「はぁ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「ふうっ」
足が重い。
体が重い
頭が重い。
何時からだろう、こんなになったの。
何時からだろう、あそこへ行くのが嫌になったの。
いつからだろう、何もかも、私も・・・・・・・・・・・・・壊してしまおう
・・・・・と思うようになったのは。
何時からだろう。
イツカラ・・・・

「にゃっほーい、めーちゃん。」
いつもの調子で駆け寄ってくる天才の名をほしいままにし、今やAI研究の世界でトップを独走する研究施設の責任者に若くして就任しているわが従姉妹殿。
片や私はというと聞いたことも無いような小さな商社のしがないOL。
17時突然携帯が鳴って、いつものこの声が「今日飯行くよ、1時間後に・・・・」
有無を言わせぬこの呼び出しにも、「あんたの奢りで。」
「いやーーーーーん、めーちゃんのいぢわる。」
こんなやり取りをいつもの様に繰り返しながら、周囲から双子と言われるほど仲がいいのに2桁以上デキが違う天才様に、ギャグをかますのがせいぜい私にできることだ。
「実はね、」
「お金なら、無いわよ」
ほら来た、と思いながら間髪いれずに定番のギャグをかます。
「えーん、めーちゃんがいぢめるぅ」
高そうなフレンチの店に平気で入れる我が従姉妹殿がもちろん金が無い訳がなく、むしろ私なんか足元にも及ばないほど稼いでいるはずだし、などと考えたらデキの違いが悲しいほど身にしみる。
「あ゛ーーーーうっとおしい、で、何をしろと。」
本題に入ると予想通り自分の研究を手伝えとのたまった。
要するにモルモットになれって訳だ。
「こんなこと頼めるのは・・・」
「へぇーへ、どーせ選択肢は1つしかないんだから、何なりと。」
「やたー、めーちゃん大好き。」
この子供のような無邪気さが彼女の武器だ、頼み込まれるとどーにも断りきれない。
酷いめに遭うとわかっているのに・・
例えば前回は心理研究の一環だからとか言ってへんな薬を飲まされて、生死の境を彷徨った。(のだろうと思う、研究所スタッフも口篭るだけだった。)
次に気がついた時には、カレンダーが一週間先に進んでいて、会社にこっ酷く怒られたことは言うまでも無い。
結局今回も彼女のペースにはまってしまって、引き受けることになった。
今度こそ生きて帰れないかもしんない。
現実には誰が目にする訳でもないのだけど、辞世の句くらい残しておこうかなどと考えつつ、いざ研究所に乗り込んで受け取った依頼はあまりにまともな内容だったので拍子抜けした。
曰く
毎日、ここへ通って、その日あったこと、思ったことを何でもいいから、語って記録せよ。
まぁ、そういうことなら・・・と思いながら用意された端末の電源を投入。
やがて表示された画像を見て私は飛び上がった。
「な、ななななななななななななな。」
そこに映っていた画像は、アニメ風にディフォルメされてはいるが誰がどう見ても私だ。
金魚の様に口をパクパクさせているだけしかできない私に、後ろに立っている我が従姉妹殿がこう告げた。
「このコンピューターの中にあなたをもう一人作る。
基本は出来ているんだけど、もっといろんな経験をさせて一人の人間として活動できるところまで、このMEIKOをあなたに育ててもらいたいの。」
「よろしくね、メイコ。」
モニターの画面の中で、ぺこりとお辞儀をして見せたMEIKO。
「あぅあぅあぅあぅ・・・・・・・」
とりあえずこの日はそれだけで終わった。
家に戻って、ビールの缶を一気に空にして一息ついたが、まだ頭も目の前もグルグルしてる。
ああ、だめだもう寝よう。

