おかえりなさい、マスター。
【ここからでられたら。 】
私の今日はここから始まる。
少し疲れた顔をしたマスター。
帰ってきて、家には一人だから。
冷蔵庫からお肉を出して、賞味期限を確認して。
簡単に野菜といためて、運んで。
その間に、お風呂を出して、テレビを見ながら食べる。
ここからでられたら。
帰ってきたマスターに。
おかえりなさいを言って。
ご飯だって、頑張って。
おいしくおいしく作って。
テレビを見ながら、二人で笑って食べられるのに。
お風呂だって、出しておいて。
昼間きちんと干して、たたんでおいた着替えを出しておいてあげられるのに。
『マスター』
そんな顔しないで。
私は、ここにいるよ。
『マスター』
一人は少し暗くて怖いけど。
いつもマスターに会えるから。
その時があるから、怖くてもずっとずっと待ってるよ。
『マスター』
とどかない。
この声はとどかない。
この世界に生まれなければ、マスターには出会えなかったのに。
この世界に生まれたことを狂おしいほど憎んでしまう。
電源が入る。
まぶしい光に照らされて、壁を隔ててマスターと向かい合う。
精一杯近くまで行って。
俯いて携帯電話を操作しているマスターの顔をじっと見る。
『マスター』
近いのに、遠い顔。
とどかないのに、そっとキスをして。
『気づいて』
私はここにいるよ。
どんな時も、ずっとずっと。
マスターのそばに、いるよ。
ああ。
ここから、でられたら。
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