草木は碧かった
そんな何気ない毎日が崩れた場所(ココ)は
一瞬にして紅の世界へと変わった
序章ー解けない輪ー
高いビルが周りを囲む中、
その中心で一際目立つように並ぶ、黒と紫がいた。
「ヒャッハー!やばい楽しすぎる!!」
そう低い声で笑い、黒とも赤とも言えないコートを着て、
顔を隠すようにフードを被った長身の男は、向かってくるヒトにナイフを投げつけていた。
「そうだねぇ、もっと遊びたいなぁ…ふふっ」
女性特有の高い声で呟く女の紫のコートには所々黒い染みができていた。
先程の男と同じように顔を隠すようにフードを被った小柄な女は、
容赦なく向かってくるモノを切り刻み、男と少女は、背中合わせで赤い飛沫を舞わせていた。
「うわぁぁぁぁ!こっち来るなぁぁ…」
「おっと」
そう叫びながら黒いフードの男に向かってくるヒトをかわしながら
フードの下から金色の髪を覗かせ、腰に差してあった小太刀と長剣で容赦なく体を切り刻み、蹴り飛ばした.。
「ほーらそっちもいんぞー」
「ちょ、あんた言うの遅」
「もらったあああああああ!!!!!」
ドンッ
鈍い音を立て地面に倒れる少女…ではなく、向かってきた’ヒト’だった’モノ’
「ばっかじゃないの、レディに少しは優しくしなさいよね」
そう言って埃を払うかのように、身体よりも大きな鉄扇をばさばさと畳む。
さっきの衝撃でフードが外れ、中からは綺麗な金色の長い髪が垂れ、あどけなさの残るような顔が露わとなる。
「レディって…ぶはっ、ただのチ」
「は?なんか言った?」
「べーつにー。あ、アレもーらい!」
「ちょ、もー…それで何人目よ、あんた」
「もう数えるのもめんどい」
「…まぁ楽しいから仕方ないよね。アハハッ!」
そう笑いながら
それでいて満面の笑みを浮かべている狂った女と男
そのビルの頂上で、双眼鏡を片手に呟く二つの影
「ハハハッ、あの二人止めるのきつそうだなぁ、圭祐(けいすけ)さんどう思うー?」
「んー、止めに入ったら死ぬね、コレ」
「だよねぇ、はぁ…どうしてあの二人楽しそうなんだろう」
そう少し高い声で呟く、一見少女に見える黄色パーカーを着た少年は
ただただ、遠くにいる黒と紫を見て深いため息を吐いた
その隣で遠くを見つめ、
身長の割にまったくサイズが合わない、背中に2メートルもあるのではないかと思われる大きな大剣を背負った紺 色のジャンパーを着た男は、首にかけていた小さなマイクでその相手に問いかける
「健太(けんた)、そっちはどう?もう大丈夫そうならそっち向かうよ?」
ガガガガージーッガー
「…やっぱ拾いものはだめかな…健太ー聞こえるなら返事してー」
「…け………きこ……ああああああ」
「…健太?大丈夫なのそっち」
「ったく、あーうざかった。あぁ大丈夫。そっちは?」
応答が返ってきたことに安心したのか、軽く息を吐き出し、健太という男に話しかける
「こっちは亮(りょう)と一緒に今ビルの頂上で待機中。今何処居る?」
「俺はあの二人の東側にいるよ。残りの人は多分西側かそこらだと思う。」
「了解。じゃあそっちと合流するよ。」
「じゃあ俺はここらへんで遊んどくよ。あの二人見てるとこっちもヤリたくなるねぇ…ホント」
「…健太、あまり無駄な殺生はだめだからね」
「はいはーいっと、楽し……アハ…ハハ」
ガーガガガガ
その言葉を聞き、先程とは違う深い深いため息をつく
「まぁ…あの二人ほっといても大丈夫そうだし…亮、行こっか」
「はーい」
亮と圭祐は焦ることもなく、ただのんびりとその場を去っていった
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その頃中央では
「もうやってらんねぇよ!」
「お前ら狂ってやがる!!!」
「早く逃げようぜ、こい…ぐあっ!」
