いつもよりも早く家に帰ると、誰も姿もそこには無かった。きっとグミはがちゃ坊を連れて買い物にでも行っているのだろう。今日の夕飯はグミの当番だ。そして自分は洗濯物を取り込んだりしないといけない。けれど、気分がのらない。
テレビをつけてむっつりとそれを眺めていると、ほどなくしてグミとがちゃ坊が帰ってきた。
「ただいまー」
明るくそう言いながら家の中に入ってきたグミは返事もせずにテレビを見ているリリィに目を丸くした。
「なんだ、いたなら返事してよ。テレビ付けっぱで出かけたと思って、びっくりするから」
「…おかえり」
まだ気分は下向きから戻っていなかったが、それでも身に染みついている習慣を行わないというのはなかなか気持ち悪かったので、ぼそりとリリィはそう言った。その機嫌の悪い態度に、グミは再び目をぱちくりと瞬かせて、何、どうしたの?と言った。
「鏡音さんとこのリンちゃんとまた喧嘩でもしたの?」
そうからかうように言いながら、がさがさとグミは買い物かごから買ってきたものを冷蔵庫へしまった。そのついでに冷たい麦茶を取り出して、がちゃ坊に用意させたグラスに注いだりして。グラスは三つ。グミとがちゃ坊と、リリィの分。
「今日はあんたの好きな筑前煮だから。さっさと機嫌直して。折角の可愛い顔が台無しだよ」
そんな顔じゃ、好きな人に嫌われちゃいますよー。お茶をリリィの前に置きながら、そんな風にからかってくる。そのとぼけた調子がなんだかとても、腹立たしい。
どうせ、とリリィはふくれっ面で言った。
「どうせ、私はお姉ちゃんみたいにいっつも笑顔じゃないし。みんなに好かれるような性格でもないし。彼氏だっていないもん」
ぷりぷりと明らかに八つあたりをするリリィに、本気でご機嫌斜めだね。とグミはそれでもからりと笑った。
「がちゃ坊、リリィ姉ちゃんの腹の虫の居所がなんだか悪いから、下手に逆らっちゃだめよ」
わざとリリィに聞こえるようにそう言っったりしてくるものだから、本当に腹立たしい。
「はらの虫って、普段はどこにいるの?」
「ええとねー、へその上あたりかな。そうそう、がちゃ坊、知ってた?かみなり様はその虫が大好物なんだよ。かみなり様におへそを取られちゃう、っていうのは、本当は腹の虫と一緒におへそを取られてしまう、という意味なんだな」
無邪気ながちゃ坊にそんな適当な事を言うグミに、リリィはまたそんな適当な事を言って。と顔を顰めた。
「そうやって、適当な事ばっか言って。何でお姉ちゃんはそんなんで皆に好かれるわけ?」
「え、そんなこと聞かれても分かんないよ。というか、そうか、私は皆に好かれる人気ものなんだ」
や―照れるなぁ。とまたもや適当な事を言って笑って。その笑顔ついでに、でもこの間、彼氏に振られたよ。とグミはさらりと言った。
「え」
「うん、だからこの間、彼と別れました。というか振られちゃった」
だから皆に好かれてるわけじゃないよ。なんて笑いながら言うグミを、リリィはぽかんと見返した。何その寝耳に水な話題。
え、でも、いつそんな、彼氏と別れたのか。
「え、それ、いつの話?」
「ええと、4日前の話かな。あ、兄さんには内緒にしておいてよ。そもそも男の子と付き合っていた事も内緒だったんだから。」
そう笑いながら言ってくる。その笑顔をリリィは呆然と眺めた。
え、だって。全くそんなそぶりも見せていなかった。悲しみに浸っているとか、物凄い落ち込んでいるとか、そういう様子は全く無くて、いつも通りご飯を作ったり洗濯物や掃除をしたりしていた。そうよ、昨日なんかは兄に、私が結婚したら兄さん泣いてくれる?なんてまたふざけたことを言ったりもしていたのに。
知らなかった。そんな彼氏と別れたなんて、笑い事じゃないのに。何でそんな風に笑っているのか。笑い事でもないのに、何でそんな風に、彼氏と別れたなんておどけた調子で言うのか。
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