なんて人間はちっぽけなんだろう。なんて思うことがある。何で? という疑問がたくさんある。すべてにおいて、すべての疑問があるような気がする。鳥はなぜ飛ぶことができるのか。魚はなぜ水で生活するのだろうか。このような物質的な問題は、パソコンでカチカチすれば解決するだろう。なのに、私が存在するのはなぜか。という疑問は、誰も答えを教えてくれない。誰も知らなかったのだ。
 私は十四歳のとき、記憶喪失になってしまった。



 私はレイカ。香我美(かがみ)麗(れい)華(か)。私立の白波高校に入学することになった。推薦入学だ。
 住んでいるところから高校は遠かったので、近くのアパートに引っ越をした。近くといっても、三キロぐらいは離れている。お金は、学校側が負担してくれる。推薦だけあって、国がお金を出してくれるそうだ。まあ、いずれは払う借金ですが。
 四月二日。
 アパートの前に止まっているタクシー(通学手段であり、契約をしている)に乗り、学校へ向かった。自転車やスクーターで登校してくる生徒が多いようだ。白波高校は特に通学に規制はなく、どんな通学方法でもいい。制服は白のシャツに薄桃色のリボン。その上から紺色のベストを羽織る。スカートは紺と青のチェック柄。丈は膝が隠れる程度と決まっている。これはについては、一年生の制服で学年が違うと色が変わるらしい。しかし、学校に行くまでに見たのは、リボンの違いだった。私と同じ桃色。それから赤。そして、桃色と赤の縞々。の、三種類だった。身に着けているものは、電波腕時計、学生証、ビジネス手帳の三つ。校則で義務付けられている。白波高校では、時間が絶対である。三分の誤差は許されるが、それを過ぎると内申点に大幅な傷がつくらしい。入学から一か月は、五分まで誤差が許されている。私は、登校時間内に学校に着いた。八時から八時十分の間につかなければならない。時間が決まっているのは、この学校の部活に朝練がないから。スポーツよりも、学問に力を入れているらしい。
「帰りも、お願いします」
 私はそれだけ運転手に言い残し、玄関へ向かった。時間は八時二分。計算道理のタイム。
 校内に唯一生えている大木。桜の木は、リボンと同じ色に染まっていた。
 時間道理に入学式を終え、ふうとため息をつく。ため息は疲れたときに使う。私は疲れていないのだが、周りの人は疲れているようだったので。一時間の自由時間ができた。バックから、『竹取物語』を取り出す。原文と訳文が載っている。最も古い小説だが、なかなか興味深い。
本を読み始めて、三十分が経った。
 本をぱたんと閉じる。その時、誰かが肩をたたいてきた。後ろを振り返ると、ひとりの男子がいた。そのまわりの男子が囃し立てている。
「ヒューヒュー。頑張れ~マサトシー」
「うるさい!」
 おそらく、この「マサトシ」というやつの行為が世間でいうナンパというものだろう。この学校の生徒は、頭がいいはず。だが、馬鹿な奴もいるみたいだ。私に声をかけるなど、いい度胸ではないか。私はわざと首をかしげた。
「あの、えっと…」
「手、どけてくれないかしら」
「あぁ、ごめん」
 彼の手のあった場所に、チョークの白い粉がついている。黒板に、すごく下手な絵が描かれている。おそらく、彼が描いたのだろう。
「あわわ…ほんとごめん」
 ハンカチで拭こうとした彼の手を、はじく。
「いい。自分でやるから。用がないなら、どこかへ行ってくれる? 私、本が読みたいの」
「………」
 彼は黙ってどこかへ去った。たぶん、あの囃し立てていた奴らのもとにでも帰ったのだろう。また後ろで騒いでいる声が聞こえる。本を読む時間を五分もロスした。残りの二十分は、平家物語でも読むことにする。