「にがさねぇよ?」
「敵に背中見せたら終わりだっつーの。」
黒い男がコートから一本ナイフを取り出し、逃げ出そうとした男の頭に投げ当てた
「さっすが識(しき)!命中率いいなぁ…って言っても少しやりすぎじゃないー?」
「そういうお嬢こそ…死ぬ瀬戸際まで持ってく方がえげつないよ…っと!」
そんな話をしながら識は、次々と目の前で逃げ惑うヒトを投げナイフで処理していく
「…亜希(あき)だって言ってんでしょうがバカ識!!つうかあんた邪魔!!」
そう叫びつつも亜希も鉄扇で八つ当たりかのように、手と動きを止めなかった
この二人の周りには辛うじて息があるヒトたちが呻きを上げながら転がりつつ
原形を留めていないモノの山ができていた
「っとにまぁ、あの二人は容赦ないな。皐月(さつき)そっち平気?」
「平気平気ー雅人(まさと)さん、後危ないよー、まぁこっちもやらないと危ないけどーアハハ」
識と亜希を見て呆れたのか、
黒い服の至る所に緑のラインがデザインされているラフな姿をした男が隣に話しかける
その目の前でこれまた赤と黒が強調されている服を着た男が、
片手で斧を素早く振り回しながら襲いかかってくる人を斬りつつ受け答えをしていた
そんな中でも
「あああああああああ!!!識さん識さん、それ危ない危ない!!」
敵の攻撃を華麗に避け、逃げている男の白い服に、所々黒ずんだ返り血のようなものがついてあった
その男はフライパンと包丁を腰に下げつつ、ただひたすら攻撃せずに戦場の中で逃げているだけで
時折うっかりなのかわからないような識からの投げナイフや、亜希からのかまいたちのような風圧が来ても避ける ほど綺麗な避け方をしていた
「チッ…また外したか…彦(ひこ)さん、避けないでよ」
「また狙ったの?!避けなきゃ死ぬって!!」
というその場に似合わないような会話もしながら
「あぁもう、なんでこうなったかなぁ…あああああもおおおお!!時雨(しぐれ)さん危ないってええええええええ!!」
「そんなこと考える暇なんてないよー!」
彦の後を追うようにいきなり走ってきた女、時雨は
日本刀のような刃物を両手で持ち彦に突っ込んできては、彦を追いかけていたヒトたちを薙ぎ払っていた
時雨が識と亜希の横を通るたび、二人を狙うかのように攻撃を仕掛けるが
識も亜希も黙っておらず、反対に時雨に攻撃を仕掛ける
「そろそろ斬るのやめてもらえるかな?」
「いやまぁ、楽しいからいいじゃん?」
「まぁ楽しいから、ね!ほら頑張れ兄ちゃーん」
そうケラケラ笑う二人に向かって、時雨が大きな一振りを向けた
「あっぶな…時雨ー!識ー!頑張れ―!」
「もうそのままくたばってればいいよ」
「誰に言ってんの?べーっだ!」
時雨が動く度に、着ている水色のパーカーにはやはり所々黒い染みができていたが
ひらひらと揺れ動くたびに綺麗な様を見せつけられる
そうこうしてる間に識に押し負けているのか、時々軽く衣服が切られていた
「ほらほらどうした?生意気な口聞いた割にはたいしたことないな」
「くっ…」
どちらも変わらないような戦闘を繰り広げてると思いきや
時雨は迫ってくる斬撃の1発1発が重すぎで片手では防ぐことが難しいようだ
右へ、左へ、変則的な軌道
一度でもその軌道を読み間違えたら…そんな中での二人の攻防は次第に決着へと向かっていった
識が上へ振り上げたとき、時雨の剣が吹き飛んだ
時雨がその衝動でよろめき、体制を整えようとした矢先、
その隙を逃さず詰め寄る
剣は宙を舞うようにくるくると回りながら鈍い音を立て、地面に突き刺さる
「楽しかったよ、本当に楽しかったよ!」
その目は狂気じみたような、そして一心の狂いもなく
識は時雨の剣を払った勢いで振りかぶってきた
「く…っ」
時雨は諦めたように目を瞑った
ガキンッ!
