とある小国の話です。
他国は見向きもしない、そのような国でした。
その国を治める家は神威家、当主の名はがくぽと申しました。
民を優先した政治がため、国民からの支持は高く、家臣たちも彼の人徳についてきたものばかりでした。
彼には大切な身内がおりました。
がくこという名の妹、この国の姫君にございます。
彼女もまた、国民や家臣からの人気は高く愛されておりました。

小国とはいえ、まったく戦が無いわけではございません。
少しでも土地が欲しいのであれば、このような小国でも手を出すのでございます。
そのような時、君主は指揮をとり、その天才的な采配で何度も返り討ちにしてました。

「お兄様、また戦ですか?」
姫君は戦の間、城に居ることしかできないのです。
戦があるたびに、置いて行かれることに憤りを感じておりました。
「早く退けなくては、民が苦しむことになる」
「わらわを連れて行ってはくれませぬか?」
「できぬな」
このようなやり取りは、始めてではありません。
「そなたは城を守っておればいい」
「お兄様のお力のおかげで、守る必要などありませぬ」
姫君がそう言うと、君主は笑顔を浮かべ「頼んだ」と一言いい、甲冑を身につけた姿で城を後にしたのでした。

姫君のじゃじゃ馬ぶりに、君主は少々困っていました。
何か良い方法は無いものか、そう考えておりましたが戦が始まればそのような余裕もなくなってしむのです。
「殿!」
戦場とは別の方から伝令が参った。
「何事かあったか」
「は!それが…姫様が…」
「お兄様」
伝令の後ろから姫君が現れたのです。
「何故、ここに…」

その時。
君主がいる本陣はいつの間にか敵に囲まれていました。
「迂闊っ」
妹の登場に、すぐそこにいた敵に気付けなかった、そう悔みました。
「慌てるな、立て直せ!」
姫君も後悔致しました。
この劣勢は、自分が招いた気がしてならなかったのです。
「ぼやっとするな!死ぬぞ」
兄の声にはっとしました。とにかく、生きなくてはならない…と。
君主は姫君を背に隠し、応戦致しました。
「っ…」
姫君のかすかな声、次に背中への重み。
振り返ると姫君の背に深々と矢が刺さっておりました。
その奥の木の上には弓を持った敵兵がおりました。
その敵兵はそこから飛び降りると、茂みの中を敵陣営に戻るように消えていきました。

戦場と化した陣営ではロクな手当は出来ない。
君主は近くに居た家臣に言いました。
「妹を見ておれ。」
「殿…?」
「我が出よう」

君主の力と覇気で、味方陣営から敵の姿は消えておりました。
「お兄、様…」
刺さった場所が悪かったのか、姫君は最期に一言そう言うと、手当も虚しく静かに息を引き取ったのでます。
いえ、ひょっとしたら言いたいことを言えずに絶えたのかもしれません。

君主は何も言わず、本陣をあとにしました。
「殿、どちらへ?」
家臣の問いに答えず、ただその足は敵陣へと向かっていました。
「危険でございます、お戻りください!」
家臣の制止も聞かず、君主は歩みを進めました。

身につけた甲冑が明らかに一兵卒とは違う。
それが一人で現れたのだ。
功を競う兵たちにあっという間に囲まれたしまう。
「貴様たちではない」
君主はそう言って足を止めない。
切りかかってくるものは切り捨てた。

相手は一人なのに、傷の一つもつけられない。
「貴様だったな」
弓を持ったひとりの兵を見据える。
次の瞬間にその男は地に伏せていた。

この戦は君主の働きにより、勝利し敵を追い返すことに成功した。
だが、誰一人喜ぶ者は居なかった。
姫君の死は、人々を悲しみに包みこんだ。
一番落胆したのは君主である。
その日以来、君主はロクに食事も口にせず、ロクな睡眠もとっていない。
そして、民に愛されていた君主は歪み始めた。

気に入らないことが有れば、家臣も民も切り捨て、以前の面影など無かった。

君主の行動に民は嘆き、国を出て行く者もいた。
家臣たちの間では、君主を始末すべきだという声も出始めた。
行動に移した家臣もいたが、それもできなかった。
戦場で天才的な能力を見せ付けた彼が、簡単に散るはずもなく返り討ちにするのであった。

あるとき、ある大国がこの小国を潰さんと動き出した。
この国から逃げ出した民が助けを乞うて動き出したそうだ。
今まで、君主の采配によって動いていた家臣たちだが、今の君主ではそうもいかず、一人、また一人と降伏していった。
君主自身も、指揮をとったりはしなかった。

本丸の一番奥。
敵はそこまで来ていた。
しかし、人の気配はなくかすかに血の匂いがした。
奥を見れば、人が倒れていた。
男たちはそばに寄ってみるが、その人は動かない。
生気も感じられない。

何も食べず、一睡もせずの生活は身体を限界に追いやっていたのだ。
見向きもされなかった小国は、最後の君主が感情的になったがために、地図から名を消した。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

破滅への道

何か乱世っぽいものを書きたかったので書いてみました。
がくぽとがくこが普通に兄妹です。
本当は他のボカロをどうにか出したかったけど大変だったので挫折。
しかし出来上がってみると、扱いはあまり良くないね。
書いてるときはノってたんだけどなー

閲覧数:148

投稿日:2009/03/09 04:13:26

文字数:2,040文字

カテゴリ:小説

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