[第6話]~たったひとりの
姉さんは私の誇りだった。
この町では有名な、呉服鏡屋。
有名な訳は、鏡屋自慢の娘にあった。
働き者で気立てが良く、その上料理の腕も大層なものだった。
当然のように縁談は掃いて捨てるほどあった。
”お凛”だ。
私の二つほど年上の、たったひとりの自慢の姉。
お凛のお陰で、鏡屋は繁盛しているし、姉さんが店を継ぐことは確実だった。
誰もが、将来が楽しみだと言った。
ある春の夕暮れのことだった。
私と姉さんの二人で、行きつけの菓子屋の「霧岐屋」に行った帰りだった。
その日は、私の我儘で農村の近くまで道草をくっていた。
二人ともが好きな饅頭と、両の親が好きな団子を風呂敷に包んで。
ふとお凛が歩みを止めた。
「姉さん?どうしたのですか?」
真剣な顔をして、少し離れた竹藪を見る姉さん。
「連、少しの間、ここで待っていなさい。」
私の目線に合わせて言い聞かせると、すぐに竹藪へ駆け寄った。
少しして戻ってきた姉さんは、可愛らしい女の子をおぶっていた。
* * * * * * * *
鏡屋に戻ると、お天道様はもう西へ傾き果てて見えなくなっていた。
お凛が拾った女の子は、自分を「みく」だと名乗った。
聞くとお武家の娘さんのようで、お付きの女中とはぐれたところに人攫いに遭うという災難だったそうだ。
何を話していいか分からず、とりあえず茶と菓子を出した。
霧岐屋で買ってきて、姉さんと食べようと思っていた饅頭。
饅頭に多少の名残惜しさを残しながら、みくが食べる姿を見つめた。
「あの…、お名前は…。」
みくが口を開いた。
「ああ、失礼しました。鏡屋連といいます。」
「連さん…。」
微かに頬を染めて、呟かれた私の名前。
「別に商売の話をするつもりではなかったのだけれど、また鏡屋へ来て下さると嬉しいですね。」
深い意味を考えず、私はそう言った。
「どうしてですか?」
「家にきっとみくさんによく似合う、綺麗な緑の着物があるんです。それをお見せしたいと思いまして。今日は遅いですし。」
ぽ、と惚けたような顔を彼女がした。
「判りました。日を改めて、また来ます。」
みくさんがそう言うと同時に、
「みくさん、お迎えの人がお見えです。」
と、お凛とめい子が伝えにきた。
店先で彼女を見送り、座敷へ戻った。
「姉さん、みくさんはまた店へ来てくれるそうです。」
私がそう言うと、姉さんは優しく笑ってくれた。
その時は、大層嬉しかった。
* * * * * * * *
姉さんが病にかかった。
医者は今流行っている風邪だと言っていた。
確かに町では今、たちの悪い風邪が流行っていた。
でも、あんな医者が出した薬でお凛は良くなるのか。
いくら鏡屋が有名でも、流行り病のせいであちらこちらからひっぱりだこな腕の良い医者を呼べる、そんな金子があるほど大店ではない。
姉さんを診た医者は、名の知れた藪医者だった。
大人は、きっと良くなるからそれまで待っていなさいと、私を宥めることしかしない。
あの時はまだ、私も純粋で、両の親や奉公人たちの言葉を信じていた。
お凛が臥せって数日経った昼、店の様子を見て、お凛の部屋へ行った。
部屋には布団で苦しそうにするお凛と、めい子がいた。
なんだか、心底怖くなってきた私はそこから逃げ出してしまった。
お凛が死んだと聞かされたのは、その次の日のことだった。
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ご意見・ご感想
しるる
ご意見・ご感想
あうっ!
お亡くなりになってしまった…いや、そうなんだろうけど…
ここのリンちゃん(凛)は、リンちゃんという感じではなく、リンさんって感じの大人の女性!
なんかメイコよりも大人なイメージww
2012/03/17 11:01:03
イズミ草
死なないといけねえってのも悲しゅうございます。
でも、お凛がいないと話が進みませんし…。
一応、お凛は現代の年で14歳ぐらいの設定ですが、江戸の世は16,17歳ぐらいじゃないかな??
大人な感じにしたかったので、そう感じてもらえて嬉しいです。
少し遅れましたが、「緋色花簪」の読み方は、「ひいろはなかんざし」で合ってます。
2012/03/17 16:31:11