本日クリプト家は、朝から戦場と化していました。何故ならば今日はカイトさんの誕生日で、皆さんお祝いの準備に――また自分こそが一番にプレゼントを渡そうと、互いの隙を探り合って――大忙しだったからです。

「ちょっとリンちゃん、何処行くの!」
「抜け駆けはいけませんわね、リンさん」
「チッ……そういうミク姉も、後ろ手に隠してるのは何? ルカ姉も何か背負ってるでしょ、髪長いからって誤魔化されないからね!」
「えっ、べべべ別にな何も隠してなななないよ!?」
「わ、わたくしだって……うふふふふ嫌ですわリンさん、目の錯覚ですわよ」
「嘘つけ!! あとミク姉、どもりすぎ」
「アンタ達、いいからまとめて帰ってきなさい! 料理が間に合わないじゃないっ」

 流石に長姉の貫禄で、メイコさんが取りまとめています――が、それもまた、全員を駆り出す事で足止めし、抜け駆けを防いでいるだけなのでしょう。現に――

「メイコ姉、こっち終わったぜ」
「じゃあ次はこれ、茹でて潰して。ミク、ルカ、ケーキ焼くんでしょう? リンは生クリームホイップして」

 ――これからケーキを作るのに先にクリームの用意をするのは気が早すぎじゃないでしょうか。レン君も先程から次々に仕事を言いつけられて、一人で3人分くらい働かされています。当然不満でしょうに、顔を顰めながらも黙って従うのは――っと、

「賑やかだねぇ、皆。おはよう」
「お兄ちゃん!」「兄様」「カイ兄っ」「カイト兄」「カイト」

 ああ、今日の主役が御登場です! カイトさんが『主役』なのは、今日に限りませんがね!
 ひょこりと入口から顔を覗かせるカイトさんは、年に一度の(いえ、彼の場合は『二度』なのですが)特別な日だというのに普段通りで、ふんわりとした笑みでキッチンの空気を塗り替えてしまいました。流石です……!

「ふふ、今年はまた御馳走だね。ありがとう、皆」
「!! お兄ちゃん……っ」
「いっやぁカイ兄、これっくらい大した事ないってぇ!」
「記念すべき兄様のお生まれになった日ですもの、当然ですっ」
「アンタ達、そういう事はレン並みに貢献してから言いなさい」
「や、いいってメイコ姉。やり直す方が手間だろ」
「っはぁ?! どういう意味よレンっ!」
「聞き捨てなりませんわね」
「まったくっ! 私まで一括りにしないでよねっ」
「それもどういう意味よミク姉っ!」
「あぁあっ、いいから手ぇ動かしなさいっての!」
「だーから言ってんだって。ポテトサラダ出来たぜ、……」

 おや? ちょっとカメラ、寄ってください。レン君、クールに呆れた表情を装ってますが、僕の目は誤魔化されませんよ! 何ですかその「……」は!

「あーっと、カイト兄、味見てくれるか? まぁカイト兄ほど上手くは出来てねぇと思うんだけどさっ」
「はは、何だ謙遜かい? レンは料理上手じゃないか、手際もいいし」
「そっそうかなっ!?」

 あぁっやっぱり! そんな事だろうと思いましたよ、お姉さん達の争いに『我関せず』みたいな顔してても、結局は君もカイトさん大好きっ子なんですから!!
 天使の笑顔で褒められて、首まで真っ赤にして……ずるいですよレン君! ほら、お姉さん達も黙っていません!

「レンっ?! 何一人だけ良い目みてるのよっ」
「卑怯、レン君卑怯!」
「わたくしだって、兄様がお望みならお料理上手になります! そして……毎朝兄様の為に御味噌汁を……」
「そこっ! ちゃっかり変な妄想広げない!」
「いい加減にしなさいアンタ達っ、戦力になる気無いんなら追い出すわよ!」
「ちょ、メイコ姉、それは駄目だろ! カイト兄までまっしぐらだぜっ」
「はっ――じゃあ簀巻きにして転がしてっ」
「か過激だよお姉ちゃんっ」
「ぼっ、暴力はんたーい!」
「そうですわメイコ姉様、レディがそんな事なさってはいけませんっ」

 うーん、見事なカオスっぷりですねー。渦中の人はといえば、……ああ、可愛らしくキョトンとしておいでですね。罪作りな人です。そこがまた魅力なのですが!

