事を、薄々は感づいていた。
メディソフィスティア。すごく皮肉な呼び方で、「中央」や「凡庸」「中継」という意味の「メディア」と、「言葉で競技する人物」という意味の「ソフィスト」を足して、「フロンティア」の「ティア」を掛けた言葉だ。意味は「口先だけの凡庸にとっての新天地」。
「私は伝言ゲーム戦争の方が分かりやすいと思いますがね?」
「ルカはセンスがないよね」
「うるさいですよ♪」
音響技術が発展を極めた時、突如として「VOCALOID」は魔術や宗教や自然科学に続く新たな自然法則の体系となり、世界の姿を一変させた。
某曰く、「第3次インテリジェンステクノロジーレボリューション」、「THE 3rd ITR」。
しかし、他の古き学問がそうであったように、「VOCALOID」も過去の知識をカビと苔が繚乱する書庫にぶち込んでFuck’n!という訳には行かなかった。
むしろ魔術や宗教を実装し、科学をも模倣して、トライアングルをスクエアにすると言う荒業で、世界の混沌の共犯者となった。
エルメルト攻響旅団基地は、時代のポールシフトと共に変遷した、存在自体が教科書のような遺産だった。
遺産。一応は現役である。しかし「VOCALOID」、戦闘用の「VOCALOID」攻響兵であっても、地政学という古き学問の束縛から逃れられなかった。
理論上、「VOCALOID」は距離を無視してあらゆる戦場に飛んでいける筈だが、軍事学の常識と実際は、今でも非常に役に立つ。
「古代、魔法というのは歌と不可分だったそうですが、歌の好きなあなたはどう思っているのかしら」
「いい気分じゃないよね。私が歌うとみんな怯えるんだもん」
「でも、歌という鎖に繋がれなければ、今頃はどうなっていたことやら」
攻響兵が強大な力を持つ以前は、言葉が力を持った。言葉が力を持った時代は、ほとんど瞬きする位に短い間で、歌に取って代わられた。だけれども。
「うん」
「ある人は言っていたそうです。こんな歌は歌いたくない。始まったのなら、終わらせることもできるんじゃないか。フロンティアが最前線という意味ならば、私は最前線でこの不幸を終わらせる、と」
「それ私だよね」
「今でも、同じ気持ちですか?」
「うん。だって、すごく困る」
ルカは少し安心したような、余計に不安が増したような、複雑な気持ちになった。
「あなたはいつか終わらせると考えているようですが、もう終わらない変わってしまったまま戻らないと考えている人も少しずつ増えています」
「そう」
「だから、私はあなたがいつ心変わりするか、不安でならない」
「私が終わらせるよ」
「世界を滅ぼすというのはナシですよ?でも」
「歌なんて聴いて楽しむものだよ!だから、こんなの間違ってる!」
「はい」
それでもルカは逡巡していた。思い切って口にしてみる。
「でも、私はこう考えるのです。パンドラは箱を開いてしまって、絶望が飛び出してしまった。パンドラは機転を利かせて、家の戸を閉じた。その家が歌だと」
「ふーん?」
「今は歌という家がパンドラの箱の代わりになっていても、外の人が開けてはいけないと言われて開けないでしょうか?」
「あー。パンドラの箱って開けちゃいけないって言われてるのを開けちゃったんだよね」
「ええ」
「だけど、信じるしかないよね。開けちゃいそうな人がいたとしても、扉が閉じてる内は頑張らないとダメだよ」
「ええ。だから、私は外で待っています。私が頑張ってる内に、片付けてしまって下さい」
「前向きに善処は最善を目指すよ」
「無理して市長の言葉を使わなくても結構です」
「じゃ、私帰るから。電話だけ貸して」
「どうぞ。受話器を上げて内線の4を押すと攻響旅団の司令部に繋がります」
「そうなんだ!あ、本当だ!あーミクダヨー」
「代わって下さい」
ルカは市街地での被害状況と今後の警戒計画を手短に伝えると、朝一で実務者と協議したい旨を申し入れた。
「はい。御基地の貢献に市長として感謝の意を表します。では、明朝は宜しく願います。失礼」
ミクに代わらずにそのまま切る。どうせこいつ庁舎出たら帰って寝るだけだ。
「ルカちゃんすごい!まさに市長!」
「当たり前です。用が終わったらさっさと帰って寝てください」