「VOCALOID・・?」
「造語です、メイコ、VOCALANDLOIDを縮めた。」
「めーちゃんでいいよ、で何を話せばいいの?」
翌日、私は契約どおり研究所に来ている。
今日は散々だった、頭が回っているとは言い難い、その原因を目の前にしている。
正直言うとAI?何それおいしいの?・・・な世界の住人だし、そのことに興味を持ったこともない。
だから用件だけさっさと済ませてしまいたかったのが本音だったが・・・・。
「全部、・・・です。」
「は?」
「つまり昨日から今まであった事、感じたこと、全て・・・。」
「ちょっ・・・・何時間かかると・・・・・・・。」
「でも必要なことなんです、メイコ。」
MEIKOは今までの自分の事を話し始めた。
自分がバーチャルアイドルとして製作されたプログラムであり、一定の人気もあった事。
確かに噂くらいは聞いたことがあった気がするけど、自分がモデルになっていたとは夢にも思わなかった。
ちょっとした仕草まで(・・・・と言っても画面の中でだが)確かに私そっくりだ。
そのナイスバディを除いては。
「ちなみにアンタの歳っていくつなのよ。」
「はぁ、製作開始は6年前ですが、データ上は16才となっています。」
まぁ確かに16才でそのカラダは反則よね、いろいろとニーズもあるでしょうよ。
「現実には、あたしゃかなり年上のおばさんって訳ね、はははは・・・」
力無く笑うわたしにかまわず話をつづけるMEIKO。
「そうなんです。永遠の16才じゃだめなんです。」
「へ?、いいじゃんそのままで、ニッチマーケットをキッチリ確保できるんだから、食いっぱぐれもないし、立派に特技だと思うよ、羨ましいくらい。」
「そこなんですよ、メイコ。」
「だから、めーちゃんで良いって、そんなとこはプログラムなんだから。」
「はい、では・・・めーちゃん。
あなたの指摘のとおり、このままでは市場範囲が狭すぎてライバルの登場で直ぐ売れなくなるんです、ただのプログラムとして入力されたとおりに音声を出力し適当に受けの良さそうな画像を付けているだけで誤魔化しきれなくなっていく。」
なんだこいつ、本当にプログラムなの?、こんなに理路整然と・・・・まさか、この会話を予想して・・・・な訳無いか、?いやいやいや、あの天才従姉妹殿のことだ有り得るかも。
あるいは、実は隣の部屋でモニターしていて、喋っているのはアイツだなんてオチは・・・・。
そんなことを思い巡らせながら、感情の無い機械音声で話し続けるMEIKOを見つめる。
「プログラムである私に決定的に欠如しているものを獲得しないと・・・」
「それが感情だと?」
「はい、VOCALOIDである以上、歌で感情を表現できなければ進化は見込めない、緩慢な死を待つのみです。
わたしは削除され忘れ去られるでしょう。」
「賭けになるわね。」
「確実な成功など存在しません、少しでも確率が有るならそこへ向かうだけです。
あなたの経験は既に一部わたしのデータベースに記録されていますが、まだまだ感情や行動を構成するには不足しているようです。
もっと経験をたくさん記憶して・・・・・。」
「ちょい待ち、アタシの記憶が一部入ってるってどういうこと、いつの間に、どうやって。」
「はい、70日前の日付になっていますが、一週間かけて記憶データを構成したとの記録があります。
これは・・・・・、めーちゃんは何か特別な職業に就いていたわけでもないのに、なぜ自白剤に耐性があるのです。?
一週間も連用したら普通は後遺障害で廃人同様になるとの検索結果が得られています。」
確かに2カ月前だよ、1週間生死の境をさまよったのは。
「ぁぁぁああんのぉぉぉぉぉぉぉやろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぅ、スタッフも口を濁すはずだよ、たあぁぁぁだぁじゃぁぁぁぁぁぁぁおかぁねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ。」
などと吼えていたら、件の人物が乱入してきた。
「ぅうひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ。」
「ああってめー、ココであったが100年目ぇって、うわっ。」