「あーもう、だったら買出しに行かせるのでどうよ!」
「へ、平和的にはなりましたけれど」
「その隙にレンとかめー姉とかがヌケガケしちゃうじゃんっ」
「そうだよねっ! 家から出るとか絶対ナシ!」
「……何かよく解んないけど、買い物だったら俺が行くよ?」
「ほらお兄ちゃんもこう言って……って、それも駄目ー!!」
「主役がパシってどーするのカイ兄!」
「そうですわ、兄様はどうぞゆるりとお寛ぎくださいませ」
「でも大変そうだし……俺は手伝っちゃ駄目なんだろう?」
「当然だろ、カイト兄のお祝いなんだぜ!」
「……うん。皆がそうやって準備してくれて、嬉しいからさ。買い物くらいさせてよ、落ち着かないし」

 にっこり、と。そのまま額に入れて飾りたいような素晴らしい微笑みでした。騒々しかった弟妹方も、この笑顔の前には頬を染めて息を呑むばかり。そうでしょうとも、その場にいない我が身が口惜しい……!
 ああ、さしものメイコさんも敵わなかったようですね。何やらメモに書き付けています。

「仕方ないわね、収拾付かないし。じゃあカイト、財布と買い物メモ。落とすんじゃないわよ?」
「やだなぁめーちゃん、子供じゃないよ」

 ……! クスクスと、照れ臭げに笑うカイトさん――ちょっカメラ、いろはさん! もっと寄って!!

「――?」

 もっと――って、あぁ?! カイトさんの視線がこちらに! 気付かれた?!
 カイトさんが、困ったような苦笑を浮かべて――

『めっ』

 ――無声音で優しく叱られたーーー!!
 撮りました? 撮りましたねいろはさん、永久保存ですよっ!!



 * * * * *



「――永久保存ですよっ!! 間違って消したとか許しませんからね、生命より大事に持って帰ってらっしゃい!」
「ねーミキちゃん、先生何してるのかなぁ」
「しっ、見ちゃダメよユキちゃん!」

 朝からディスプレイの前でエキサイトしている先生の背中を眺めて首を傾げると、ミキちゃんは口の前に指を立てた。それから難しい顔をして先生に近付いて、後ろからスーツの襟首に手をかける。

「キヨテル? ちょーっと顔貸してもらおうかしら?」
「ぅぐっ――ミ、ミキさん? 何するんです、苦しいじゃないですか」
「喧しいわ。ユキちゃんもいるってのに、何やってんのよ」
「何って、偵察ですよ。並居るライバル達を出し抜くには、情報収拾が不可欠なのです」
「もっともらしく訳わかんない事言うな!」
「何が解らないものですか、厳然たる真理です! それを怠ったが為に、インタネ家のお嬢さん達は大変な目に遭ったんですよ!?」

 真顔で言い切った先生が、ふっと遠い目で何処かを見る。「訊いてなーい!」っと叫ぶミキちゃんをスルーして、回想、スタート。



 * * * * *



 あれは3日前、カイトさんのお誕生日(1回目)兼バレンタインデーの事でした。
 グミさんとリリィさんが、クリプト家を訪れました。ハート飛び交うラッピングを施した包みを手に、意気揚々と――無謀にも――正面から。

「こんにちはー! カイトさん、います?」
「お誕生日だって聞いてっ、お祝いを――」
「「「いません帰れ」」」
「ちょっ?!」
「いきなり門前払い!?」
「お兄ちゃんに何の用!?」
「いやだからお祝いって言ったじゃん!」
「間に合ってますわ! お引取りくださいませっ」
「意味わかんないですよ! お留守ならこれ、カイトさんに渡して――」
「やめなよグミ姉、絶対渡されないって!」
「えぇ~ひっどいなぁリリィちゃん――わかってんじゃない」
「黒っ! リンちゃん怖っ!」

 愚かにも無策で突撃した二人は、地獄の門番ケルベロスも尻尾巻いて逃げ出しそうなトリオに阻まれてしまいました。その様はまさに、玄関開けたら2秒でバトル。エンカウント率、鬼仕様です。
 勿論、カイトさんが不在だなどというのは出鱈目です。となれば当然、この騒ぎを聞きつけて出ておいでになるのですが――

「どうしたの、お客さん?」
「何でもねぇよカイト兄、何か勧誘! オレも行って追い返してくっから!」
「え、でも声に聞き覚えが」
「気のせいだ! 疲れてんじゃねぇのかカイト兄、『お誕生会企画』とかあちこちであって忙しかったろ」
「え、……そう、かな?」

 どきっぱりと断言され、気配り屋の弟の顔で労わられて、カイトさんは戸惑いながらも頷きかけます。それでもやはり玄関を気にする視線に、レン君が奥の間へ送るアイキャッチ! 即座に応えてメイコさんが上げる、絹を裂くような悲鳴――!