そっと瞼を開くと目の前に大きな鉄扇が前に立ちふさがるように留まり
識の首にはダガーナイフがぴったりとくっついていた
「しーき、僕の妹あまりいじめないでくれる?」
「識さん、流石にお嬢が怒りますって」
そうこうしてる間に先程の人たちが集まってきた
「な、健太さん何してるんですか!識さんは仲間なんですよ!?」
「亮、落ちついてこの場見て。この二人は止めようとしただけだよ。」
「あー…危なかった…もうこの二人は…」
「アハハ、元気なのはいいことだようん」
「これだから見境なく攻撃する奴らは…」
「危ない危ない、ついうっかりとヤってしまうところだった」
と各々雑談し始めたところで亜希が鉄扇をしまおうとした、が
「いたぁっ!?」
重さに耐えきれなかったのかそのまま地面へダイブした
「足も」
「「「足元大丈夫?」」」
「うっさいわぁ!!」
床にへたり込みながら亜希は頭をさすっている
「…まぁ、ごめん、ありがとう」
「時雨殺したっていいことないからなぁ」
そうチラッと亜希を見つつケラケラ笑いながら座ってのんびりし始めた
「おねーちゃん立てる?」
「ごめん、ありがとー…」
そう言って時雨は手を差し伸べて立たせたのだが…
そのまま亜希は振り向いて歩くために1歩足を踏み出した真下の血溜まりに足を滑らせ、また豪快にすっ転んだ
「…足元だいじょ」
「うるちゃいなぁ!もう!!」
(((また転んだのね…)))
いつものメンバーは見慣れている光景だが、
襲ってくる人達にとったら新鮮だったのだろうか?呆気に取られていた
やがて意識が覚醒したのか狂ったように叫びながら亜希に襲い掛かってくる
亜希は赤面しながら目尻に涙を溜め
「お前ら見てんじゃねぇぇぇ!!ばあああああああかああああ」
どこからその声を出しているのかわからないが、幼い声…ロリ声とでも言うべきなのだろうか
とりあえずすごく恥ずかしかったのだろう
襲いかかってる人達以外に、いつものメンバーまで巻き込みながら攻撃していたが
「いやだってねぇ…目の前でこけたし」
「手を差し伸べて立たせただけなんだけどなぁ…おねーちゃん…」
「お嬢の責任でしょ、どうみたって」
「まぁそこが面白いんだけどさ」
「あははははははははは」
と、不敵に笑いながら攻撃を避ける者もいれば、苦笑しつつ向かってくるヒトを切り刻む者
「識、時雨、健太、皐月、亮、お前ら笑ってんなぁぁぁぁぁぁ!!」
そんな五人の名前を叫びながら、鉄扇を振り回していた
それでもヒトの足は止まらない、いつものメンバーも止まらない
ただ三人、傍観している人だけを除いては
「いつものお嬢だね、あれ」
「だねぇ、見てる方は楽しいんだけど」
「まぁ変わらないからなぁ…」
そんな会話をしながら、その三人は悠長にそこに座っていた
「まぁ、嫁にて出したらわかってると思うけど…アハハ」
「大丈夫大丈夫、阻止するから」
「本当激愛してるなぁ…」
亜希のことを嫁といった圭佑をよそに、
遠くのヒトを静かに見つめる彦は、ただただ、その場に似合わないような微笑みを浮かべながらフライパンを磨いていた
ぼーっとしていた圭祐は、ふと何か思い立ったかのように地面に突き刺していた大剣を持ち上げ
「さて、そろそろ止めにいこうかな」
「お、いってらっしゃい」
「雅人も彦さんもきぃつけてねー」
「そっちもねー」
そういって、圭祐は走り出す勢いで大剣を抜き取りながら走っていき、走った勢いで大剣を振り降ろした
振り下ろした大剣は地面をえぐり、そこにいた敵も強引に
そしてあるモノは手が吹っ飛び、あるものは足が吹っ飛び、部分的なパーツが圭祐が通った道に広がっていく
圭祐が去ったのを好機と思ったのか、残ってた敵が一斉に二人に襲いかかってきた
「うわぁ…来たよー…どうするんですか彦さん」
「雅人君頑張ってーそろそろ今日の夕飯完成するよー」
一人は目の前のヒトたちを見つめ、一人は呑気に鼻歌なんて歌いながらシチューをかき混ぜていた。
そうして彦を背にして、雅人は小さな短剣を上手く使って向かってくる敵を切り
刻んでいく。彦の方にも向かっていったが、フライパンで頭をカチ割りつつ、それでも料理する手をやめない
「たまには彦さん仕事してくださいよー…」
「そろそろ夕飯完成するよー!」
「…聞いてないですよね、絶対。ほら彦さん、みんな来ましたよ」
「ったくもう!みんな知らないし!!」
「はいはい、少し落ち着きましょうね―」
「そもそもお嬢がこけたのが悪いんじゃ…」
「まぁ安定だよね」
「うるさいいいいいいいいいいいいいい」
「今日の夕飯なーに?」
「今日はシチューだよー!」
「お、いいねぇ」
「おねーちゃんぇ…」
「………もうみんな嫌いだあああああああああああ」
「嫌われた、吊ってくる」
「あああああああああごめんんんん大好きだからあああああああ」
その場には似合わないような和やかな空気が包み
辺りは日が傾き、夜空を覗かせた…―
~~~~~~~~~~~~~
一瞬にして変わった日常
ほんの僅かな毎日の事柄がいつの間にか消え去ってしまったとき
あなたはどうしますか?
狂気に身を染める?
逃げ惑う?
それとも…傍観…?
それを決めるのはあなた次第
end
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