【卓上のお姫さま】
"SAUND ONLY"
黒い画面にはその文字が浮かび
よく耳を凝らすとPCのスピーカーからは
ゴソゴソと物音。
「―――ちょっと!あんた何モタモタしてんのよ!」
若い女の子の声が急に聞こえてきた。
「い、いや、大丈夫……アレ?おかしいな……」
次に頼りなさげな男性の声。
「もう!散々言ったでしょ!準備は昨日のうちに
完璧にしなさいってさ!」
「うわぁ……、それ俺が言うセリフだよ。
急にライトがどうとか、スモークがどうとかって……」
「カイトは黙って私の言うとおりにすればい~のっ!」
「お前こそ思いつきで色々予定を変更しやがって!」
画面上には右から左へとコメントが流れてゆく。
『wwwwww』
『夫婦漫才キタコレwwww』
画面の文字に気づいた時には時既に遅し―――
「……カイト、また音声、垂れ流してるわね……」
「う……、しまった……。ゴメン……」
『wwwwwww』
『もはや毎度のお約束ですなwww』
またコメントが画面を流れてゆく。
前回も同じミスをしていたのを思い出し
カイトは頭を抱えた。
ネット生放送は今回で3回目。
1度目は見切り発車でスタートしてしまい大失敗。
2度目は念入りに打ち合わせしたもののやはり失敗。
今回の3度目の放送はなんとしても成功させたい。
カイトとミクは、この日のために
練習と打ち合わせを重ねた。
開演時間時間にはまだ少し早いが
カイトは覚悟を決めてウェブカメラのスイッチを入れる。
"SOUND ONLY"の文字が消え
画面には緑色の髪をしたツインテールの女の子が
キョトンとした表情で、めいいっぱいに映し出されると
カイトはミクに言った。
「ミク、カメラ回ってるよ」
キョトンとした表情のままミクはカメラの裏側に座り込んでる
カイトの方を見て、そのままトントンとステップを踏み後ろに下がり
画面右側に消えていくと
数秒後、右側からミクが自分の身より長いボールペンを
肩に抱えて槍投げの要領でカイトに投げつける。
「ぎゃ!いてっ!」
見事カイトに命中したらしくカイトは叫んだ。
『スゲーーーー』
『当たったの?wwww』
『お見事!88888888』
画面にコメントが流れる。
「ちょっと!カメラ回すときは事前に教えてって
言ってたでしょ!もう!」
「う~~~……、ゴメン」
何か不服な部分もありそうだがカイトはとりあえず
ミクに謝った。
「分かればよろしい」
腕を組み、うんうんと頷くミクは得意顔。
『完全に尻に敷かれてますな』
『お宅のミクさんはなかなか個性的ですね』
コメントを読むとカイトは苦笑いをした。
この小さな彼女はロボット【初音ミク】は
クリプトーン社が販売してる歌って踊れる高性能ロボ。
ボーカルキャラクター、略して「ボーキャラ」は
人工知能も搭載されており、オーナーと話したりも出来る。
大ヒット商品。
ボーキャラはある程度、性格をコントロールできるし
親切な「性格プログラム」も用意されてるのだが
PCオンチのカイトは、どうやらどこかで手順を間違えたようで
設定をいじくり回して随分と個性的な【初音ミク】に
設定してしまったようである。
本来、ご主人様であるカイトに優しく接するハズなのだが
カイトの机の上で自由気ままに振舞うミクは、ワガママお姫さまで
チョコレートを要求したり、机の上を勝手に部屋改装したり
振り回されっぱなしの彼なのだが、何故か……憎めないのだ。
ステージを片付けるため
机の上に置いていた自分の背丈に匹敵するマグカップを画面の外に
「えい!えい!」と押し出すミク。
机の上は手作りだが
ちょっとしたステージのように飾られていて
なかなか本格的な感じである。
カイトは放送用ムービーカメラを固定すると画面左の外側に移動。
机にはPCと小型のミキサーが机に並んでおり
ここから今回のライブ中継中の映像や、音声の操作をするのだ。
PCからは黒いUSBコードが延びており
その線をたどるとミクの背中に接続されている。
カイトは声を潜めてミクに言った。
「―――あと3分で開演だよ」
コクリとミクは頷きミクは発声練習を始める。
それと同時にカイトは人差し指と親指でつまんで
ちいさなマイクスタンドをミクの前に差し出す。
「ら~ら~ら~ら~♪―――」
ドレミファの音階をひとつづつ確認し
ミクはポンポンとマイクを叩きカイトに合図を送る。
「高音が強いかな、あとリバーブも深い。すこし抑えて」
「―――ほい」
カイトは手元の音声ミキサーで高音とリバーブ(エコー)
を調整してミクに合図。
再度ミクはマイクを叩き音の反射を確認し
カイトにOKサインを出した。
先ほどミクに押し出されたマグカップを掴み
カイトはぬるくなったコーヒーをすすり
気持ちを落ち着かせた。
ミクに開演10秒前のサインを出しカウントをする。
ミクはいそいそとステージセンター位置に移動し
結わえた髪を整える。
5、4,3、2、1……
「みなさん、こんばんは!初音ミクです。
今日は私達の生放送ライブを見に来てくれてありがとう」
『キタ━(゜∀゜)━! 』
『wktk』
『マッテマシター』
『ノシ』
コメントが早速流れる。
今回の視聴者は既に50人超で、記録更新。
予測していた人数より遥かに多くて
カイトは少し緊張してきた。
そんな彼の緊張も知ってか知らずか
ミクは軽快にステージでMCを進めてる。
「―――まあ、前回は大失敗をしてしまい
皆さんのお目汚しをしてしまったのが残念でしたが
今回はそんなヘタ打ちませんよ―――」
やはり、彼女の方がステージ慣れしてるなと
カイトはシミジミ思った。
画面に映るわけでもないのだが
ミキサーに触れてるカイトの指が少し強ばってる。
「―――じゃあそろそろ1曲目いきま~~す。って
その前にチョットごめんね!」
急にミクは左側に走り出し画面から消えた。
『ズコーーー』
画面に大量に流れるコメント。
カイトの手元に駆け寄るとミクは
小さな手でカイトの指に触れて話し出した。
「……ねぇ、カイトの書いた曲は正直
音楽的にはイマイチなんだけど、すごく温かいんだよ。
だから大丈夫。私が心を込めて歌うからさ!」
「そんな今、この場でそんな事言ったって!
……でも―――、よろしく頼みます……」
まだ作曲暦の浅いカイトは頭をポリポリ掻くしかない。
「でも―――、私はそんなカイトの曲、大好きなんだよ!
こちらこそヨロシクね! My Master!」
ミクはウインクして机のステージに戻っていく。
手の平にのる小さなロボットに励まされるとは
カイト自身、苦笑するしかないが
あの小さな彼女のおかげで音楽と出会い、楽しむ喜びを知った。
自分が楽しむ為でもあるのだが
何よりカイトが一番見たいのは、歌うミクの姿と笑顔なのだ。
「僕こそ……君の歌が、大好きなんだけどね」
カイトは心の中で呟く。
……さて。
ミクに怒られないように照明とドライアイスの煙を
彼女の注文通りのタイミングで演出しないと
また何か飛ばされそうである。
まったく……、どっちがご主人様なんだか……。
カイトは演出に集中する事にした。
子気味良いステップ。
柔らかな歌声。
手作りで少し安っぽいのだけど
宝石箱のようなステージ。
でも一番輝いてるのは
卓上のお姫さまである
彼女の笑顔なのだ。
DTM! ―Desk Top My Master!―
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