"Sew fa-to Uryu hi fo-a nya?"
"私の声はそちらに届きますか?"
「どういうことだ!」
さっきから聞こえるのは怒声ばかり。彼の叫び声は、広い自室の外からも聞こえるほどで、それだけの事があったのだと、容易に察しがついた。
本来は、立ち寄ってはいけない国王の自室なのだけれど、雪菫の少女と囃(はや)されているのを利用して、たまに前を通っていた。すこしでも、彼の近くに居たいと思う、そんなささやかな恋心から。
今日もまた、ここを通る。すると、聞こえてきたのだ。最初はただの騒音。けれど、自室に近づくにつれ、その音の主が賢帝のものだと気付いた時、思わず来た道を戻ろうかと思った。
ここに居てはいけない。そんな気がしたから。
今もまだ、彼は怒鳴り続けている。
「あの国め…。きっと知ってるはずだというのに……!!!」
あぁ。やっぱり。
やっぱり。彼はあの娘(こ)の事を考えていた。だから居たくなかったのに。聞きたくなかったのに。
東の国へ、あの娘の病を治す方法を教えてくれと頼み込んでるのは知っている。上手くは、いっていないようだけれど。歌姫の容態は悪くなるばかり。不治の病を治す方法など見つかるわけなど無いのに…。けれど彼は探し続ける。そうして、自分の心がどれだけ削れているか、あなたは気付いてる?
見たくない。彼のこんな姿。そうさせたのは、他でもない彼自身。でも、きっかけを作ったのはあの女。
――いけない。こんなことばかり考えるのは。
悪口、というほどではないけれども、こういうことを思うのはあまりよくないと思う。自分に返ってくるものだから。もっとも、そんな私はいろんなものを斬り過ぎているのだけれど。同時に、被り過ぎてもいたし。
とにかく、これ以上ここに居るのはよくなさそう…と、足早に私は去ることにした。割り当てられた自室に戻ってから息をつく間もなく、彼に呼び出されることなど知らずに。
"Sew fa-to Uryu hi fo-a nya?"
"私の声はそちらに届きますか?"
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或る詩謡い人形の記録 9 -雪菫の少女-
※この小説は青磁(即興電P)様の或る詩謡い人形の記録(http://tokusa.lix.jp/vocalo/menu.htm)を題材にした小説です。
ヤリタイホーダイ(http://blog.livedoor.jp/the_atogaki/)というブログでも同じものが公開されています。
こちらの方が多少公開が早いです。
始 http://piapro.jp/content/0ro2gtkntudm2ea8
前 http://piapro.jp/t/nreJ
次 http://piapro.jp/t/bIiq
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