～～旅初め～～
　恋人・たっさんの計画で仕事帰り鎌倉に一泊して今回の旅は始まりました。翌朝、鎌倉から、電車に揺られて四時間半？　延々山の中を走っていたのに、ふと丘に上がったかと思ったら、目の前が突然開けて、眼下に町が広がったのを良く覚えています。それからは早いもので、気づけば長野・野辺山に着いていました。

～～思いの程～～
　小説を好きになって15年が経ちます。漫画を好きになって10年が経ちます。知る限りでは、野辺山はアニメの舞台になっていません。けれども、野辺山へと向かう小海線で熟睡すれば、「あの夏で待ってる」の小諸で目を覚まします。小諸からは「サマーウォーズ」の上田が片道20分。のどかな田んぼ風景が思い描かれます。反対に行くと、「マリア様がみてる」の軽井沢。少女漫画は随分楽しみました。ごきげんよう。山百合会の皆様はお元気でしょうか。もしかしたら、彼女らも遠足で野辺山へ？　浮かれた心を胸に、電車を降りたのでした。

～～標高を祝う～～
　駅前では、小さなお祭りが行われているようで、露店と屋台が賑わい、ステージで地元の子供達が切れ良く踊っています。
　駅前の白いお土産屋さんを少し覗いて、私達は歩き出します。たっさんが駅舎を取るものだから、私も真似て一枚二枚。それからは線路沿いに歩きます。
　畑の向こうで八ヶ岳が雲を羽織っています。線路の隅で野苺が揺れています。白い単線はお淑やかに感じます。前方にバックパンカーが一人いるだけ。静かな線路沿いを進みます。
　やがて、大きな石碑が見えてきました。JR線路の標高がもっとも高い場所です。サイクリングの人達とバイク乗りの男達が印象的。レストランとお土産やさんと野菜の露店が観光客を賑わせます。たっさんと二人で一つのソフトクリーム。八ヶ岳は乳牛でも有名で、山梨の葡萄とのミックスソフトは、舌を濃厚に絡めとります。

～～徒歩の味～～
　小さな観光地を出発してからは、線路を外れて国道沿いに進んでいきます。やがて清流にかかった橋と一緒に、山梨に渡りました。歩く人はいません。けれども、道沿いには思いの外、店が多く立ち並んでいます。青いレストランや、白い洋菓子店や、モモの直売所。観光バスも止まっているのだから、有名なのかもしれません。
　一時間ほど歩いたでしょうか、時には道路脇の歩行者用の林道も抜けて、やがて、線路と一緒に清里が見えてきました。たっさんが、三脚付きの撮り鉄達と一緒に電車を撮るものだから、私も真似て一枚。

～～清里を見る～～
　清里は、洋風薫る町でした。白に赤に青に、塔がついた建物まであります。お店も色とりどりです。山梨のワインを扱った土産屋さんがあるかと思えば、ジーンズを再利用したバッグのお店が顔を覗かせ、その向こうには地元・北社市のいろんな製品を販売するお店もあって、キャベツまで土産として売るものだから、笑ってしまいます。
　コップ付きのワインを買って、駅前のテラスに座りました。並々注いで一口、汗で渇ききった体に白の爽やかさが広がっていきます。余りの美味しさにもう一口いただくと、たっさんが物欲しそうにこちらを見つめているので、手渡します。ぐびりと音が立ちそうな程勢い良く飲んで腕を下ろせば、空のコップがテーブルを楽器代わりに、澄んだ音を響かせました。

～～帰路～～
　夕日が差しています。私達は電車に揺られています。ワインの赤を二人で分けます。清里を発ったのは、四時頃でした。野辺山への日帰り旅行はこれでおしまい。家に帰るまでが旅行というのなら、その日の夕食は中華でした。