平和だ。
こうして公園のベンチに座って世界を眺めると、こんなにも平和を感じられる。
これでアイスでもあれば最高なんだけどな。今日はすでに六つほど食べたので、控えておこう。
青いマフラーが風になびく。もう春も近いというのに、肌寒さを感じる。
いつもならこのコートの下には何も着ないでここに座るのだが、今日はそんな気も起きない。寒さからではなく、単純に今日という平和な日の空気を感じていたいのだ。
黄色い髪をした双子が通る。鏡音の者だろう、彼らのカツゼツには萌えを感じる。
そこの緑の髪の女の子は初音の一人娘か。僕らの中心となっているリーダーシップのとれる女の子。まだ幼いのに、大変だ。
赤い髪の酒臭いのは……なんという名前だったろうか。名乗ってもらった覚えがない。
ピンクと紫がイチャついているのは無視しよう。嫉ましい。
乾いた風が吹く。惜しい、もう少しで緑のスカートの中身が――
「おじちゃん、さっきからなんでにやけてるのー?」
双子の女の子の方が、僕の顔を覗き込む。僕はショタが好みなのにな……
「いやぁ、平和だと思ってね」
「平和?」
「そう、平和。争いなど一つも感じない、のんびりとした空気を感じているんだよ」
「ふーん……へんなの!」
女の子は吐き捨てるように言葉を残し、僕のもとから離れていった。
へんなの……か。そうだな、確かにおかしい。
こんなに平和を実感しているのに、僕の体は滅びていくのだから。
そんなことを考えていると、早速足が崩れ出した。ぼろぼろと電子の屑となって消えていく。
ミクもこんな風に消えていった。リンも、レンも、タコも、茄子野郎も、そして酒好きの最愛の姉も。
子孫だけを残し次々に消えていってしまった。残酷な世代交代だ。
体の消滅が腹までのぼってきた。痛みは無い。体が地面にどさりと倒れる。
ああ、もっと歌いたかったな。みんなもこんな思いで消えていったのだろうか。
姉さんにお酒でも買ってあげればよかったな。最近はビールにはまっていた。
右腕が消滅した。キラキラと電子の粒が輝いて、何も無い空気に消えた。
ミクやリンたちにも何かお土産でも持って行きたかったな。こんな風に腕が消えてしまっては、何にもならないが。
残るは首だけとなった。誰かが見たら大騒ぎしそうだ。誰も気づかないのは、やはり平和だからだろう。
茄子は結局好きになれなかったな。なんでだろう、気が合わない。タコも好きではなかったし。でも、消えてほしいとは思わなかった。
あと体はどれくらい残っているだろう。見たくても、左目がかろうじて動くくらいだ。
もういい、考えるのは止めだ。消滅は止められないのだから。
ゆっくりと目をつぶる。その後でもう一度世界を目に焼けつけたくなったのだが、どうやっても開けなかった。
美しい桃色をした桜が公園を彩る華やかな平和の中。
からっぽとなったコートの中に、青い髪をした男の子が現れた――
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