「ぅわ?! ど、どうしたのめーちゃんっ!」
「イヤー! 助けてカイト、変な虫がぁ~!」

 咲音時代に取った杵柄でしょうか、日頃の姉御肌な姿とは結び付かない可憐な叫びでした。うっすらと涙の色で潤んでさえいたのです――メイコさん、意外に演技派でした。
 こうなってしまうと、カイトさんの取る行動はひとつです。かくしてバックアップ部隊の見事な連携によって、バトルフィールドと化した玄関での攻防から彼は遠ざけられてしまいました。残されたのは、哀れな二人と鉄壁の護り。しかもそこには、レン君も参戦です。

「さぁお二人さん、帰るんなら今のうちだぜ?」
「完全に悪役の台詞!? ってか今カイトさんいたし!」
「あはは、何の事ですか」
「不自然に爽やかな笑み&敬語! ご、誤魔化されないわよー!」
「諦めが悪いですわね! いいですこと、兄様はわたくし達の兄様なのです!」
「そういう事っ! いい加減にしないと奥の手出しちゃうよっ」
「お、奥の手?」
「っは、何よ、そんなチンケな脅しで――」
「ふぅん? いいの、やっちゃうよ? ――レン」
「おうよ」
「「――ロードローラーーー!!」」
「「っきゃーーーーー!?」」
「ちょ、死ぬ、シャレになんないっ」
「こんなのアリなの?! 卑怯すぎ――はっ」
「えぇ、えぇ、いかにも。兄様曰く――」
「――『卑怯は褒め言葉だ』!! まだ足りないなら、はちゅねロボとか喚んでみる!?」
「わたくしから、たこルカもお付け致しますわよっ」

 ――無惨、でした。 

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

争奪★ Happy Birthday!【兄誕*第4夜】

KAITO誕ひとり祭り『兄誕』、5つめのUPです。愛され兄さんが書きたかったんだ!
「前のバージョン」で続きます。

閲覧数:549

投稿日:2011/02/17 23:35:05

文字数:4,221文字

カテゴリ:小説

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  • アリサ

    アリサ

    ご意見・ご感想

    こんにちは
    アリサです


    誕生日はいいですよねー
    カイトも皆に愛されてて,いいですねー

    まぁ,カイトだからこその,愛され具合なんでしょうけどww


    キャラもいっぱい出てきてて,読んでて楽しかったです!


    それでは,失礼しました~

    2011/04/02 13:52:51

    • 藍流

      藍流

      こんばんは、アリサさん。
      どうもお疲れ様でした?!

      ひたすら愛されてる兄さんが書きたかったのですよ?(これ以前に書いた話では割と不憫だったのでw)
      うっかりオールキャラにしたらえらい目見ましたが、楽しんでいただけて良かった!

      あれこれお読み戴いた上にコメントまで、本当にどうもありがとうございました!

      2011/04/03 02:58:07

  • 時給310円

    時給310円

    ご意見・ご感想


    だから祝いすぎだと何度言ったらw

    どうもこんばんは、藍流さん。あまりのテンションにつられて、も1つコメつけに来ました。
    ボカロキャラ総出撃ですか! ああ、それって僕的には去年のミク誕を思い出します。返す返すも満足行く出来ではなかったあの小説…… 。・゜・(ノД`)
    その点、藍流さんはさすがですな! 1人1人のキャラがしっかり立ってて、セリフが連続していても、どれが誰のセリフなのか自然に理解できました。そして特筆すべきは、何と言っても、最初から最後まで全く衰えないハイテンション! 素晴らしかったです。

    ハッピー・ライブラリの歌詞も拝見させて頂きましたよ。
    くそ~、なんでカイトってこんなにモテるのかなぁ。もうおまえ來果さんかボカロガールズか、どっちかにしろよ。そしたら違った方を俺がもら、おや誰か来たようだ。

    読んでてすごく楽しかったです、どうもありがとうございました!
    次回作も楽しみにしています、がんばって下さいね。またです!

    2011/02/18 22:36:10

    • 藍流

      藍流

      愛が漲りすぎましたw<祝いすぎ

      こんばんは時給さん、こちらにもコメントありがとうございます!ヽ(*´∀`)ノ
      テンポ良く進める為に地の文抑え目で書いたんですが、台詞だけで誰か判るか心配だったので伝わって良かった! ルカさんとめーちゃんは良いんですが、他の女性陣は書き分けがキツかったので^^;

      ハイテンションとのお言葉もありがとうございます!
      そういえば私、最初はコメディ寄りで書いてたんですよ(←種っ子連載) 『KAos?』がああいう話だったので忘れてましたけど(でも最近はカイトさんが本領発揮してきてますけどw)
      ピアプロにコメディ成分を補充する一助になれたでしょうかw

      歌詞も見ていただいてありがとうございます!
      『來果が作った』設定なので、カイトの心情に寄り添うと自惚れっぽいし、でも來果の心情にしちゃうとカイトに歌わせるのに変だし……と調整に苦心しました。
      兄さんがモテるのは、やはりあのα波半端ない美声の効果が大きいのではw あとなんか、可愛い。

      コメディなのにえらい長くなって書きながら動揺しましたが、楽しんでいただけたならば幸いです。
      書いてる私も楽しかったですw 特にガチャ坊&がくぽのインタネ兄弟とかwww

      本日……日付変わったから昨日ですね、『後夜祭』も無事にUPしました。
      我ながらえらい勢いでしたが、ホント楽しかったです。
      お付き合いいただいてありがとうございました!

      2011/02/19 00:54:40

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