ここは倉庫エリアと言うだけあってかなり広い場所だ。
体育館のような巨大な倉庫に、様々な物資が置かれている。
この倉庫の一つ上の階には、更に物資を詰める小部屋が並んでいる。
俺はコンテナの一つに身を隠し、周囲の状況をうかがった。
敵がいる。
倉庫を見下ろす場所にある通路に、数名。
さらに倉庫内にも数名。かなりの数だ。
レーダーで確認すると、なんと十二人がこの建物の中にいることが分かった。
建物の構造は分かるが、ここからの進路はどうしたら・・・・・・。
俺はPLGに無線を入れた。
「PLG。今倉庫の最下部にいる。ここからの進路を教えてくれ。」
『はい。第一目標の場所は、そこから、北、二百メートル先の、技術研究練に位置しています。』
「分かった。」
要はこの倉庫を北に向かえば技術研究練へたどり着くと言うことか。
しかしこの警備・・・・・・。
俺はコンテナから顔を出し、背後を見せている兵士の装備を観察した。
陸軍とは違う。顔はヘルメットではなくマスクで覆われており、戦闘服はいずれもスプリッター迷彩だ。
そして、手には小銃と思しき銃が握られているのだが、その銃は俺が見たことの無い銃だ。陸軍の89式とは違う。
やはりただの私営部隊とは訳が違うらしい。
さらに観察すると、銃には様々なオプションが取り付けられており、装備類も陸軍が使用しているものより高性能のものだ。
まだ実戦に投入されていない最新式の装備を所有する部隊・・・・・・余りにも得体の知れない組織だ。
どちらにしろ、この状況でやつらに発見されれば命は無い。
決して気配を出さず、自分の存在を悟られることなく任務を遂行しなければならない。
だが自分にとっては造作も無いことだ。
VRFTで数百に及ぶスニーキングミッションを完遂している。
実戦と変わらない、仮想空間での訓練を。
だから、この程度は・・・・・・。
先ずは、倉庫の中央で広い視野を有しているあの兵士を排除するのが適切だろう。
俺はコンテナからコンテナへと瞬間的に移動し、兵士との間合いを詰めていった。
レーダーで兵の位置を確認し、俺に対し背を向けたことを確認する。
・・・・・・今だ!
俺は一瞬で兵士の首に腕を回し、そのままコンテナの陰に引きずり込んだ。
兵士に抵抗する隙を与えず、俺は両腕で音も無く兵士の首をひねり潰した。 唸り声一つ上げることなく、兵士の体が力なく垂れ下がった。
兵士の首は異常な方向に拉げている。
いくら潜入任務でも、敵を排除しなければならない場合もある。
だが、絶対に戦闘は避けなければならない。
俺は完全に絶命した兵士の体をその場に寝かせた。
これで幾許かは楽になった。
今の行動を悟られた気配も無い。
俺は更に歩みを進めた。
北の方角に、技術研究練に続く通路があると見えるが・・・・・・。
進むにつれて、徐々に突き当たりに差し掛かる。
しかし技術研究練への通路の入り口など、どこにも見当たらなかった。
周囲を見渡してもコンテナに続くコンテナで視界は狭く、扉らしい扉も確認できない。
ここに無いとすると、もしや上のフロアか?
身を隠し上を見上げるとこの倉庫を見下ろす通路に、そして扉がある。
その通路へ続く鉄製の階段が、倉庫の下に続いている。
あの階段から昇ればいいだろうが、見つからないだろうか。
俺は静かに、ゆっくりと、移動を開始した。
まだこの倉庫の中には十人以上の兵士がいる。四方八方に気を配らなければならない。
今回の任務では、必要なものは現地調達が旨とされている。
したがって、まだ俺にはレーダー以外のまともな装備が無いと言うことだ。
しかしレーダーで敵の位置が分かると言うのは、何とも有難い。
これを見れば人間の位置どころか、建物の構造、障害物さえも視覚化されているのだから。
これも、まだ陸軍が研究中の装備だ。
試作段階の最新兵器が使用できるのも、俺の部隊ぐらいか。
階段の目の前に到着し、俺は鉄製の階段を一歩一歩踏みしめた。
どうにか下のフロアにいる兵士に見つからず階段を昇りきると、素早く扉を開放し、身を隠すように中に入り込んだ。
中は狭い通路が続いているが、北側に巨大なゲートが見える。
あそこから、人質が捕らえられている技術研究練に入れるようだ。
俺はそこに向けて足を踏み出した。
「・・・・・・?!」
そのとき、背後で突然耳を劈く爆音が鳴り響いた。
爆発か?!
爆発は幾つも連なり、やがて通路の向こう側から火の手が押し寄せてきた。
一体何が起こったと言うのか?
火の手は徐々に俺に向かって押し寄せてくる。
考えている場合ではない。走らなければ!!
俺がゲートの前に立つとゲートは自動的に開き、その先には三十トントラック一台が通れそうなの通路が百メートル程先まで伸びていた。
通路の中に足を踏み出した、その瞬間途轍もない振動が俺を襲い、火の手が速度を上げて迫ってきた。
「クソッ・・・・・・!」
一体なんだって言うんだ!!
考える間もなく俺は通路を走った。
背後から迫る爆風は、更にスピードを上げて、俺を飲み込もうと迫り来る!
向こう側のゲートは、固く閉ざされている。
しかし、ここにいたら・・・・・・!!
構わず俺はひた走る。
そのとき、向こう側のゲートが自動的に開いていった。
まさか、敵か?
しかし、ゲートの向こう側で待ち構えているのは、全身を黒い戦闘服で固めた男だった。
その男は俺に向かって手招きした。
なるほど、逃げ込めと言うことか。
扉の数メートル手前まで走り抜けた俺は、一気にそのゲートに向かって飛び込んだ。
ゲートに突入すると同時に、黒い戦闘服の男が間髪いれずゲートを閉鎖した。
そしてゲートの向こうで幾つもの爆発音が起こり、やがて静まった。
「大丈夫か?」
やや低いが若々しい声がかけられた。
「ああ・・・・・・すまない。助かった。」
俺は起き上がり、そう言いながら声の方向を見た。
そこには、黒い戦闘服に、手にはライフルを持ち、ゴーグルで顔を隠している男の姿が在った。
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