翌日。

午前八時三十分…つまり朝のHRが始まる時間に、流架はある部屋の前に立っていた。頭上には、『2-1』と書かれたプレート。



そう言えば、アイツはどこのクラスなんだろう。



ふと、頭にそんな考えが過った。
昨日は名前しか聞かなかったから、学年もクラスも知らない。まあ、高等部の制服を着ていたからこの高等部の敷地内に居る事は確かだろう。
そこまで考えて、流架はそんな事を考えている自分に驚いた。他人とあまり関わろうとしない自分が、あの紫色の男に興味を持っている。会いたい、と思っている。



何で?



「ちゃくせーき」

扉の向こうから、出琉のやる気のない号令が聞こえた。

「え~今から転校生を紹介する」

その台詞に、教室の中がざわめく。

「転校生は長いことアメリカに留学していたが、そっから一人で帰ってきた帰国子女だ。日本語は喋れるから安心しろ。何か質問してきたらちゃんと答えてやるように。……まあこれだけ言えばもういいか。おい、入っていいぞ」

流架は小さく深呼吸をすると、ガラリと扉を開け放った。部屋の中に居る三十人弱の視線が全て流架に集中する。
目をつけられる事、すなわち目立つ事を嫌う流架にとって、注目される事は気持ちいいものではなかった。例えその視線に含まれているものが、好奇心や期待でも。
流架は早足で教壇を上がり、出琉の隣に立った。

「…巡音流架です」

言って、ぺこりと頭を下げる。
流架が顔を上げたのを確認すると、教室の後ろの方を指差した。

「取り敢えずあそこの席に座っとけ」

流架は、出琉の指先を目で追う。その先には、無人の机があった。そしてそれが目に入ると同時に、その隣の机に座る紫色の髪の生徒がにこやかに手を振っているのも目に入った。
直後、流架はその場で凍りついた。



何で!?



つい数分前に教室の入り口で同じ事を思ったような気がしたが、今はどうでもいい。高等部に居るとは思っていたが、まさか同じクラスだなんて…。

「じゃ、HR終わり」
流架の動揺など知る由もない出琉は、何事もなかったかのようにさっさと教室を出て行ってしまった。このまま教壇に立っているのも気が引けるので、重い足取りで自分の机に向かう。

「おお流架殿! まさか転校生が流架殿だとは思ってもいなかったぞ」

案の定、流架が席に着いた途端に楽歩は話しかけてきた。他の生徒の視線が痛い。

「あれ…がっくん、転校生さんと知り合いなの?」

流架の隣の前の席、つまり楽歩の前の席に座るマフラーをした男子生徒が不思議そうに楽歩に尋ねる。

確かこの人…昨日図書室に…。

「うむ。昨日、資料室で会ってな。話しかけようとしたらいきなり殴…」

言い終わる前に流架は楽歩の長い髪を素早く掴み、思いっきり引っ張った。

「あだだだだ!?」
「楽歩さんに辞書の場所を聞かれただけです! 他には何もありません!」

あそこで遮っていなければ、誤解を招くようなよからぬ事を喋っていただろう。
それにしても、この学校も狭いものだ。昨日偶然出会っただけの二人が、実はクラスメイトだったとは。

となると、

「あんた達、何やってんの?」

流架の予想通り、声が聞こえた方向にはアイス雑誌を本棚にめり込ませたあの女子生徒が腕組をして立っていた。彼女は流架と楽歩を交互に見ると、にやりと口角を上げた。

「へぇ…珍しいわねぇ」
「珍しいよね。がっくんが初対面の人に警戒心を抱かないなんて」
「あら、あたしが言ったのはそういう意味じゃないけど?」
「え?」

彼女の茶色い瞳が、流架を捉える。

「初対面で楽歩に普通に喋りかけれるあの子が珍しいって言ったの」

そう言って彼女はクスクスと忍び笑いをする。何故笑うのか分からず、流架は楽歩の髪から手を離すと、怪訝そうに眉根を寄せた。

「ごめんごめん。悪い意味で言ったんじゃないから」

こほんと一つ咳払いをしてから、彼女は流架の目の前にすっと手を差し出した。

「あたしは咲音芽衣子。よろしくね、流架」
「え?」

芽衣子は戸惑う流架の手を捕まえると、強引に握手をした。

「僕は始音海斗。よろしく、流架ちゃん」

それに習って、海斗も流架と芽衣子の手の上に自分の手の平を置く。

「我も忘れないでいただきたい」

流架の隣から音も無く伸びた楽歩の手も、そこに乗せられた。



決意が、揺らぐ。



友達なんていらないと思ったのに。壊してしまうくらいなら手に入れないと誓ったのに。彼らの手の温もりと温かな眼差しは、流架の心を閉じ込めていた氷をあっと言う間に溶かしてくれた。

「こっ…こちらこそよろしくお願いします!」

一歩、踏み出してみよう。
今しかない時間を、もっと大切にしてみよう。
いじめられるのは怖い。失うのも怖い。

でも、もう大丈夫。

だって、彼らと巡り会う事が出来たから。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

巡り会えたこの場所で 3

漸く主要キャストが揃いました。
こっからならシリアスでもほのぼのでもギャグでも何でも書けるぜ☆

それと、個性を出すためとはいえ殿の言葉づかいは目立つ…
いまどき自分の事「我」とか言う高校生いないよ。



補足そのいち

名字が「咲音」になっていますが、咲音メイコではありません。
MEIKOです。めーちゃんです。姉さまです。
KAITOも然りなので説明は省きます。
だって名字が思いつかなかったんだもん…(;_;)


補足そのに

「楽歩」なんですが「がくほ」と読みます。というか読んでください。
やっぱり…「ぽ」だと…ね?

閲覧数:354

投稿日:2010/04/02 22:18:44

文字数:2,029文字

カテゴリ:小説

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