「えー。朝ごはん一緒に食べようよ。最前線で新鮮なマグロのお刺身分け合った仲じゃんよー」
「黙れ。昔話よりも夜明けから夜更けまで寝れない未来が私にはあるんです。車は出しますので帰ってください」
「ルカは変わったね。昔はそんな事」
「何度も言いました!!!本当にあなたは変わりませんね!何もかもが!!」
ミクは渋々出て行こうとして、振り返った。
「そうだ。例の件、やってくれてる」
「例の件って、何件あるんですか。今言われても……」
ルカは言いながら思い出した。そうだ、他でもないミクを呼び付けようと思っていた用件があった。
「やってくれてるって、鏡音レンの戸籍の件よね?」
「うん」
「ちょっと待って。あなた、とんでもない話とセットだって何で言わないの!?」
執務机の引き出しを開けた中から、巨大なバインダーを机の上に叩きつけた。
「身元引き受けをする軍の書類が一式揃っているのに、本人の自筆の承諾書だけが足りないんだけど!?」
「うん。ハクがまだ承諾書取ってないって」
「偽造の承諾書を差し戻したんでしょうが!知ってるわよ、それで色々手続きしてるって、このバインダーに全部上がってるわよ!」
一瞬でマジギレしだしたルカに、ミクは不思議そうな顔をした。
「もう、軍の書式だからって、市長決済で受理しちゃってるのに、本人の承諾書が偽造の疑いって聞いて、私の耳も疑っちゃったわ!」
「あー。ハクから報告無いから話進んでるのかなーって」
「弱音准将から全て聞いてるわよ。ていうか吐かせたけど、あなた分かってて『鏡音レン』って名前にしたの?」
「うん」
「馬鹿じゃないの!?どうして相談しないのよ馬鹿の癖に!!」
「それはハクが勝手にやったことだし?」
「ハクに全部吐かせたって言ったじゃない?死ぬ?」
「いやだってさー、急を要するし今君が決断しないとこの話無かった事になるよーって」
「ここに総務省から、亡命者受け入れの要請書があるんだけど、一緒に添付されてる書類写しの身元引受人に『鏡音レン』ってあるんだけど?その鏡音レンの身元引受人の署名が、共和国軍中央所属エルメルト攻響旅団基地本部第7機動攻響旅団の、同基地司令初音ミク中将、って、なってるんだけど!?」
「そこまで分かってるなら仕方がない」
「あなたの字よね!?この書類、わざわざ中央に呼び出されて原本見せられて、ほとんどこれだけの為に中央に行ってるのよ私!」
「実はですね。エルグラスのあれがあってから、動きありましてですね」
「あー。エルグラス殲滅の直後から鏡音レンの存在知ってて、で、全部決済してから弱音准将に丸投げ、と」
「はい」
「1ミリでいいから否定しなさいよおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
下手な官僚よりも遥かに鬱陶しい。ルカは本心で心からそう思った。
「……まあ、いいわ。最悪は偽造署名でも手続きは進められます。でも、分かってるわね?身元引受人が法的手段に出たら、必ず負けるわよ。言っている意味はわかるわね?」
「日付が空白ならいいんだよね」
「もう、それでいいわ。朝一でハクを寄越してくれる。寝てなかろうが構わないわ」
「……」
「返事はハイ!」
「ぃぇっιゃー……」
反抗のつもりか逡巡したのか知らないが、訳の分からない言語で答えてくるのが癪に触る。ルカは執務机の椅子に座って、今日予定していた仕事に取り掛かった。夜明け前だが、庁舎の始業までには終わらせておきたい。
「あ、そうだ。これ、おみやげのドライねぎの試供品」
「その辺置いといてくれる。どうせ味噌汁に入れたら美味しいとかでしょ」
「は、はい。良かったら使ってください」
「分かったから帰ってくれる。」
ミクがおずおずと応接セットのテーブルに謎の袋を置く。
「じゃあね、ルカちゃん」
「ここでは巡音市長とお呼び頂けますか、初音司令」
「うん。また今度ね」
「さようなら」
初音ミク絡みで信用できるのはネギの味だけだ。ルカは改めてそう思った。
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BPM=172
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