グモが私の唇に舌を入れるときだった。
「何してんだよ!」
ガラッ、と、教室のドアが開く。
「ルキ!?」
走ってきたのか、息を切らし、肩を大きく上下させるルキが居た。
ルキが私の格好を見て、大きく目を見開いた。
「お前・・・!ふざけんなよ!!」
「!?」
ガッ、と、鈍い音が響き、咳き込みながらグモが倒れる。
「俺がめぐみに手ェ出したんだ!ルカは何にもやってねぇだろ!全部俺の責任だ、ルカまで巻き込むのはやめろ!!」
「・・・よくも」
グモが起き上がる。
「よくもそんな偉そうな口が叩けますね・・・一人の女性を孕ませた事、共に命を絶とうとした事、さらに二度と子供を身ごもれない体にしてしまった事が、どういうことか分かりますか?貴方は・・・貴方は人の人生を狂わせたのですよ?」
ルキがぐっ、と下唇を噛む。
「・・・確かに、俺はめぐみに悪い事をした。いや、悪いどころじゃない、お前の言うように、俺はめぐみの人生を狂わせた。どう責任を取っていいのか分からない、もはや責任の取り様が無い。お前がめぐみを大切にしているのはよく分かる。・・・俺に復讐したい気持ちも、俺だけでなく、ルカにまでも怒りが湧いてくる気持ちも・・・けどなぁ」
ルキが私を抱きしめた。
「こっちだって妹が大事なんだ!弱味握って度過ぎたことしてんじゃねぇ!!」
ルキ・・・
涙が、ルキのシャツに滲んでいく。
「・・・格好つけて。僕はもう帰ります。あ、納得したわけではありませんから。このままで居られると思わないように」
グモは私達二人の顔を見比べてから、教室を後にした。
「ルカ・・・ごめんな、俺のせいで」
ルキは、私を抱きしめていた腕の力を緩めた。
「ううん・・・それより、ありがと・・・・」
いつも喧嘩してばかりなのに、今はルキがすごく頼りに思えてくる。
「何にもされてない・・・よな?」
「うん・・・少し、触られただけだから。それより、早く帰ろう?」
「おう・・・」
私達は学校を出て、ルキの車に乗った。
ルキが車を運転しながら呟く。
「あいつ、元気か?」
「え?」
「めぐみ」
「あ、うん・・・あんまり話せないけどね、元気だよ」
「そうか・・・」
やっぱり、気にしてるのよね・・・めぐみのこと。
「何か学校で言われたらごめん・・・いや、言われてるかもしんねぇけど・・・」
「大丈夫よ。私、嫌われるのは慣れてるから!」
ルキに心配をかけないように、笑顔で言った。
「ん・・・ありがと」
ルキが笑って言った。

「ちょっとー!何!?あのグモ君のケガ!!」
翌日。
学校に来ると、グモの頬には、昨日殴られた後の、絆創膏も湿布も何も張られていない赤黒い膨らみがくっついていた。
（せめてなんかで隠すとかしなさいよ!）
「まさか・・・喧嘩!?」
「あのグモ君が!?嘘でしょ!?」
珍しく、めぐみが傍にいない。
「ちょ・・・ちょっとグモ!こっち来なさい!!」
「は?」
あまりの傷に見かねて、グモを保健室に連れて行った。
「先生居ない・・・」
私は棚から薬箱を取り、その中から湿布を取り出した。
「座って」
「いいですよ別に・・・舐めときゃ治ります」
「いいから座れー!!」
私が一喝すると、グモはしぶしぶ椅子に座った。
「腫れてるじゃない・・・もー・・・・」
私はグモの頬を触った。
「痛ッ」
「あ、ごめんなさい」
グモは涙目になった。
「ていうか、昨日そんなに思いっきり殴られたの?」
「じゃなかったらこんなに痛いのは何でだと思います?」
「あー動かないでね」
私は湿布をグモの頬に張った。
「冷た!」
「湿布は冷たい物なのよ」
笑いながら私は言った。
なんだ・・・
（湿布で冷たい、まで言うなんて・・・）
「可愛いじゃない」
「!?」
心の声が漏れた。
「は・・・は?は?」
グモの顔はみるみるうちに赤くなる。
「いや、ただ可愛いところあるんだなーって思っただけ」
「・・・・」

ちゅっ