ナイトメア・クイーンは、はぐれナイトメアのメグを見て言いました。
「 メグ、あなたはまだ人間の味方なんてしているんですね?無駄なこと、人は結局、悪夢にむしばまれて死んでゆくだけなのに。」
と冷たく言い放ちました。
ミカエルが言います。
「なぜ、ナイトメアの女王であるあなたが私の邪魔をするのです?」
「それは夢の女王ミーシャに<のろい>をかけたのは、わたしだからよ。」
「あなたが?」
「そう、私は、ミカエル、あなたが欲しくてたまらなかった。だから<のろい>の力を使いあなたとミーシャを引き離した。」
ミクが言います。
「いくらナイトメアの女王様でも、そんなわがままって許されないわ。」
「ミク、あなたにはまだわからないかもしれない。愛はね、戦いなのよ。」
ナイトメア・クイーンそういうと、暗い雲を見にまとい始めました。
「ここを通すわけにはいかない。ミカエル以外は、闇嵐で夢のもくずになってもしょうがないわね。」
そう言って冷たく笑うと、身にまとった暗い雲は、いくつもの闇嵐になりました。
ミクは言います。
「ダルク、私たちがんばるしかないわね。」
「そうね、ミク。」
ミクは、ミカエルに
「ナイトメア・クイーンは、私たちで食い止めるわ。
あなたはナイトメアの樹の<のろい>を削り取って。」
と言います。
「わかった。」
ミカエルはそう言って、ナイトメアの樹へ向かいました。
ミクは歌い始めます。
夢の翼
幾億光年離れていても
私の思いは届くはず
黒い嵐は道を閉ざし悲しみの風が吹く
世界の始まりから終わりまで
冬が支配してるのかしら
白い雪が 闇を溶かして
今やっと世界は生まれる
冬の旅人は世界の始まりを見て
長い旅の意味を知る
夢の翼 幾億光年離れていても
私の思いは届くはず
この冬の世界であなたの思いを受け止めよう
白い雪 闇を溶かして
世界の始まりを告げる
純白の雪
ミクの歌に呼応し、首にかけている闇夜花がひかり、その光は上空へ舞い上がり、光の雪をあたりに降らせました。
光の雪は、ナイトメア・クイーンの闇嵐の暗い輝きを弱めていきました。
ダルクは光の道を作り、夢歩きをして闇嵐を消してゆきました。
ナイトメア・クイーンは叫びます
「たかが歌ごときに、私の悪夢が負けるなんて。」
「歌わね、すべての悪夢に勝てるの。そこに心があればね。」
「せめて、ミカエルだけでも連れてゆくわ。」
ナイトメア・クイーンはそう叫ぶと、ミカエルと樹の間に悪夢の瘴気を作りました。ミカエルはその瘴気に巻き込まれてしまいました。
ミクとダルクは叫びます。
「ミカエル」
ナイトメア・クイーンは、甘美な笑みを浮かべて言います。
「ミカエル、これでいつまでもわたしと一緒。」
ナイトメア・クイーンはすべての力を使い果たし、うすい色になり消え去ろうとしていました。
その時、ミカエルのいる場所から緑と金の光が輝き、瘴気を吹き飛ばしました。
瘴気は吹き飛び、そこにミカエルと夢かなぶんがいました。
ミクが嬉しそうに
「夢かなぶん、ありがとう」
と言います。
ナイトメア・クイーンは消え去ろうとしています。
最後に「ミカエル、何度生まれ変わっても、またあなたにめぐりあう、必ず」と言って消えてゆきました。
ミカエルは瘴気が消えるとそのまま樹へ駆け寄り<のろい>の言葉を探し、削り取りました。
ミカエルは言います。
「幾億回、夢と現実の世界をさまよってきたのだろう、この時のために。」
と言って涙ぐみました。
その時、ダルクが言います。
「今、人々の夢が、外の世界への扉を開くのを感じたわ。この世界はすぐに崩れてしまう。」
「待って、ミカエルさんは、まだ夢の女王ミーシャさんに会ってないわ。」
「だめ、何階層も移動する時間は、もう残っていないわ。
ミカエルさんは夢の女王に会うことができない。」
ダルクがそう言った時、ミクは歌い始めました。
闇夜 夢吹雪
すべての 夢のかけら
幾億回生まれ変わり
あなたを さがし続け
夢とは 知らずに
旅人はまどろみ
闇の夢が 愛の歌に変わる夢 見る
ナイトメアの風の中
幾億回生まれ変わり
あなたを さがし続け
闇夜花
夢の迷路に輝く
闇夜花
わたしの恋に輝く
この夢をこえて
あなたのもとへ
闇夜花
夢の果てまで照らせ
闇夜歌
わたしの愛の歌になれ
この夢をこえて あなたのもとへ
ミクの胸の闇夜花の首飾りが光ります。
世界は揺らいでゆき、ミクたちは夢と現実のはざまをただよいました。
色彩が揺らめく中、ミクの花びらへ向けて、ひときわ輝く光がミクたちのもとへやってきました。
闇夜花が、ミクの花びらに導かれ女王を連れてきたのでした。
女王とミカエルは涙しながら抱き合いました。
二人が出会うまでには、あまりにも長い旅が必要だったのですから。
ダルクの体は薄くなってゆきました。ナイトメアの世界から現実世界へ消えてゆくようでした。ダルクは言います。
「ミク、夢の世界の歌姫、会えてうれしかったわ。ここでお別れしなくちゃいけないみたい。でも、きっとまた会える。何度生まれ変わっても。必ずまた会おう。友達だから。」
「うん。きっとまた会える。長い旅が必要かもしれない。でも、ダルクまた会おうね。」
「ありがとう、ミク」
そう言って、ダルクは消えてゆきました。
ミクに、夢の女王の声のこだまが、かすかに聞こえます。
「ありがとう、ミク。最後にあなたを、夢と現実のはざまの<輪廻と無限の色彩のステージ>に送り届けるわ。
そこで、ミク、世界のためにうたうのよ。
世界のこと頼んだわよ。」
女王がそういうと、夢の女王とミカエルの姿はなくなり、ミク一人だけが、<輪廻と無限の色彩のステージ>にいたのでした。
「初音ミクと夢の女王」完
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