「ル、カ・・・?」
静かな病室に、今にも消えそうな小さな声が響く。
「めぐみ!?」
「あ・・・あたしの赤ちゃん・・・・!」
めぐみは自分の腹部に手を当てた。
「いない・・・水しか入ってない!!」
「めぐみ・・・」
「どこにもいないよぉ!!」
めぐみは泣きじゃくった。
めぐみの赤ちゃんは実際まだお腹の中にいたけれど、転落の衝撃で死んでしまった。
「ルカ・・・あたし、もう赤ちゃん産めないの・・・?自分の子、産めないの!?ルキとももう会うなってお父さんから言われちゃったの!!あたし・・・いやあああああああ!!!」
半狂乱になるめぐみを前に、私はどうすることもできなかった。
明るい笑顔で、毎朝私に『おはよう!』と元気に言ってくれためぐみはどこへ行ってしまったの?
そこに寝ている私と似た顔の人は誰?
私と毎日のように口喧嘩をしていたルキはどこへ行ってしまったの?
これは・・・
(覚めない悪夢?)
夢なら早く覚めて――
「めぐみ!」
病室のドアが勢いよく開き、目を涙でぎらぎらさせながら、息切れのせいで肩を上下に動かすマナが居た。
「ルカのお母さんとお父さんから聞いたの!!めぐみ・・・辛かったね、めぐみ・・・!!」
「マナ・・・」
マナはめぐみをしっかりと抱きしめた。
「めぐみさん・・・?」
「めぐ・・・?」
病室のドアから、ユリとマモとマルが顔を出した。
「大丈夫?・・・何て言えないけど」
ユリがそっとめぐみの手に触れる。
「もうイヤ・・・・」
めぐみはユリの手を振り払う。
「もう帰ってよ!あたしの気持ちなんて・・・あたしの気持ちなんて分かんないくせに!!みんな、自分の赤ちゃん産んで育てることできるんでしょ!?好きな人と結ばれることだってできるんでしょ!?みんな・・・みんなできることが、あたしにはできないんだよ!?みんなあたしのこと自分より低い人間だって思いながらここに来たんでしょ!?早く帰っ・・・」
「できねぇよ!!」
めぐみの肩がびくっと上がる。
「俺は・・・俺は好きな人と結ばれる事だってできねぇし、好きな人との子供だって見ることできねぇよ!!俺の・・・俺の好きな人はッ・・・!」
「マル!」
「姉ちゃんだから・・・!」
言った。
マルが、真実を。
私が見た、めぐみが見た、ずっと隠されていた真実を。
「確かに俺にお前の気持ちなんか分かんねぇよ。でも・・・お前に俺の気持ちが分かるか?自分の姉ちゃんに欲情した馬鹿ってレッテルを貼られて今日までいた俺の気持ちが分かるか!?子供が産めなくても・・・子供が産めなくても、お前は好きな人の傍に居ること出来るじゃねぇか!!俺なんかできねぇんだぞ!?どうせ姉弟なんて離れる運命なんだよ!お前も俺等の関係知ってて気味悪いとしか思ってなかったんだろ!?」
気味悪くなんか無い・・・
私も最初、気味悪いと思ってた。でも・・・・
私は『姉に、弟に恋をする』という人とは少し違う感覚を気味悪いと思っていたんだ。
でも、違う。
そういう人だって世の中には居る。
ただ、血のつながりの無い異性に恋する人が『多い』だけで、みんながみんなそういう訳じゃない。
同性に恋する人だって居るだろうし、もしかしたら自分自身に恋する人だって居るかもしれない。
私は漫画や物語だけの世界だと思っていた事が自分の目の前で起こって混乱して、気味悪いという言葉で片付けていた。
「でも・・・子供産めないのはイヤ・・・・ルキとももう会えないし・・・」
めぐみも私と同じことを思ったのか、俯いて悔しそうに言った。
「あたしの・・・あたしの赤ちゃん・・・・もう、会えないの・・・?」
「私が!!」
めぐみを抱きしめた。
「ルカ・・・?」
「私がめぐみの子供産んであげるから!」
「へ・・・?」
自分でも、何を言っているのか分からない。
「めぐみが産めないなら、私が産んであげるから!お腹痛めても、何してでも産む!!めぐみは私にいろんな事を教えてくれたから・・・」
「ルカ・・・ッ!」
めぐみも私の事をぎゅっと抱きしめてくれたのが分かった。
「ありがとルカ・・・そう言ってくれてほんとに嬉しい・・・・」
「うん・・・うん・・・」
めぐみと私は泣いた。
静かな部屋に、私とめぐみ以外のすすり泣く声も響いた。





ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

ボカロ学園!68


閲覧数:370

投稿日:2010/05/16 21:23:57

文字数:1,766文字

カテゴリ:その他

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