「本当に時間ぴったりなのかい」
「はい。うちまでお願いします」
 アパートに着いたとき、後ろで何者かの気配がした。ゴミ箱の影にそっと隠れる。
「あれ~?」
 どこかで聞いた声だ。そう、マサトシというやつの声だ。
「おかしいな~」
 奴がゴミ箱の向こうに行ったとき、背後にそっと立つ。
「あの」
「ひ!」
 ビクンとしてこちらにふり向く。クルミのような真ん丸な目に、ウルフカットの髪。元から大きい目は、さらに大きくなっていていた。こいつが跡を追ってきた犯人だ。こいつには、訊かなければいけないことがある。
「私に何か用?」
「あの…いや…えっと…」
 少々の沈黙。破るべきである。こんな沈黙。こいつは私の質問に答えていない。もう一度訊く。
「私に何か用?」
「………」
下をうつむいたまま、何もしゃべらない。
「もう、ついてこないでね。私はあんたと関わりたくない」
 作り笑いをし、階段を上る。ストレートロングの髪が目にかかる。腰近くまで伸びている。前髪が少し鬱陶しく感じる。明日は髪留めを買いに行かなければ。マサトシは、きた道を走って帰って行った。
 2LDKの部屋は、一人暮らしでは広い方らしい。リビングにはテレビが一台、ガラステーブル、ピンクのマット、赤チェックの二人がけソファア。ごく一般的。自分の部屋には、特に机以外はない。とても殺風景である。花でも一輪、添えなければ。いつもはリビングで過ごすので、部屋は必要ないぐらい。課題もリビングのガラステーブルがあれば、一時間もあれば終わる。
「ふう~」
 久々に疲れた気がする。さて、今日の課題をやらなければ。


 赤い意図


 休憩時間は有効活用するべきである。…と誰かから言われたことがある。残り休憩時間は十五分。気になる本も特にないし、やることもない。とりあえず机にうつぶせてみる。いつもはすぐに、何かやることが思いつくのに…。寝不足だろうか。いやいや、ありえない。昨日は六時間も寝たのだ。
「なに俯せてんの? 寝不足か」
 あ~あ。またこいつか。入学して早一週間。マサトシはいつも私に近づいてくる。今までの経験から言うと、こういう時は、まず無視するのが有効ではないだろうか。
「…」
 無視はけっこう効果的なようだ。やっと学習したか。
「ねえ。いま暇?」
 どうしようもない奴だな。私には手に負えません。あんたみたいな学習能力のない奴は。
「暇だったらどうするつもり?」
 俯せたまま訊く。顔をあげたくない。こいつにかかわると、碌なことがなさそうだ。だからいつも、こいつだけは避けている。とくに。
「レイカに朗報が一つあるんだけど」
 朗報? おそらく、日本語の使い方を間違えている。朗報とは、嬉しい知らせのこと。私は嬉しいことなんか、ない。でもまあ、一応訊いてみる。
「なによ。朗報って」
「昨日、レイカのポストに変な奴がいたんだ」
 朗報の使い方が間違っている。
「そいつがさ、ポストから赤い小さな小包を出していたよ」
 一つ、訊いておかなければ。
「何で、あんたが、それを、知っているの」
「なんでって、それは…偶然通りがかっただけだよ」
 表情が読まれやすいやつは損をする。これも誰かが言っていた。誰だったっけな。
「その変な奴は一体誰」
「わかんない。眼鏡をかけていて、制服だった。たぶん、一年生。周りをキョロキョロして、あっという間に走って行ったよ」
 …泥棒か。面倒ね。
「ぼくもポストを見たけど、盗まれたもの以外は何もなかったよ」
 バシッ。教室中の目がこちらに向く。私の手には分厚い教科書。日本史の教科書は、ちょっと重い。
「人のポストは、見るもんじゃないわよ」
 無理やり作り笑顔をして見せた。おそらく、私の周りには赤、または黒のオーラが出ていたかもしれない。
「で、そいつはどこに向かって走って行ったのかな?」
 体勢を保ちながら訊く。
「駅の方に行ったよ。たぶん…」
 ほら。こいつにかかわると、碌なことがない。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

記憶のカケラ 投稿用 プロローグ


初心者なので、上手ではないです。

今、どんどんかきつづっています。二万文字ぐらいですかね。今のところ。

どんどん更新予定デスw

よろしくお願いしまーすw

閲覧数:40

投稿日:2012/09/04 17:46:15

文字数:3,205文字

カテゴリ:小説

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