「カガリビト」2章【ココロ】②の続きです。




 ドアを出ると、また同じ研究室だった。
 今度は、薄暗く、薬品の匂いが立ち込める、金属のパーツと資料の山で埋め尽くされた見慣れた部屋だった。しかし、そこは何年も人が出入りしていないように、ホコリがたまり、クモの巣が張っていた。
全てが灰色と黒色の部屋の中で、その鮮やかな黄色いロボットは床に倒れていた。
「リン・・・!」
僕は倒れているロボットに駆け寄った。
「リン!リン!!大丈夫か?!」
僕はリンを、いつも座っていたメンテナンスシートに座らせ、パソコンの電源を入れた。
パソコンは鈍い音を立てて動き出し、研究所に光が灯る。
「♪ピローン!」
パソコンが起動すると共にメッセージウィンドウが出てきた。
『外部接続先、データがありません』
恐らく、兄さんにココロを奪われた後なのだろう。リンはぐったりして、反応がない。
「リン・・・ごめんね。ちょっと待っててね・・・」
僕はレンジさんから預かったUSBメモリーを取り出した。その中では、変わらず黄色い炎が煌々と燃えていた。
「レンジさん・・・待っててください」
僕はUSBメモリーをパソコンに接続した。
『更新プログラム発見。インストール開始』
パソコンから延びる数々のケーブルを通って炎と同じ黄色の光が、リンの中へと入っていく。すると、今まで生気の無かったリンが、みるみる活気を帯びていく。
『インストール完了』
「リン・・・!」
僕はリンに近づいた。
「コンニチハ、ワタシのナマエはリン。レンジ博士に作ラレタ、ロボットデス」
聞きなれた棒読みの音声が聞こえる。レンジさんの口癖の様に言っていた言葉が思い出される。
『ここまでは完成した。基礎の出来ている。後は、あとはココロに点火するだけなんだ・・・』
僕は、リンに近づいて瞳を見つめた。青い瞳から透けて見える機械のその奥に、煌々と燃える黄色い炎。
「後は、リンダさんから預かったカガリ火を・・・」
僕は折れて動かない右手を左手で支え、リンの胸にあてがった。そして、深く息を吸い込み、叫んだ。
「我が右足を贄とし、この者に預かりしカガリ火を灯したまえ!!」
右足に激痛が走り、燃え上がる。その炎は僕の右手を通して、リンに流れ込む。
レンジさんの黄色い炎と、リンダさんの黄色い炎がリンの体内で合わさった瞬間、それは眩い光を発しながら爆発的に燃え上がった。
薄暗かった研究所内が、温かな黄色い光で満たされる。
「あ・・・・、あ・・・・」
リンの目から液体が流れだす。
「あ・・・・、あ・・・・・ありがとう・・・」
リンは苦しそうに言葉を搾り出した。
「あ・・・・ありがとう、お父さん。この世に私を生んでくれて・・・」
僕は炎の中に映像を見た。

楽しそうにロボットを作るレンジさんとリンダさん。
レンジさんの為に嬉しそうにUSBメモリーを買うリンダさん。
リンダさんの写真を眺めて、一人泣くレンジさん。
制作がうまくいかず頭を抱えるレンジさん。
リンが完成して喜ぶレンジさん・・・。

「ありがとう・・・ありがとう・・・一緒に過ごせた日々を・・・」
僕は炎の中に、ココロを見た。
「ありがとう・・・お母さん。あなたが私にくれた全て・・・」
僕は黄色い光に飲まれ気を失った。


「ありがとう・・・ありがとう・・・」


夢か幻か、僕は幸せそうに親子三人で手を繋ぐ、レンジさん、リンダさん、リンの姿を見た。
三人は僕に気がつくと、リンダさんが一礼し、レンジさんが右手を軽く挙げ、リンが笑顔で手を振り、どこか遠くへと行ってしまった。




気がつくと、僕は研究室のドアの前で倒れていた。
「痛っ・・・」
起き上がろうとするも、右手は折れていて力が入らない。右足にはいつの間にか義足が付いている。僕は左手の義手と両足の義足を器用に使い立ち上がる。
研究室に入ると、レンジさんが倒れていた。
「レンジさん!」
僕はレンジさんに駆け寄った。
レンジさんのカガリ火は消えていた。でも、その顔は幸せそうに笑っていた。
僕はパソコン画面を見た。そこにはメールで
『ありがとう、お父さん。この世に私を生んでくれて。
ありがとう、一緒に過ごせた日々を。
ありがとう、お母さん。あなたが私にくれた全て。
ありがとう。ありがとう。
                     リン』
と書いてあった。添付の音声ファイルはもう壊れてしまっていた。

僕はレンジさんを地上の工場跡の近くに埋葬した。
その手に、空になったUSBメモリーを握らせて。


僕は研究室に戻り、椅子に座って少し眠った。
そこで夢を見た。


燃え上がる大地、落ちてきた青空、死に絶えた生命、そして、緑の髪のボロボロのロボット・・・。


 僕は目を覚ました。
「・・・・行かなくちゃ」

僕はメンテナンスシートに座るリンにお別れを言い、研究室のドアを出た。



ドアを出ると、そこは薄暗い部屋の中だった。




「カガリビト」3章【ハロー、プラネット。】①に続く→

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

「カガリビト」2章【ココロ】③

※これはmillstones様の素晴らしい楽曲「カガリビト」を元にした「悪ノ娘」「ココロ」「ハロー、プラネット」の二次創作です。私の妄想です。
ちなみに
「カガリビト」・・・楽曲を聞いただけ。設定読んでない。
「悪ノ娘」・・・小説は一回読んだけど実家に置いてきてしまった。
「ココロ」・・・楽曲は聞いた。小説もミュージカルも見てない。
「ハロー、プラネット。」・・・楽曲は聞いた。ゲームやりたいなぁ。
てな感じで、かなり原作様とは食い違っていると思います。勉強不足ですみません。
・あらすじは、カガリビトの少年アレクが楽曲の世界を回ってカガリ火を灯していくお話です。
・中途半端に原作を汚されたく無い方は観ないことをお薦めします。

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投稿日:2013/01/20 01:58:33

文字数:2,084文字

カテゴリ:小説

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