「弱音さんちの留学生」
第二話 天使の神楽
PART1「銀河鉄道の朝」
この小説は、2013年01月01日に思いついたので、
慌てて忙しい中、書きとめたものです。
ボカマスなどにて、また無料配布小説本のに収録するかもしれません。
起承転結 4章構成になっています。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「うぅ、頭痛い……」
今日は、元旦 一月一日。
今は親友のネルちゃん、そのボカロのリンちゃんと初詣の列に並んでる。
あぁ、にしてもガンガンと頭に響く、この異常な二日酔い…。
とても、呑んだのが2時間前とは思えない。
「あのねぇ、ハク姐ぇ。アタシはちゃんと
「ハク姐から誘ったんだから、お酒を減らして神社まで案内お願い」って
言ったはずでしょ?」
「分かってるわよ~。だから、減らしたじゃない…。」
あうぅ、ネルちゃんの可愛い声も、お脳にザクザク刺さる、いたたたた…。
「いや、全体の容積の話じゃなくてさ。なにあの得体の知れないお酒…。」
足元の雪を拾うと、それを雪玉にして、手刀で削る動作を見せる。
「瓶に霜が降りてて、液体じゃないからお屠蘇になってなかったじゃん。」
削った手刀に乗せた雪を、私の口元に近づけながら言う。
「シャーベットみたいなお酒に、屠蘇散が同量…。
「お酒のシャーベット、漢方薬盛りっ!」なんて、
シャリシャリ食べて、悪酔いしない方が恐い…。」
頭を振り、呆れた表情だ。
「氷結吟醸「銀河鉄道」と申します。by千代の亀・亀岡酒造:愛媛県……」
「蔵元なんて聞いてないよっ!」
バツっと、私の頭に残りの雪玉をぶつける。
うぅ、痛い・・・
大きな声、出さないで… ガンガンしている頭にますます突き刺さるぅ…。
吹き出して笑いだすリンちゃんの声は、何故か耳に心地よい。
日の光は後方斜めに優しく照ってる。
もうお昼過ぎ、ぐでぐでコンビの私とネルちゃんの初詣には、
こんな感じが、きっと、丁度いい…。
この小さな町の小さな神社。参道は、普段の厳かな雰囲気など微塵も感じさせない。
いつもは静かな階段に、少し溢れるくらい沢山の人々。
そして、幸せそうな笑顔が並んでる…。
年末に、二人の少女のホームステイを受け入れ、ずっと幸せで騒がしい日々が過ぎて行た。
そんななか今日は、特に笑顔と暖かさを感じる。
肌に染み入る寒気を、まるで感じないほどに……。
「けど、ハク姐のほうから初詣に誘ってくるなんて、どんな風の吹きまわし?」
「そうですよ、ハクお姉さん。
毎年オコタにみかんに日本酒で、冬眠から出て来ないのに…。」
「あぁ、毎年、ミクがひとりで挨拶に来るのが殆どじゃんw」
あ、あははh、わたしミクにそんな苦労掛けてたの?
あうぅ、反省しないとならないわね……
「ほら、貴方達には去年ホームスティに来た子達、ちゃんと紹介してなかったじゃない?
良い機会だし、初詣の後、皆で食事でもしましょうよ。
お姉さん、奢っちゃうわ~♪」
訝る顔で、ネルちゃんのジト目が見上げる。
「本当か?
さんざいつもの中華料理屋で、手遅れまで酔い潰れてるじゃんか。
自給700円の私に、まいどまいど全額出させて運ばせて・・・。」
あ、あうぅ、そんなことまでしてましたか、わたし…
「だ、大丈夫よ!
こ、今回は阿綾(アリン)も居るものっ!」
「まったく、どんな奴なんだよ、その留学生って…
どこのお嬢様なんだ?」
えぇ、実際にお嬢様なのよね…。
彼女の事に思いを巡らせると、それだけで顔が赤くなる。
私は、彼女達のお陰で、ミクと……
「ほ、ほらほら、山門も通ったし、やっと境内よ♪
リンちゃんとお手水(ちょうずい)してらっしゃいな♪」
聞いて、ネルちゃんの顔が赤くなる。
「なんか、その単語、音的に恥ずかしいんだよな。
トイレ行くわけじゃないのにな…。」
「ちょ、なに言ってるの、日本人ならこれくらいの参拝作法は覚えなさいな。」
「なんで、日本酒好きは、そう作法とかに拘るかねぇ…」
そう言いながらも、彼女はリンちゃんの手を引いて、列を離れる。
まず、柄杓(ひしゃく)を右手に持ち、左手を洗う。
次いで、柄杓を左手に持ち替え、右手を洗う。
次にもう一度、柄杓を右手に持ち替え、器にした左手に水を受ける。
その水を口に含み、口をゆすぎ、左手も洗う。
最後に柄杓を立てて、柄に水を流して清める。
柄杓を元の位置に返す。
水が切れるよう、天地返して戻すことも忘れない…。
なんだ、完璧じゃない…。
リンちゃんが上手く真似出来ず、ジタバタする姿が可愛いっ♪
戻って来たネルちゃんにイイコイイコする。
しかし、ツンデレ怒りの鉄拳が私のみぞおちに埋まる。
「い、いたた…。
ネルちゃん、ちょっとは手加減してよぉ…」
「ふっ、ふざけないでよっ!
