女王陛下としての生活は、息苦しいという言葉だけでは終わらせることなど出来ないものだった。こんな生活を毎日続けていたなんて思うと、リンが表情を出さない理由が分かった気がした。
妹は"人形"になるしかなかったのだ。そうでもしなければ、この生活に耐えられず、自ら死を選んでしまっていたかもしれないから、だから、感情を押さえつけた。それなら僕は答えよう。リンが、僕に助けを求めてくれた。メイトが死んで不謹慎なのは分かってるけれど、それでも、嬉しかった。
初めて悲痛な表情を出したリンのために、僕は女王陛下として王座に座り続けた。
夕方頃に、小さく溜め息を吐くと廊下から聞こえる乱暴な声が耳に入る。
「どうゆうことよ!?」
メイトの妹のメイコさんだった。
ああ、きっとメイトの死を知らされたんだろう。怒りで瞳が紅く燃え上がっているのが分かる。メイトも、本気で怒った時は、瞳が血のように赤黒くなるから、そこを思い出すと兄妹だなぁ、とふと感じた。
「黙ってないで何か話しなさいよ!!」
「どうされました?」
そこへ姿を現したのは、カムイ大臣だった。
結ばれた紫髪を揺らしながら、彼は彼女に微笑みながら話を聞く。
「どうして狙ったように矢が心臓に刺さるのよ。おかしいんじゃない?」
「おかしい、と言われましても・・・」
「最初から女王陛下じゃなくてメイト自身を狙ってたって事はない?」
「・・・何が仰りたいのでしょうか?」
「あんた・・・それ知ってて、わざわざ外出させたんじゃないの?」
「そのような馬鹿馬鹿しい話はありませんよ、お嬢さん。衛兵、こちらのお客様がお帰りのようです。門まで送って差し上げて下さい」
メイコさんは衛兵に連れていかれてしまう。
しかし会話を聞いていた僕は思った。そうだ。カムイ大臣・・・彼は、メイトを嫌っていた。本質的な意味で、嫌っていたといえる。
表向きでは他の人への態度と変わらなかったが、雰囲気が違っていた事を僕は知っている。よく近くにいたから。言葉では言い表せられないが、メイトの前の彼は・・・憎しみや怒りのようなものが感じられた。
「女王陛下、お騒がせ致しました」
深々しく頭を下げると、彼は目を合わせて微笑み、『玉座の間』と呼ばれるこの部屋から出て行く。
だが、彼が出て行ってからも、この息苦しさは変わらない。
僕はカムイ大臣がいるから息苦しいのかと思った。だが違う。玉座、王位、王座・・・そうだ、この位置だ。『女王陛下』という位置にいるから、息苦しいんだ。辛いんだ。
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