「さあ、お立ち会いお立ち会い!」
町角で、つぎだらけの服を着た少年が客寄せをしている。
「本日披露いたしますのは、今は昔、断頭台に消えたお姫様の哀れな哀れな悲劇でござあい!
ハンカチを持っている方はご用意を! ない方はお気の毒!
その際は、どうぞバスタオルをお持ちの上 お聞きくださあい!」
周りの観客から、くすり と笑いが漏れる。
と同時に、粗末な木箱のステージに、同じくつぎをあてた服の少女が上がる。
金の髪にふせられた瞳が何色なのか、知る者はまだいない。
「お代は見てのおかえり!
どうぞご堪能ください……」
少年が少女の後ろに消え、少女が目を覚ます。
はちみつ色の瞳が観客を捉え、小さな口に空気が吸い込まれる。
旋律が、溢れ出た。
『昔々或るところに
悪逆非道の王国の
頂点に君臨するは
齢十四の王女様』
その歌に、観客は一瞬で歌に引き込まれた。
透明な声は耳を通じて体に広がり、自分の中の何かを満たしていく。
その何と心地の良いことか!
歌は続く。
『悪の華 可憐に咲く
鮮やかな彩りで
周りの哀れな雑草は
嗚呼 養分となり朽ちていく』
歌の中で、王女はそれはもう生き生きと隣国を滅ぼし、
やがて自分の身をも、破滅へ導いていく。
『ついにその時はやってきて
終わりを告げる鐘が鳴る
民衆などには目もくれず
彼女はこう言った』
「アラ オヤツノジカンダワ」
突然の台詞に、観客はびくりと体を揺らす。
刹那、王女が乗り移ったかのように、少女の目はうつろとなり、
その唇から漏れた声は、おおよそ生きた人間が出せるものではない不協和音を奏でた。
歌は最終章に差し掛かっていた。
『悪の華 可憐に散る
鮮やかな彩りで
後の人々はこう語る
嗚呼 彼女は正に悪ノ娘』
ぼろのスカートの裾をつまみ、少女が一礼したとともに、歓声と拍手がわき起こった。
少年の回す帽子に、次々と小銭が差し込まれていく。
興奮が少し収まったところで、少年と少女は深く礼をし、舞台は幕切れとなった。
観客の波が去っていく中、少年は少女の、少女は少年の手を取り、互いに微笑んだ。
「……帰ろうか」
「そうだね」
二人は歩き出す。
その先にあるのは果たして地獄か天国か。
それは、まだ誰も知らない物語。
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