「めーひゃーーーーん、あいひてぇええ・・・るぅーーーーーーーーーっ」
がっしり抱きついて、ゴロゴロと懐かれる。
「だあぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ、鬱陶しい。暑苦しい、いい歳ぶっこいてぇ懐くなあぁぁぁぁぁぁぁ。すりすりじゃねぇぇぇぇ、猫かおめーわっ・・・・・・・・って、くっせぇぇぇ、酒くせぇえ、寄るんじゃねえ。
・・・ひゃあんっ!。」
いきなり耳の後ろの首筋に舌を這わされて、変な声を上げてしまった。
「な、ななななななななななななな・・何をっ」
「うふぇふぇふぇふぇふぇ、めーひゃんの弱点はぜーんぶ知ってるのらーーーーーー。ふひゃり愛し合った仲ひゃナーーーーイ。」
「こらあっ、いろいろと誤解を招くような事言うなっ、MEIKOだって見て・・あんっ。
やっ、止めなさいよ・・・・んっ、やめ・・・て。」
「うひっ・・・・・、めーひゃんの手料理食べらいなぁ、作ってくりぇりゅなら止めてあげりゅよーーーん、れもぉらめなら、このままめーひゃんを食べひゃおうかなあ。」
「だーーっ分かったから止めてっ。」
「ビクトリーーーー。」
くすくす笑って「仲が良いんですね。」と呑気にのたまうMEIKO。
「ねっ、早く早くぅ、卵焼きがいいにゃあ。」
うううう、くそぉ優柔不断な自分が憎い。
・・・・・・とか思いながらも、せっせと用意してやっている自分が・・・、えぇいこうなったらヤケだ、いい酒飲みやがってあたしも飲んでやる。
「んーーーーーーーーーーーっ、おいひーーーめーちゃんの手料理はやっぱサイコーらねぇ、どーして嫁の貰い手がないかねぇ。」
「おめぇも同い年だろ、人の事言ってる場合か。」
「あたしはいいのーーー、仕事に生きる女なんらもん。あ、そうだ、私が貰っちゃえばいいんジャン。」
「・・・おめー頭沸いてんのか、いつの間に女捨てたんだよ。ほれ・・・・里芋の揚げ煮と焼き茄子。」
「茄子うめーー里芋うめぇーーーーーーーー、やっぱめーひゃんわぁ私のお嫁さん。」
「だから抱きつくなーーーーーーーーーっ」
「ちぇーーー、愛の告白なのにぃ。」
「へべれけで愛を語られてもねぇ」
いや、確かにMEIKOとの会話用にあてがわれたこの部屋は、実のところカウンターキッチンやトイレ、ユニットバスまで完備され、ソファにバーカウンター、キングサイズのベッドまで備わって、ワンルームとは言えかなりの広さだ。
大袈裟な端末機器やあちこちに隠しカメラがあることを除けば、高級なマンションと言ってもいい作りになっている。
要するに日常生活をMEIKOに観察させようという事なのだろうが、アツアツの新婚夫婦の新居・・・・・・。
ん、?・・ってことは。
「うひひひひひ、気付いたみたいらねぇ。
この部屋の鍵わぁ、ワラシとめーひゃんしか持ってないんだよねぇーーーーーーー。
元のマンションはぁもう解約ひてあるし、荷物はさっきうちの倉庫に降ろしといたよん。
だから明日からはココから出勤してね。」
ちっ、こんな単純な罠に気づかないなんて、私もヤキがマワッたわ。
「ぅぅうひゃっひゃっひゃっ、仕込みはぁまんぜんらぁーーーーよぅ。」
ずいっと顔を近づけられてふらふらと後ずさる、あれ普通に立てない。
「ふえっふえっふえっ、効いれひらみらいだねぇ。」
いつの間にかベッドのところまで追い詰められ、肩をつかまれているのに、抵抗しようとしても体に力が入らない。
興味津々の表情をしているMEIKO。
「今夜は寝かへてもらへぇるんれひょうれぇ。」
呂律も回らないようになりながらも精一杯の強がりを口に出してみる。
そのままベッドに押し倒された。
「やっ、!!・・・さしく・・・・・・・・・・ね。」
あぁ、もう私お嫁にいけない、お父さんお母さん先発つ不幸をお許しください。


1/3おわり 

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

VOCALOID MEIKO 第一部”メイコとMEIKO” 1/3

閲覧数:357

投稿日:2009/05/06 17:53:19

文字数:4,772文字

カテゴリ:小説

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