東京・原宿で人気の玩具専門店「キディディ・ランド」。
ここの店長は、ちょっとそそっかし屋だけども明るい、カイくんが務めている。
毎日子供からお年寄りまで、いろんなお客が、欲しいものを探しにやってくる。忙しい毎日だ。
「こんにちは」
今日は、お店に、シンガーのハクさんがやってきた。
「やあ、いらっしゃいませ」
「久しぶり」
彼女は、ふだんは居酒屋でアルバイトをしながら、週に何日か、バーで歌い手として歌っている。カイくんの店の、なじみ客の一人だ。
「あのー、リラックス・グッズって、ある?」
ハクさんは尋ねた。
「はい、ありますよ。どんな感じのものをお探しで?」
「何でもいいんだけど...」
カイくんは、ハクさんを売場に案内した。
●ストレス解消は、お酒よりグッズで!
ツボ・マッサージ・ローラー、あんま用のグッズ、ふみ竹、小まくら、ぐりぐり棒...。いろいろ揃っている。
ハクさんは売場を見渡して、
「どうしよう...」
カイくんは聞いた。
「どこか、お疲れなんですか?」
ハクさんは髪をかきあげながら言った。
「わたし、気持ちが落ちこんだりすると、すぐお酒飲んじゃうでしょ」
カイくんはうなずいた。
ハクさんは、お酒が大好きなのだ。
彼女は前に、ミニ洋酒ボトルを買いに、このお店にあしげく通ったことがある。その頃からの、なじみの客なのだ。
「居酒屋のバイト仲間で、仲良くしてる女の子が言うのよ。“ハクさん、ストレス解消にはお酒より、リラックス・グッズがいいよ”って」
「ええ、お酒はあんまり過ぎると、ね」
カイくんは、笑ってうなずいた。
「ワタシ、だからリラックスグッズ、使ってみようかな、と。なんか、最近、肩も凝るし...」
「そうですか。いいものがありますよ」
彼は、肩をマッサージする、木製のアイテムをとり出した。
「リラックス棒っていいます。肩に当てて押すんです。疲れもとれて、気持ちいいですよ」
「そう...使ってみようかな」
●ハクさん、陶酔のステージ!
それから、しばらくして。
ハクさんがまた、店にやってきた。
「いらっしゃいませ!」
「どうも。このあいだ買ったの、いいわね。けっこう、手放せなくなっちゃって」
「それは、よかったですね」
ハクさんは、ちょっと首をかしげて言う。
「夜も、わりとよく寝られるし。毎日のお酒も、ふた瓶目に手が伸びなくなったのよ」
え?ふた瓶!? ...すご...まぁいいや。
「きょうも、見ていかれます?リラックス・グッズ」
「いいのがあったら買おうかな。でもね、この前、ちょっとドジっちゃった」
「おや。どうしました?」
ハクさんは、肩に手を当てて、言った。
「ワタシ、いつも自分の部屋で、自分の歌う曲をかけながら、マッサージ棒を使ってるの。肩に当てて」
「それはリラックスできそうですね」
「ええ」
ちょっとため息をついて、ハクさんは続けた。
「それで昨日、バーの仕事で、その曲を演ったの」
「お仕事でね」
「で、間奏の時、目をつぶっていたら、持ってたギターのネックがちょうど肩に当たって、あ、気持ちいいなって...」
「ギターが、肩に?」
「そう。気がついたら、バンドのベースの人が、必死で私をつついているのよ。とっくに間奏は終わっちゃっててね。あわてて歌い出したんだけど」
「あれー、ドジりましたね」
「あとでバンドの皆に聞いたら、ワタシ、間奏のあいだじゅう、口を大きくあけて、ギターで肩をぐりぐりしてたんだって」
ハクさんは赤い顔で、うらめしそうに言った。
カイくんは思わず笑いそうになって、あわてて真顔に戻った。
「気にしない気にしない、ハクさん」
...でも、ステージのハクさんのそんな顔、ちょっと面白そう...(^ ^)
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