12 リンの修行レンのトラウマ その5
「リンよ実際に敵を蹴ってみなければ真に人泣かせ蹴りを会得したとは言えまい。」
「確かにそうですけど一体誰を蹴るって言うんですか?私と師匠以外誰もいないし、師匠は100年早いとか言っていつも私の相手をまともにしてくれないじゃないですか。」
「ふっふっふっ安心せい、リンよ。おぬしの相手はしかと用意しておる。」
「え?ホント?いったいどこに?」
「おぬしの相手はこの熊じゃ。」
「・・熊って師匠それ・・・。」
師匠が敷地内の倉庫から持ってきたデカイ熊のぬいぐるみを見て私は唖然とした。いったいその私よりも背が高い熊はどこの国のなんて地方のどんな店でいくらで売っているのですかと、このアホに問い詰めたくなった。
「師匠それギャグですか?ギャグですよね?私を笑わせようとしてるだけですよね?というかむしろギャグと言って・・。」
「何を言うとるこやつがおぬしの相手じゃ。何もためらうことなくこやつに蹴りを放ってみい。」
私は半ギレ状態になり、もうどうしていいかわからなくなっていた。
「よいかリンよ、かつて世界には熊殺しと呼ばれた格闘家がいた。凶暴な熊にも恐れず己の拳を叩き勝利した。熊と戦うことは強さを証明することであるぞ。リンよ、偉大な格闘家に習い恐れず己の蹴りをこの熊に放てい!」
「いや、てゆうか、ぬいぐるみですよねそれ?何の意味があるんですか!」
「ぬいぐるみとはいえ、熊は熊じゃ、見るがいいちいこいおぬしよりも全然背が高いではないか。このぬいぐるみの熊に打ち勝てておれば実際に生きた熊と遭遇したとしても勝てるはずじゃ。」
「・・・あぁ・・そうですか。わかりました。・・」
もうこれ以上は時間の無駄と考えた私は、目の前の倒れないよう師匠に支えられている熊のぬいぐるみに蹴りを放つことにした。
「リンよ、見せてみい!」
というかあんた、熊を後ろで支えてるから全然あたしの蹴りなんて見れないじゃん。もういい終わらせて早く家に帰ろう。
私は神経を集中し、人泣かせ蹴りをぬいぐるみの熊の顔に叩き込んだ。ボシュッっという音と共に熊の頭が取れかけ、綿がいっぱい飛んだ。
「見事じゃーーー!!リンよ!それでこそわしの弟子じゃーー!!」
「じゃあもう帰らせてもらいます。ありがとうございましたーーー。」
「リンよ!次の修行はもっと厳しいぞ。心しておくがいい!」
はい、もういいです。
・・・こんなしょうもない修行をしたんだよなー。私は迷惑な懐かしさに浸っていた。恐る恐る床に転がっているレンを見ると人泣かせ蹴りの威力はすごい。というかほんとに殺人蹴りかもしれない。私は師匠が適当に言っていただけと思っていた危険という言葉を理解した。
「ちょっと何?どうしたのー。」
たまたま仕事が休みで家にいた母が二階に上がってきた。ハイキックのポーズのまま、おそらく母にはスカートの中の下着が丸見えの状態で固まっている私と床に転がっているレンを見て母は悲鳴をあげた。
「ちょちょちょちょちょちょちょちょちょリン!いったいどうしたの?何があったの?何でレンが気絶してるの?とにかくリン、足下ろしなさい。女の子がどうしてそんなはしたないかっこしてるの。え?レンはリンのパンツ見て気を失ったの?どうして?いくら実のお姉のさんのなんか見たくないからって気絶するほど現実逃避することないじゃない。レン起きなさい!リンにはお母さんからよく言っておくから。」
「ちょっとお母さん何言ってるのよ!全然違うわよ!なんかあたしがものすごいバカに思えて恥ずかしいじゃない!それにお母さんのほうからよく言っておくって何をレンに言うのよ。私が蹴ったのよレンの顔を、そしたら・・・倒れちゃったの・・・。」
「な、な、な、なんでそんなことを!あんなに仲がよかったのにいったいレンが何をしたって言うの?」
「・・これ見てよお母さん。」
私はレンが落書きしたポスターを指差した。
「あらやだ、まぁ。」
「だって、ひどいでしょ、私がすんごい好きなの知っててレンは落書きしたんだよ。」
私はそう言いながら泣き出した。
12 リンの修行とレンのトラウマ その6へ続く
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