「なんか、ミクに怒られんのは嫌だな、俺」
「別に怒っていませんよ」
「その口調は明らかに怒っていますけど」
そう言って、ごめん。とマスターはちょっとぶっきら棒な口調で謝ってきた。
「怒らせたいわけじゃないんだ。ただ、もう少し先まで隠しておきたかったというか」
もごもごと口の中で呟いて、マスターは、なあミク。と改まった調子で私の名を呼んだ。
「お前もやっぱり可愛い恰好とかしたいか?」
「…マスターは、私が可愛い方が嬉しいんですか?」
予想外の方向からやってきたマスターの問いかけだった。怒りを忘れて驚きながら私が問い返しをすると、質問返しは失礼だぞ。と顔を顰めて、けれど直ぐにマスターは少し照れた様子で笑った。
「そうだな。ミクがお洒落してくれると、実はなんか嬉しかったりする」
更に思いがけないその言葉に瞳を瞬かせて、本当に?と私は再び問い掛けた。
「だってマスターいままで私が衣装を替えても気が付かなかったじゃないですか」
「それはお前、」
私の言葉に何か反論があるのかそう言い返しかけて。ふと恥ずかしそうに口をつぐんだ。
「なんでもない」
「その様子、なんでもなくないですよ。…わかった。もう言わなかったら、パソコン内にあるマスターの秘蔵画像を全消去します」
そういうモノのフォルダー名を「秘宝館」にしないでください。露骨すぎます。
淡々と言ってやったその言葉に、ぎゃああ、とマスターは叫んだ。全消去とかよりも何よりも、見なかった事にしておいてほしい。と泣きそうな顔で切々と語りだしてしまった。
「なにこれ、何の罰ゲームですか。美少女なアプリに見られたくない秘密を暴かれるって、なに、オレもしかして厄年?」
「いや秘密どころか、名前からして隠す気が全くなかったですよね?」
そう突っ込んで置いて、それで、と私は脱線した話を元に戻した。
「それで。さっき言いかけた続き、なんですか?」
少し睨みつけるようにして言葉の続きを促すと、マスターは、これもまた罰ゲームだ。と更に眉をハの字に下げて、なんとも情けない顔になった。
「いや、ミクは少し服を変えたとか言うけどさ」
「はい」
ため息まじりにそう言って、情けない表情から一転、何故かマスターはふてくされた。何、今度は逆切れか?と私が首をかしげていると、そんなのさ。と更にむっつりとマスターは言葉を続けた。
「少しって、髪の毛のリボンの色を変えたとか、タイをちょうちょ結びのリボンにしたとか、スカートの裾にレースが付いてたとか。そういう、女の子のさりげない変化を指摘するのって、実はかなり恥ずかしいんだぞ」
ぶっきら棒にそう言ってマスターは、じっと私を睨みつけるように見つめてきた。
こんな事言うのが恥ずかしい、何で気が付かないんだよって、照れ隠しに怒っている。そんな眼差し。その視線に胸の辺りに熱が生じる。けれど、私はなんだか信じられず首を横に振った。
え、気が付いていたって。え、
「え、だって何も言わなかったじゃないですか」
驚く私に、だから、とマスターは恥ずかしいのか真っ赤な顔で荒い声を出した。
「だから、そんな些細なとこに気が付くって、どれだけミクが好きなんだよって話じゃん。なんか恥ずかしいだろ、それって」
早口でそう言うと、もういいと、マスターはそっぽを向いてしまった。
「本当は、もうすぐミクの誕生日だから、なんか服とか買ってやろうと思ってたけど。もういい。何も買ってやんない」
「え?」
「だから、さっきまでミクの服とかを見てたんだ。ネットで。お前がいると見れないだろ?誕生日まで内緒にしておきたかったんだから」
拗ねたようにそう言って横を向いてしまったマスターの姿に、生じた熱がじわりと胸から広がっていく。大輪の花がゆっくりと綻び開くように。
熱と痛みと、それすらも心地よいと感じてしまう痺れが、回路を通して体中に満ちて行く。思考不能。
どうしよう。どうすればいい?どうすれば、この熱を伝えられる?
熱を帯びた指先を伸ばしてディスプレイにそっと触れると、こつん、と爪の先が小さな音を立てた。その音にそっぽを向いていたマスターがこちらに視線を向けて、恥ずかしそうに笑った。
その笑顔一つで、私をがんじがらめにする事を、あなたは知らない。
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「...オズと恋するミュータント(後篇)
時給310円
愛しいだけで
触れたいだけで
謀りだとか蛇の囁きが
耳につく
契約は未完成
不可思議な関係
いつからなんだっけ
あなたと会える放課後を
待ちわびてる
ᛁ ᛚ ᛟ ᚡ ᛖ ᚤ ᛟ ᚢ...アフタースクール
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悲報!ワイ!ニート!
Shu feat. ミク&ルカ&リン&レン&KAITO&MEIKO
HEY! HO! NEET!
Shu feat. Miku&Luka&Rin&Len&MEIKO&KAITO
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Music/Lyric...悲報!ワイ!ニート! | Shu feat. ミク&ルカ&リン&レン&KAITO&MEIKO
Shu
一度目のときめきは偶然で
二度目のドキドキは必然なの?
三度目の甘い胸の痛みに
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君のことをひとつ知るたびに
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真麻
If I realize this one secret feeling for you
I dont think i would be able to hide anymore
Falling in love with, just you
Tripping all around and not ...今好きになる。英語
木のひこ
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ご意見・ご感想
藍流
ご意見・ご感想
うぁあ……!
微笑ましいのに! 単純にここだけ読むとリア充なのに……!
ときめくやら先を思って苦しいやら、部屋を転げ回りたくなりました。
しかしミクさん、その変化はささやか過ぎて確かに男の子には難易度高いよ。
それをさらっと指摘できる高校生男子は、余程モテてそれを自覚して女の子慣れしてるヤツくらいだよw
2011/07/04 14:50:31
sunny_m
>藍流さん
本当だわww
そんな高校生男子マスター嫌だぁ?
でもこの年頃の女子(っていうか恋する女子)はそういう些細な変化も気がついて欲しいんだけど!というのがあるかな。とww
2011/07/04 20:48:40