「次は、蓮。お前が引くと良い」
蓮は、気のない仕草で、影鏡の前に立った。そして、そこに、ゆっくりと、手を伸ばす。水の中に、手を入れたような感覚の後、手に、何かが触れた。思ったよりも、柔らかい気すらもする、それは、チカチカと、瞬いているような気がした。その瞬きに、促されるように、蓮は、それをしっかりと持って、抜き出した。
ドキドキと高鳴る鼓動のままに、ぱっと、その欠片を見て、そこに書かれた言葉を見て、蓮の胸は、さらに、跳ね上がった。
「鈴(りん)!?」
そう。欠片には、達筆な字で、一字、“鈴”と書かれていた。普通の単語が出てくるのだと思っていた蓮は、まじまじと、その欠片を見た。
「わ、私!?」
鈴も、驚いた顔で、蓮を見て、それから、蓮の横から、やっぱり、まじまじと、その欠片を見た。
「そうだな。お前が思うのなら、“鈴”なのだろう」
後ろから、欠片に書かれた“鈴”と言う字を眺めて、ゆっくりと、楽歩が言った。
「俺が、思うなら?」
「あ! そっか! “鈴(すず)”かもしれないもんね!」
どこか、含みのある言葉に、蓮は首をかしげ、鈴が欠片を、自分の名の漢字を指差して、そう叫んだ。
「あぁっ! そういや、“鈴”を知らなければ、“鈴(すず)”か!」
鈴に言われて、蓮も、納得して、叫んだ。そうだ。そうなのだ。水の国の男たちは、“鈴(すず)”と読むだろうし、蓮も、また、本来、“鈴(すず)”と読まなくてはいけないはずなのだ。
「でも、何か、嬉しいな。うん。私も、絶対、“蓮(れん)”って、読んだよ! “蓮(はす)”の花だって、きっと、“蓮”って、読むと思うよ。だって、“蓮(はす)”は、“蓮”を愛しているし、“蓮(はす)”の花は、“蓮”の花だってことに、誇りを持っているもん♪ だから、“蓮”でいいの」
「“鈴(すず)”だって、絶対、“鈴(りん)”って読むさ」
「そうだな。そうなのだろう」
楽歩が、そう言って、微笑んだ。でも、その微笑みは、どこか、曇りがあった。でも、笑い合う蓮と鈴は、気付かなかった。
金色の輝き 月の響き
光輪 広げて 舞う 天の風
鈴 響くたびに 輝き増す
鈴 舞うたびに 広がりゆく
闇夜を照らす光 僕を導く
満ちる月の微笑み
蓮が歌い、差し伸べるように、手を振るごとに、鈴が鳴り、蓮の花が咲いて、蓮を包んだ。歌うたびに、月の輪でも、帯になって、降りてくるように、光の帯が棚引いて、夢のように、綺麗だった。
「うむ。見事な歌と舞だ。月が応えているようだったな」
楽歩が、そう言い終えるか、終えないかのうちに、鈴が、舞い飛ぶように、かけてきて、そのまま、蓮に抱きついた。まだ、夢心地のようだった、蓮は、よろめきながらも、何とか、しりもちをつくことだけは、堪えた。
「鈴?」
「何か、何か、ドキドキした! どうしよう! まだ、ドキドキが凄いよ?」
抱きついたまま、というよりも、しがみついたままといった感じで、鈴が言った。
「俺も、凄いよ。重なっちゃって、よくわからないくらいだけど」
鈴を包み込みながら、一つの音のような鼓動の音を聴きながら、蓮は、笑って、そう言った。
「何か、何か、ドキドキしすぎて、何も言えない感じなんだけど………ありがとう。凄く、嬉しい」
そう言ってから、鈴は顔を上げた。まだ、赤い顔いっぱいに、笑みを浮かべて、鈴が蓮を見た。胸が、また、ドキンと鳴る。
「蓮、大好き!」
嬉しそうに、こみ上げるモノを堪えきれないというように、鈴が言って、それから、フワリと、蓮から離れた。
「早くしよう! すっごく素敵なの考えちゃった!」
「わかった。では、しよう」
うずうずと身体を振るって、言う鈴に、楽歩も、そう言って、三人は、歌い、舞い出した。鈴は、ほとんど、蓮と、反対のことをして、舞っていたが、途中で、フワリと、空に、舞い上がった。嬉しそうに、風が、鈴を包み、鈴が鳴り響く。そして、光の帯が、羽衣のように、鈴を飾った。舞いながら、その様を、一心に、自分に向けられた、光り輝かんばかりの微笑みを仰いで、蓮は、改めて、彼女こそが、月の姫神子たる、天(あま)つ乙女なのだと思うのだった。そして、その彼女が、自分の対なのだ。
満月の光を、一身に受けているような気がした。ひどく、しあわせな時間だった。
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