発想元・歌詞引用:U-ta/ウタP様 『創世記』



 波が高くうねり、激しい上下動がパイオニアたちを奈落の底へ突き落とす。
 パイオニア達の背丈の、実に十倍以上の脅威が襲い掛かる。

 静かな湾を出た直後。目的の潮の本流に乗る前。最悪のタイミングで嵐となった。
 導きの木の葉の道は掻き消え、強い風が前後不覚となったパイオニアたちを翻弄した。

「サナっ!」

 ミゼレィが、強い力でサナファーラを掴んだ。
 サナファーラは、口と目を見開いて、襲い来る雨と潮の中で呼吸をするのが精一杯である。

「ダメだ! この船はバラけるぞ! みんな、手近な浮くものに体を縛り付けろ!」

 それぞれが、思い思いの板切れや柱に、縄で自分の体をくくってゆく。

「ファーラ! なにもたもたしてるんだ!」

 ミゼレィは何とか自力で板に体を固定したが、サナファーラは体力の低下とともに手がふるえて、縄を握ることもままならなかった。

「なにやってんだよお前!」

 ティルが、自分の縄をいったん板切れから外し、サナファーラに近づいてきた。
 大きく揺れる船の上で、何度も転びかけながら。

「さっきの小刀! 出せ!」

 降りしきる雨と、轟音とともにたたきつける波の中、ティルがサナファーラの体を縄で身の丈と同じくらいの板切れにきつくくくりつけた。

「これでよし!」

 ティルが、そう叫ぶとまっすぐにサナファーラに小刀を向けた。
 ドン、と響いた音に、サナファーラはびくりと目をつぶった。

 目をあけると、サナファーラの帯に、小刀が突き立てられ、服が板切れにしっかりと止められていた。

「ミゼ! お前は昔っから体力だけはあるんだから、」

 ティルが大きくよろめいて、サナファーラの腰を板に縛り付けている縄を、ミゼレィの手に押し付けた。

「こいつを放さないでやってくれ」

 ぐらりと船がゆれて、ティルがすべっていった。

「ティル?!」

 そういえば、他の仲間はもう見当たらない。
 きしむ船の音がいよいよ大きく聞こえ始める。

 そしてティルは、サナファーラの固定に時間を使って、まだ自分の分を準備していない。

「ティル!」

 そのことに気づいたサナファーラが手を伸ばす。

「大丈夫だ! 来るな馬鹿野郎! その大きさの板切れの浮力に、二人は無理だろうが! 」

 ドン、とたたきつけた波が、船べりのティルを頭から洗った。

「お前が、さっき言っただろ! 俺たちは、導きの木の実を見たんだ、縁起が良い、同じ潮に乗るんだから、きっとあたしたちもたどり着けると! 」

 ざん、と風がサナファーラたちにたたきつけた。
 船が大きく揺れた。

「信じるぞ、『サナファーラ』!」

 カッ、と稲光が視界を焼いた。
 ドン、と大きく波が船を打った。

「きゃああああっ!」

 ミゼレィとサナファーラが叫ぶ。

「テ……」

 そして。

 ふたりが見たものは、暗く踊る波と、誰もいなくなった船べり。

 船に乗っているのは、二人だけだった。


「ティル――――――――! 」


 風が、木の葉のように船を吹き上げた。
 雨が二人の体を荒れ狂う海面に叩きつけた。
 波が視界を回し、口をふさぎ、耳に水が流れ込んで感覚を奪った。

 時折白く稲光が光る。
 荒れ狂う自然の中で、海に出た小さなパイオニアは、なすすべもなく波と風と雨に嬲られつづけた。



……続く。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

小説 『創世記』 13

発想元・歌詞引用:U-ta/ウタP様 『創世記』
 音楽 http://piapro.jp/content/mmzgcv7qti6yupue
 歌詞 http://piapro.jp/content/58ik6xlzzaj07euj

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投稿日:2010/04/10 00:46:52

文字数:1,432文字

カテゴリ:小説

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