「……ったく、何でこんな事件にこの俺が出張らにゃならんのだ。」


 ホテルの入り口をくぐった、全身黒スーツの刑事はそうぼやいた。黒髪をオールバックにして、いかにもキレ者刑事と言ったような風貌だ。

 後ろからついていく若い刑事が、慌てて口を出した。


 「で、ですが松田警視、今回の事件、あの『黒猫組』が関わっているらしく……。」

 「はっ、怪しいもんだぜ。瀕死の被害者情報なんだろ?意識が錯乱して言っただけかもしれねーだろ。」

 「ですが……。」

 「あーもうわかったわかった。おら、何号室だ?807だっけか。」


 エレベーターに乗り込み、8階へ。その最中も、松田警視と呼ばれた彼はけだるそうにしていた。


 「で?第一発見者は今現場にいんのか?」

 「は、はい、そのようです。なんでも休暇中の刑事の方だそうで、被害者の知り合いなのだとか。現場に残って、鑑識などにてきぱきと指示を出してらっしゃるようです。」

 「おいおい……他署の刑事に指示されてどーすんだよ?うちの鑑識は腰ぬけばっかりか!!」


 イライラが高まるその刑事はエレベーターの壁を蹴る。

 そのうち、アナウンスが流れ、八階に到着した。二人はエレベーターを出て807号室へ向かった。

 ドアをくぐり、部屋の中へとはいっていく。


 「あ、あの方です。」

 「ふん……おいあんた、どこの署のもんか知らねーが勝手に指示なんか出すんじゃ…………………………って……え?」


 刑事の言葉が途切れ、そして目がまるくなった。

 その視線の先にいたのは―――――艶やかな桃髪を揺らしながら家族に説教をする、第一発見者の姿だった。


 「も―!!なんで皆ついてきちゃうのよ!!」

 「だって~!!ルカ姉が事件に出くわして、その被害者が和也君達だって言うんだもん!!気になって海で泳いでなんかいられないよ!!」

 『そうだよルカさん知り合いの危機はあたし(俺)らの危機!!』

「だからってねぇ……!!」

 「まぁまぁルカちゃん、仕方ないっt」

 「そこで止めないバカイトさんの頭の中には何が詰まってんの!?」

 「何か旅行来てから僕の扱い酷くない!?」

 「……ゴメン、ルカ……このバカども抑えきれなかった……。」

 「大丈夫めーちゃん、めーちゃんはなーんも悪くないの。全部バカイトさんが悪いの!」

 「だから僕の扱いが(ry」


 やいのやいのと言い争いを繰り広げる一同。その中心にいるルカを見つめたまま、刑事の口は開いたままになっていた。


 「……おい。第一発見者って……あの桃髪美人か?」

 「え?は、はいそうですが……。」


 若い刑事の返事が返ってくると、途端に刑事の顔は弾けて―――――



 「バカヤロウ何でそれを先に言わねえ!!ルカ先輩―――――!!」



 「へっ!?」


 突然の嬌声にルカが振り向いて、そして『あっ』と大声を上げた。


 「あああああああ!!ドンキー!!ドンキーじゃないの!!」

 「とおっ!?ちょ、ルカ先輩、俺の名前は『鈍吉』ですって!!」

 「いーじゃないドンキーで!え、あんたもしかしてこの町の管轄だったの!?」


 きゃいきゃいと盛り上がる二人に、置いてきぼりを喰らうボーカロイド一家と若い刑事。

 別世界状態に耐えきれなくなったミクが、ルカに恐る恐る話しかける。


 「る……ルカ姉?その人って一体……?」

 「……あ。ごめんごめん、紹介するね。こいつの名前は松田鈍吉。あだ名は『ドンキー』。事実上私の警察学校同期なんだけど、私より1日遅く入って、その時にほとんどの訓練をこなしてた私を見て先輩だと勘違いした時からず~~~~~っと私のことを『ルカ先輩』って呼んでるの。……それにしてもあんた、さっき『警視』って呼ばれてた!?ウソでしょ!?私まだ警部補なんだけど!上司に取り入りでもしたの!?」

 「いやぁ~色々と上司をもてなして☆」

 「『もてなして☆』じゃないわ!!アホか!!しばくわよ!!」

 「むしろしばいてくれルカさん!!」

 「あーもうわかったから!!あとで【ピー】して【ピー】して【自主規制】してあげるから!!さっさと聴取なさいよ!!」

 「おっと、それでは……。」


 ルカに促され、松田は手帳を拡げてメモをとる準備をして、聴取を開始した。


 「え~~~~~~~っとぉ……まずは……発見したのは……いt」

 「発見したのは今日の12時過ぎ。凶悪な“陰の気”を感じて飛び込んだところ、部屋の中央で倒れている被害者を発見。被害者の名前は富岡初美とその息子の和也君。全身に刃物による切り傷多数、しかし頸動脈・大腿動脈と言った主だった急所には傷は見られず。おそらくは即死目的ではなく失血性ショック死を狙ったものであることが推測され、犯人の異常性が表されている。……あんたおっそい。相手が刑事なら遠慮せずにバシバシ質問ぶつけなさい!!」


 傍から見ているミク達からは、最早どちらが事件を担当する刑事なのか分からなくなるほどの光景。警視と呼ばれた松田もしゅんと項垂れ、完全に現場はルカに仕切られていた。

 説教に入りかけていたルカが、ふと何かを思い出して話を切り出した。


 「そうだ、あんた『黒猫組』って何だかわかる?」

 「え、ルカ先輩知らないんスか?この町の人間ならだれもが知ってますぜ!」

 「私この町の人間じゃないんだけど?と言うかそもそも人間ですらないし?」

 「……そう言えばそうっすね。『黒猫組』ってのはですね……半年前突如発足して、急速に成長を遂げた大型暴力団ですよ。政治絡みの云々ってのはないんですが、やたらと金持ちを狙って暗殺を繰り返し、有り金片っ端から盗んでいく、いわば強盗好みの暴力団ですわ。」


