THE PRESENT the first half of side:C
「ん、ん……」
ベッドからそんなうめき声が聞こえてきて、ルカは背後を振り返った。
「あれ、俺……ルカ?」
自分がなぜルカの部屋のソファで寝ているのか理解出来なかったのだろう。カイトは身体を起こすと、暗い部屋の中で立ち尽くしたままのルカを呼ぶ。
「何?」
「俺……酔ってた?」
「……そうね」
「……? ルカ、どうしたんだ?」
「何でもないわ」
カイトはソファから立ち上がると、かたくなな態度を取るルカに近付く。彼は、ルカの心境の変化に気付いていなかった。
彼女の肩に手をかけようとするが、ルカは身を引いてカイトを避けるように距離を取る。
うつむいたままのルカの態度に、カイトはようやく何か起きたのだということに思い当たる。だが、その「何か」が一体何なのかということは少しも思い当たることがなかった。
「どうしたんだよ」
「何でもないって、言ってるでしょう」
「それが何でもないっていう態度かよ」
そう言ってカイトはルカにもう一歩近付くが、ルカは再び一歩後ろに下がる。両者の距離は保たれたままだった。カイトはルカに近寄ることを諦め、ため息をつく。
「おい――」
「私の事なんて、カイトには関係のないことだわ」
ルカの吐き捨てるような言葉に、まだ眠気が――酔いも、だったが――完全には覚めていなかったカイトの頭に衝撃が走る。
「何だって?」
「だって、そうでしょう?」
うつむいたまま、そう呟くルカの瞳には、涙が浮かんでいた。それが落ちてしまわないようにと、カイトに悟られないようにと、ルカは頬を引きつらせるように笑った。
「カイトは私の事よりも、ミクの方が好きだったんですものね?」
その言葉に、カイトは直前までミクの事に思い悩んでいたことを思い出して動揺する。ルカから見れば、その動揺が「ミクの方が好きだったということを言い当てられた」事による物だと受け取られるとは思いもせずに。
「私のことは気にしなくて良いから、早くミクの所に行ってあげたら? そうすれば――」
「ルカっ!」
カイトがルカに詰め寄り、彼女の肩を掴もうとする。それを遮ろうと、ルカは両手を突き出して弱々しく抵抗した。
だが、カイトの力に彼女では歯が立つわけもなかった。そのルカの腕を掴まれ、逆に身体を引き寄せられてしまう。
「やめ、て……」
「ルカ、お前……」
ほとんど抱き寄せるような体勢になってから、カイトはルカの顔が涙で濡れている事にようやく気付いた。
ルカの腕を痛いほどに握りしめていたカイトの手から、急に力が抜ける。その隙に、ルカはカイトの身体を強く押して彼からまた離れる。その身体は震えていた。凍てつくほどの部屋の冷たさのせいではなく、カイトに裏切られたその苦痛と悲しみで。
「俺が好きなのは、ルカだけだ」
「嘘」
「本当だ」
「嘘よ」
「ほんと――」
「嘘よッ!」
カイトの言葉を遮り絶叫するルカ。両手で顔を覆い、全身でカイトを拒絶する。
「俺は、ルカを選んだんだ。ミクじゃなくて――」
そう言いかけたカイトの背後から、予期せぬ声が二人に届く。
「――やっぱり、そうなんだ」
「え?」
「――何?」
振り返ろうとしたカイトの胸元へ、一つの人影が飛び込んでくる。
まだ幼さの残る、ツインテールの少女――ミクが。その手に、ナイフを隠し持ったまま。
そして“その”瞬間、まるで時が止まってしまったかのように三人の動きが止まった。
ACUTE 10 ※2次創作
第十話。
ようやくラストのサビに突入致しました。
三人が三人とも、最悪の結末に向けて突っ走り始めてしまいました。
余談ですが、次回第十一話は、かなり血なまぐさい描写が多々あります。
もしかしたらピアプロ的にアウトかもしれません。
大丈夫かなぁ、消されないかなぁ……。
「AROUND THUNDER」
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