「んで? 毎日毎日バカみたいに練習しているのに、何で上手くならないのかね、凜ちゃんは」
このころはすっかり暗くなった、部活からの帰り道で、蓮があたしを追ってきた。
「……知らない」
「効率悪いことやってんじゃないの?」
蓮が、ドラムスティックで自分の学ランの肩をとんとんと叩きながら話しかけてくる。
「知らないって言ってるでしょ!」
「自分のことなのに?」
「今頃それを言う?」
あたしはついに蓮の方を振り返る。耳からイヤホンを引き抜き、蓮と戦う体勢に入った。
「あたしは、出来ることは全部やってるわ! 今だって! 文化祭の曲聴いて、ちゃんとイメージトレーニングしてるし! 」
あたしは蓮にからまれた分を取り返すように、一気に奴に向かって攻勢をかける。
「楽譜も読んでるし、曲の研究もしているし、ハーモニーの役割だって勉強しているわ! ……あたしはね、ちゃんと、トランペットが好きなの! 好きだから、憧れた音に届きたいのよ!
『凜が入るなら俺もやろっかな』なんて超適当な理由でブラバンにきた蓮ちゃんとは違うの!」
思わず昔の呼び方が出てしまい、突っ込まれるかと焦ったが、奴はそれをひょいと流してきた。
「でもさ、俺、それなら超成長したよな! 楽譜読めるようになったし、打楽器なんて全部タイコだと思っていたのに、今じゃ鍵盤だって出来るんだぜ! オレすげー」
「はいはい。あんたがマリンバ叩く時代が来るなんて思わなかったわ」
「でもやっぱ、男は小太鼓だな! 俺、スネアが一番好き!」
てててんてんてん、と奴は手にしたスティックであたしの後ろに回り、肩を叩きにかかる。
……あたしの肩はスネアか。結構正確なリズムの刻みに、むかっときた。
「なにそれ。自慢?」
……真剣だったけど結局うまくいかない、あたしとの成長の差を見せつけたいのか。こいつは。
勢いをつけて、そのふざけかかったスティックを振り払った。
おどけるかと思った奴が、真剣な表情で、あたしを見ていた。
「……肩の力、もっと、抜いてみたら」
ふつん、とあたしの中で何かが切れた。
「簡単に抜けたら苦労はしないわ!」
あたしの手は、小さい。この手でラッパを掴もうとすると、どうしても手のひらをいっぱいに広げることになる。その力は、どうしても肩に伝わり、ひいては音につながってしまうのだ。
音も、力も抜けてこない。何をやっても辛い。これがあたしの三年間の結果だと思うと、涙が出てきた。
「……ねえ、凜ちゃん。せっかく鳴宮なんて縁起のいい名前なんだからさ、鳴らそうよ。楽にさ。」
「……うるっさい! あたしだって……あたしだって、好きでヘタクソなわけじゃないわよ!」
とっさに叫んでしまい、はっと口をつぐむ。青く染まった夕闇の中で、奴が目を丸くしていた。
「蓮のバカ!」
スクールバッグを思い切り振る。ばんっと蓮がまともに食らった。ざまあみろ!
荷物から何かがばらっと落ちた気がしたが、あたしは無視して走り去った。蓮がそれを拾う気配がしたが、それも無視してあたしはその場から逃げ出した。
翌日、蓮が、びっしりと書き込まれたあたしの楽譜を返してきた。昨日、鞄の中から落ちたのは楽譜だったのだ。
「ん……」
無言で受け取ったあたしを、蓮が睨んだ。
「……なにもそこまで、言ってないだろ」
静かに言い残して、奴はあたしに背を向けた。
* *
……続く!
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