(9)


 あれから、リンが青い国の王子さまと踊っていると不意に音楽がとまり、人々のざわめきの中から緑の国のお姫さまがあらわれました。そのドレスは白と水色の生地に、銀の飾りをあしらっています。それはリンのドレスのように特別な細工や、贅沢な宝石も無いシンプルなものでしたが、長く豊かなエメラルドグリーンの髪と、人形のように白く、少しほっそりとした体つきにとてもよく似合っていました。
それから王子さまはその美しい姿にひとめぼれをして、今まで一緒に踊っていたリンのことなんて完全に忘れてお姫さまを自分からダンスに誘ったのでした。


帰りの旅の間リンはずっと泣いていました。今まで、どんなに珍しいものでも、どんなに高価なものでも、なんでも思い通りになったのに、あの青い国の王子さまはリンの思い通りにはならなかったのでした。それもこれもすべてが緑の国のあのお姫さまのせいなのだと、そう思うだけで王女さまの心は嫉妬で真っ黒に焦げてしまうような思いでした。レンはそんなリンになんと声をかけてあげればいいのかわかりませんでした。今まで、どんなに珍しいものでも、どんなに高価なものでも、なんでも王女さまのためにならしてあげられたのに、あの青い国の王子さまをどうやったらリンにあげられるのか見当もつかなかったからです。

 『私の大切な娘の表情が一瞬でも曇る事がないように、もしもその様な事があったら私に刃向かった者として家族もろともみせしめに殺してやるからな』

 一度は憎いとすら思った、今は亡き王さまの言葉をレンは何度も思い出しました。


 行きと同じ時間しかかかっていないのだとはとても思えないくらい長い船旅を終えて、お城に着くなり王女さまは一言、搾り出すような声で、

 「緑の国を滅ぼしなさい」

 とだけ大臣に告げたきり自分の部屋に篭ってしまいました。レンはその後ろ姿を見送ると、

 「たとえ世界の全てが君の敵になろうとも僕は・・・」

 こう自分に言い聞かせました。そして先ず、まだ状況を飲み込めずにぼんやりしている大臣に向かって、直ちに軍隊をかき集めて戦争の準備をするように命じました。それから、侍女をひとり呼び寄せて、どんなに落ち込んでいる人だって、それを見ただけで元気がでてしまうような、そんなブリオッシュを作るように言いつけたのです。


胸を渦巻く痛いくらいの感情も、王女さまの幸せのためならなんでもない事なのでした。




ライセンス

  • 非営利目的に限ります
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悪くて可哀想な双子 (9)

!! CAUTION !!

これは悪ノP様の言わずとしれた名作「悪ノ娘」と「悪ノ召使」を見て感動した上月がかってに妄想を爆発させたそのなれの果てです。

・当然の事ながら悪ノP様とは何の関係もありません。
・勝手な解釈を多分に含みます。
・ハッピーエンドじゃありません。(リグレットとの関連も無いものとしています)
・泣けません。
・気付けば長文。(つまり、要領が悪い)

以上の事項をご理解いただけた方は読んでみて下さい。

閲覧数:390

投稿日:2009/12/13 20:54:22

文字数:1,022文字

カテゴリ:小説

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