Prelude
面影
テトは調べていた。もちろんレンカのことだ。彼女はそれなりに医師歴が長い方だが、専門が内科と外科だったため精神科のことはあまり知らないのだ。だがこの病院は精神科も扱っている。それは別の精神科医を呼んで治療したりしているのだ。
レンカは自分で情緒不安定で妄想癖と言っているがそれでは説明がつかない部分があるのだ。たとえばこの間のネルが殺された事件。あの後二人で別の病室へ行ったが彼女は何一つ言わないのだ。
話ができる状態ではない、とミクオが言っていたことを思い出す。
「見つけた。」
―病名、『解離性同一障害』
所謂『二重人格』だ。自分だけど自分ではない“もう一人の自分”がいる、そういう病気だ。中にはその“もう一人の自分”と共存している人もいるが彼女の場合そうではないだろう。
現にルコが言ったのだ。“別人のようなレンカがいる”と。
目を覚ますとリンとレンはバラ園にいた。殆どが赤と白だったが一輪だけ珍しい青いバラがあった。
「ねぇ、レン。あそこでお茶会しよ?」
リンがレンの手を引いて歩いて行く。その指先には一際大きいバラの木とティーセットの置かれた大きな白いテーブルがあった。
二人が椅子に座ると辺り一面のバラたちが歌い出した。もちろん青バラも。
「きれいな歌だね~。」
今にも踊り出しそうな雰囲気のリン。背中にはスペードが彫られた剣があった。もちろん、右手に紅茶の入ったコップを持って飲んでいる。
ところでレンは青バラを見つめていた。不意に涙を流す。“ごめんなさい”と囁いた。だが青バラは言う。
「レンカは何も悪いことはしてないよ。」
「でも、“あたし”は…。」
「レン?何してるの?早く次の扉に行こう?」
遠くでリンの声がする。きっと彼女はこの場所に飽きたのだろう。
「あ、うん。…それじゃ、僕はもう行くね。」
青バラに手を振るレン。そのバラに彼の面影を宿して。
「カイトお兄ちゃん………。ごめん、ごめんね……。」
別の病室で涙を流すレンカ。それを遠くから見つめるハクとミクオ。
「レンカちゃんを本当に逮捕するんですか?」
「……。そうしたいのは山々だが…。何せあの子は情緒不安定だ。警察署へ連れて行ったところで何を起こすか分からないからね。上が言うには“暫くは病院で様子見”だと。」
「だから、何もできないんですか。」
「まぁね。彼女の育ての親を殺し、僕の妹をあんな風にした犯人はここにいるんだけどね。」
唇を噛み、悔しそうに言うミクオ。
ガラス越しの人には伝わらない涙の歌が奏でるのは
薔薇の木の下でお茶会
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