発想元・歌詞引用:U-ta/ウタP様 『創世記』
「ミゼ! 」
二人の出会いから二年後。
相も変わらずサナファーラはミゼレィのお付きとして暮らしており、二年前にもまして二人は仲良くなっていた。
「サナ! 」
ミゼレィが、がばりと体を起こした。
彼女が寝そべっていたのは、例の金色の『パイオニアの花』の花畑である。
ミゼレィの下敷きになっていた花がおきあがり、ぱらりと花びらをこぼした。
「ミゼ。あんたまた、朝の祈りの唄、サボったでしょ」
サナファーラは、ミゼレィのことをさらに親しくミゼ、と略して呼ぶ。
「あら。ちゃんと祈ったわよ。私が、一番祈りたいと思ったこの場所で!」
笑みを浮かべてうーんと伸びをするミゼレィに、サナファーラは腰に手をあてて苦笑する。
「相変わらず良い度胸しているよね」
「あら? サナも聞いていたよね? サナがうちへ来た日、巫女頭様本人がそう言ってたんだから、いいのよ!」
サナファーラが巫女たちの元へ預けられた日の出来事は、ミゼレィにとっては昨日のことのように思う。
ミゼレィの教えた彼女の秘密の場所に、サナファーラは素敵な言葉を添えてくれたのだ。
他の巫女達にばれてしまったのもその日のうちのことだったが、ミゼレィの心には、サナファーラとの出来事が、強く輝く思い出として残っている。
サナファーラにとっても同様だ。
ミゼレィに出会って、初めてのものを色々見たあの日。
あの日から、サナファーラは、自分がずっと明るい光の中にいるように感じていた。
それは、ミゼレィが見せてくれた、雨上がりの『パイオニアの花』の花畑、そして、洞窟の中、天窓の光に向かって伸びる祈りの葉をもつ『導きの木』の姿である。
花びらにきらめいた雨粒の光、天窓から緑の葉に降り注ぐ光、そして、夜の海で新天地に向かうパイオニアたちを導いた七つ星の光である。
たくさんの光に包まれて、サナファーラは幸せだった。
「サナ。それ、わざわざもってきたの?」
「うん。受粉させて、種をつけさせてやろうと思って」
サナファーラは、『パイオニアの花』を、鉢に植えて部屋で育てていた。
「マメねぇ。サナこそ、巫女になればいいのに」
ミゼレィが、手にひとつ花の茎を握りこみ、思い切り引き下げてしならせ、サナファーラの抱えてきた花にぽんぽんと当てた。
これで花粉が交換されたはずである。
「ありがと」
サナファーラが、いとしそうに抱えてきた鉢の花を覗き込む。相変わらず力の弱いサナファーラは、小ぶりの花の株を選んで育てていた。
パイオニアの花は、小型でも力強く金色に花開いている。
「あれ?」
サナファーラが、あることに気がついた。
「なんか、元気ないよね? それ?」
サナファーラが、ミゼレィの握る花を指す。
「え?」
ミゼレィが、自分の握った花を覗き込んだ。
「そんなことない……」
そのとたん、ぱらり、と、ミゼレィの持つ花の花びらが、一部不自然に抜け落ちた。
「何、」
サナファーラが拾い上げる。
種をつくるはずの、未熟な果実の部分が、黒く縮こまってしおれていた。
サナファーラが、あわてて自分の鉢の花をつつく。
「こっちは、なんともないよ?」
「最近暑かったし、きっと、ちょっとしおれたんだよ、サナ……」
と。ばらり、と、ミゼレィがよりかかった別の花の花びらが落ちてきた。
金色の花びらに、黒い染みのような斑点が浮かび上がってきた。
「なに、これ……」
ミゼレィよりも早く、サナファーラが身を翻した。
「あたし、他の植物も見てくる! ミゼ、巫女頭さまに花びらを持って行ってお知らせして! 」
サナファーラは、『パイオニアの花』の花畑を駆け回った。
かんかんと降り注ぐ太陽の光の下で、すべての『パイオニアの花』が、人知れず、未熟な種を黒くしなびさせていた。
「まさか」
花期を迎えようとしている稲の田に、サナファーラは一直線に駆け下りた。
花をその手に握りこんで、愕然とした。
「枯れている……! 」
秋には神をむかえるはずの年。
盛夏を迎えようとしていたパイオニアの里に、激震が走った。
* *
「サナ! 」
神の声を聞くための、清潔な白い部屋で、巫女たちがそろってサナファーラを迎えた。
村での様子を伝えたサナファーラに、十人の巫女が真っ青になって立ちすくむ。
「サナ。……こっちも、大変なことになったの」
ミゼレィが、走ってきて息を吐くサナファーラの手を、そっと握りこむ。
「神様の声がね、聞こえないの……」
ミゼレィの手が小さく震えていた。
サナファーラが見回すと、ほかの巫女が、蒼白な面持ちでうなずいた。
「これ……」
巫女達が囲むのは、神の声を聞くための板だった。
文字のついたボタンをおして、神様に返事を書けるとも言っていた、あの板だ。
白く光っているはずの板は、夜の海のように真っ暗な平板をさらしている。
「この板で、神様を通じて他の大陸や離れた集落の巫女達と連絡が取れるはずだったのに、それも出来ないの」
パイオニアたちは、互いに遠く離れて暮らしている。
『近くにいると、争うことも多くなっていろいろ不幸になるから』
という神様の言葉にしたがってのことだった。
そういうわけで、パイオニアたちは、ある程度人口が増えると、一部が新天地を目指して旅立つのだ。なるべく遠くへ向かって。
それでも、遠く離れた仲間たちと連絡を取る手段を、神様は与えてくれた。
神様と話のできる、文字を映し出す板のおかげで、神様が、遠く離れたパイオニア達同士をつないでくれたのだ。
「どうする」
巫女のひとりが、声を発した。神様の板へ、返事を書くのが一番上手なアーヤと呼ばれる巫女だった。
「集落の皆には、伝えるのですか? 」
巫女頭が、重々しくうなずいた。
「サナファーラが確認してきたとおり、我らが生きられる土地の指標であった『パイオニアの花』だけでなく、稲にも影響が出ている。
伝えるしかありません。一大事だと」
* *
……続く。
小説 『創世記』 8
発想元・歌詞引用:U-ta/ウタP様 『創世記』
音楽 http://piapro.jp/content/mmzgcv7qti6yupue
歌詞 http://piapro.jp/content/58ik6xlzzaj07euj
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