もう17だし、一人暮しだってしてるんだから、
子供扱いしないでっ!」
あはは、はいはいw
もともと、親御さんがあまり帰って来ない家だったけど、
彼女は今、私の隣の部屋に越して来ている。
少ないバイト代は、ファッションに次ぎ込んで居る。
最初の給料をつぎ込んだリンちゃんレンくん。
しかし、堕落を心配したご両親にレンくんを連れ帰られ、
今はリンちゃんと二人暮し。
あの可愛い服の数々は、レン君や弟さんに見せる為だと知って居る。
でも、この可愛らしいツンデレちゃんは、未だにそれを実行出来ず、
実家に帰ることもあまりない。
「もう、お姉さん心配してるのにぃ…」
「五月蠅いっ、黙れ酒乱姐貴っ!」
「ひ、ひのい……」
馬鹿なことをやって居るうちに社が見えて来た。
カランカランと参拝客が鈴を鳴らす音、
次いでパンパンと手を叩く音が聞こえる。
その後の空白は、独特の重さをはらむ。
あぁ、本当に今年が始まったんだなぁと、感慨深く感じるのだ。
思えば、ミクとの幸せな生活以外、なにかと悩みガチな5年が過ぎた。
中でも、ふたりがホームスティに来てからは、恐ろしいことの連続だった。
こう、役得のような、背徳のような…
パチンっ…
右頬に優しいビンタ、そのまま暖かい手に包まれた。
「なにを悩んでるんだよ、ハク姐ぇ…。
その留学生の前では、しゃきっとするんじゃなかったのか?」
ネルちゃんの励ましに感動し、瞳を潤ませて抱きつこうとすると、
バヂンっ!
と、反対側から本気のビンタが来た。
ネルちゃんは顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。
「調子に乗るな…」
「ひゃ、ひゃい……」
腫れた頬をさすりながら山門を振り返る。
石の鳥居の端に法納品が見える。正面には千社札も貼ってあるはずだ。
あの二つは彼女達がやったのだ。だから…
二人の留学生がホームスティに来てから、私の生活は本当に激変した。
いまや、ミクと何度も……
痛みと恥ずかしさで熱くなる顔を振り、社のほうへまた振り返る。
賽銭箱の一段上、左側の廊下、本堂脇に二人の巫女の姿が見えた。
高い欄干の前に台が置かれ、本堂へ向う途中で破魔弓を売る。
そして袖を押さえて先を示し、本堂へとお祓いを受ける人を誘う。
上品な所作は、さすがはお嬢様、としか言えない。
そして彼女のボカロも、まるで時代劇のお姫様のように、主人以上の挙措を見せる。
袴が赤と青、対になった巫女装束、黒髪と銀髪の二人の美少女。
社務として販売をしている以上、沢山の人と喋ったろう。
外国人の二人を案じ、少し不安になりつつも、やはり誇らしい気持ちにもなる。
「あっ、もしかしてあの子達なのか? ハク姐ぇ?」
察しの良いネルちゃんが、もう気付いていた。
私は両手の平を握り合わせ、顔に添えると嬉しそうに答える。
「うふふ、そうよ♪
神主様、説得するの大変だったんだからぁ♪」
「説得の文字に、呑み比べのルビが見えたよ…」
ネルちゃんの予想どおりだった。
一週間前、神主を呑み比べで酔い潰し、念書を取った。
更に二人の大活躍で、不服なままの神主も彼女たちを気に入った。
いまは全員笑顔で、このバイトが成立している。
自慢げにそれを説明しようと思った時、阿綾がこちらに気付いた。
「おっ ねぇー さまーーーーーー!」
嬉しそうに阿綾が手を振る。
欄干から身を乗り出し、危険と案じた瞬間、
彼女は高い本堂から手を滑らせていた。
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