 金を狙う?強盗好み?ルカには少し引っ掛かるところがあった。初美はルカの『心透視』によれば、逃げた旦那が残した借金で首が回らなくなり、無理心中を図ろうとしたはずだった。金など必要最低限しかもっていなかったはず。


 「……一体どうして初美さんが……。」

 「あ、それについてちょっと……!」


 突然松田の後ろに控えていた若い刑事が口を出してきた。それが気にくわなかったのか、松田が食ってかかる。


 「くぉら!!ここは上の話だ!!お前は黙ってr」

 「黙れドンキー!!……気にしないで。言ってみなさい。」


 どやされてフリーズした松田に変わり、若い刑事が話し出した。


 「えー……被害者・富岡初美についてなんですが、彼女はかつて他の暴力団に囲われた女だったらしく、そこで元旦那である富岡悪之介と駆け落ちして、息子の和也君を生んだそうです。それからあちこちを転々としたのち、悪之介は半年前、『黒猫組』の発足メンバーとして契りを交わしたそうなんですが、それからしばらくしてパチンコで莫大な借金を作り蒸発……初美さんが僅かずつ返していたそうです。もしかすると、その借金の後始末をするために、『黒猫組』が初美さんを殺そうとしたのでは……っと、出しゃばりすぎました、申し訳ありませんっ!!」


 慌ててフリーズしたままの松田や、ルカにぺこぺこと謝る若い刑事。

 だがルカはふっと優しく笑った。


 「……あなた、いい刑事の素質があるわ。将来大物になるかもね。その調子で頑張りなさい。」

 「はっ……!!あ、ありがとうございます!!」


 頭を下げる若い刑事を尻目に、ルカはまだ固まっている松田を軽く小突いた。


 「ひゃおぅ!?」

 「いつまで固まってんの!!……私もこのヤマに協力するわ。上に通しといて。」

 「え……へっ!?」

 「『疾風刑事ルカ』が協力すると言ったら、上も喜んで許可くれるはずよ。」

 「だ……だけど先輩、休暇中なんじゃ―――――――」



 「マスターがいたら!!絶対に言うっ…!!『大切な知り合いが傷つけられてもそっぽを向くようなやつは、刑事に値しない』って!!」



 現場に強い想いのこもった言葉が響き、全員が呆気にとられてルカの方向を見た。はっとして、顔を赤くして俯くルカ。

 松田はしばらく茫然としていたが、やがて笑って、ドン!と胸をたたいた。


 「……了解っす!!上に通しておきますよ!存分に動いてください!!」

 「ありがと!……ここまで来ちゃったらしょうがない!皆ついてきていいよ!!」

 『へ……あっ、はい!!』


 ここまでずっと蚊帳の外だったミク達も我に返り、慌ててルカについていく。

 ……が、突然ルカは立ち止まって、松田の方を振り向いた。


 「あ……そうだドンキー、一つ聞いていい?」

 「何すか?」

 「ここん所の『黒猫組』の事件で……紫の長髪に太刀をもった、武士みたいなやつ関わったのない?」


 はっとしたミク達がルカを見上げる。彼女らにとってそんな特徴を持つ人物は、たった一人しか思い浮かばなかったから。


 「あ、それなら自分が!」


 再び若い刑事が飛び出してきた。松田が制しようとするが、あっさり押しのけられる。


 「ここ二カ月ほど報告される事件で、必ずと言っていいほどその特徴を持った男が目撃されてます!どうも『黒猫組』を追っているようなんですが……。」

 「……そ。ありがと。じゃ、行ってくる!」


 それだけ言い残して、ルカ達は走り出した。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

ボーカロイド達の慰安旅行 Ⅵ~事情聴取~

第一発見者が知り合いの刑事でしかも自分より腕の立つ人だった場合すごくやりにくいと思うwww
こんにちはTurndogです。

ルカさんだってフツー(?)に警察学校出てるんだから、同期がいたっておかしくないよね!
ということでなんか変なヤツを作ってみましたwww
多分それなりにヘタレ。

あとカイトはここら辺が一番ぞうきん(やめたげてよぉ!

次回!!調査を始めたルカさんの前に……え!?お前なんで!?

閲覧数:206

投稿日:2013/03/13 18:18:58

文字数:3,912文字

カテゴリ:小説

  • コメント2

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  • イズミ草

    イズミ草

    ご意見・ご感想

    確かに、変なやつですねww
    でもルカちゃんが、仕事人っぽくて可愛いですww

    しかし……ドンキー……ww

    2013/03/21 18:33:47

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      最近うちのルカさんは可愛くなりすぎてると思う。
      いわゆるギャップ萌え(((

      うん……何でこんなあだ名にしたんだろうと自分でもふと考えるwww

      2013/03/21 20:44:58

  • しるる

    しるる

    ご意見・ご感想

    前作のグミちゃんに続き……カイト、ミク、リン、レンが空気にならなければいいけどw
    特にリン、レンが出番が想像できないぞww

    2013/03/15 00:11:16

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      カイトはしばらくぞうきんでおk☆(おい
      ミクは切り込み隊長だからそのうち役目がきますwww
      ……リンレン?まぁそのうt
      鏡音RR「WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYNNNNNN!!!!!!」
      ひでぶっ!!

      2013/03/15 17:45:57

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