……むかし、むかし。
あるところに、漆黒の翼を持つ天使がいましたとさ。
天使はまるで自分の居場所を探すように、
毎日のように下界におりて、人間達を見つめていました。
これは、そんな天使の、ある日の、お話。
―――ひらり。
「あ」
黒い翼から、一枚の羽が落ちた。
…それは仕事の時間の合図。
私は悪魔の巫女。
人間の言葉でいうのなら、『死神』といったところだろうか。
落ちていく羽に導かれて、死にそうな人間のところへ行き、
人の器から離れた魂を狩り、蒼穹へと連れて行く。
…けれど、良心など痛まない。
私には心などないのだし、なにより私が相手してきた魂はいつも囚人や罪人ばかり。
最初の仕事相手は、脱獄囚の魂だった。
脱獄したのはいいものの、深い森の闇に囚われて結局餓死した。
10年以上牢獄にいた囚人には夢などなかったし、酔いもすっかり醒めていた。
私の姿を見て小さく震えながら「死神だ」と一言呟くと、魂はその器を後にした。
前回の仕事相手は、海賊の魂だった。
何人もの命を奪って海に揺れていたけれど、結局自分も蒼い海の底に沈んでいった。
海賊の服には血の匂いが染み付いていて、当人はかなり泥酔していた。
私の姿を見てにやりと笑みを見せると、「天使だ」と言ってその器を後にした。
こんな狂った人間達の魂を狩るのに、躊躇いなどいらなかった。
今日の相手は誰かと目を凝らせば、羽は予想外の場所に落ちた。
「病院…?」
其処は、真白な壁と輝く硝子の窓に包まれた病室だった。
様々な医療器具に囲まれたベッドの中では、美しい少年が眠っていた。
黒い羽は感情も持たずにその少年の脇に落ちた。
「…ただの病人じゃない…」
少年は、今まで相手をしてきた囚人や罪人ではなかった。
不治の病に侵されて眠っている、不運な人間だった。
ずきん、と、心が痛む音がした。
「…ごめんね」
そう呟いて少年の額に唇を落とすと、少年は静かに瞳を開いた。
少年の周りでは奇跡的な回復だと医者達が驚いていたけれど、
少年は私だけを見つめていた。
…そして、
「悪魔」
と一言呟いて、私を睨みつけた。
もう一度その少年の額に口付けると、少年は息を引き取った。
私は浮き出た魂を抱えて、蒼穹に放った。
―――リン、リン。
冥界に、静かな鈴の音が鳴り響いた。
これは新しくこの世界にやってきた魂を迎え入れて起こす音。
「…あの男の子も、きっと起きたよね」
声をかける相手も無く、私の言葉は風と共に消え失せた。
…あの少年は、まだ私を覚えているのだろうか。
そんな小さな疑問が頭の中を廻らせた。
なんとなく子守唄が聴きたくなって、私はかすかに唇を開いた。
――眠れないこの世界に、子守唄など存在しないはずなのに。
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