「おートナカイー!」
「わ、動いた! 首降った!! すごい、すごーい!!」
電飾で形作られたイルミネーションの動物たちに、レンとリンがはしゃぎ声を上げている。
「それにしても、すっかり冬ねぇ」
MEIKOが巨大なモミの木を見上げ、想像以上に大きいわぁと呟く。
「お姉ちゃんこんなに大きいなんて……モミの木、お家に飾れないよぅ~」
ミクもモミの木を見上げながら、おろおろとMEIKOの服の袖を引っ張る。
「室内観賞用の小さなものもあるようですよ、ミクさん」
ルカがカタログを広げ幾つか例を提示し、ミクもほっと胸をなで下ろす。
電子ショッピングモールの中央広場に設置された巨大なモミの木を中心に様々なイルミネーションが趣向を凝らして飾り付けられている。定番物から、今年の流行、新しい技術品など見所満載で、リンとレンは今にも駆け回って見て回りたそうな雰囲気だ。
「買い物の前に一回りする?」
KAITOの提案に、リンとレンは顔を輝かせ諸手を挙げて賛同する。
対して自宅の飾り付けにモミの木が欲しくて買い物に来たミクはむぅと頬を膨らまし、ルカも予想外という風に瞬きをして小首を傾げる。
ありゃ、意見が割れちゃった、とKAITOが肩をすくめMEIKOの意見を求める。
「もうちょっと暗くなってからの方が、見がいがあるんじゃない?」
確かにまだ暗闇の中で幻想的に輝くイルミネーションの時間には早い。
「えーMEIKO姉! 明るいときと暗いときで、一つで二度美味しいんだよ?!」
「それに、荷物持って見て回るのとか大変だろ?」
だから先に見て回ろうよ、とリンとレンは主張する。
「ミクは先に買いたいものを見つけてから、ゆっくりイルミネーションを楽しみたいよぅ」
確かにどちらももっともな意見に聞こえる。
「でしたら、一度解散し、時間を決めて集合すれば良いのでは?」
6人で固まって行動する必要性についてルカは問い、それはそうだと、ミクを始めリン・レンもルカの意見に頷く。
「KAITOはどう?」
「僕もルカちゃんの案が合理的だと思うよー。大きい荷物は取り置きにして貰って、帰る前に買いに行ったら動きやすんじゃないかな」
なるほど、とMEIKOも頷く。
「んー…じゃあ、別れて行動しましょうか。日が落ちたらこのモミの木の前に集合ってことでどう?」
「「「「「OK!」」」」」
「ふぅん、このジョイントが大きく稼働することで……」
ぶつぶつと呟きながら、KAITOが動物型の飾りを詳細に見物している。
「KAITO兄、まだぁ?」
「リン、お前が一番見たがってた癖になー」
レンの呆れたような言葉に、だってーとリンは不満そうにベンチに腰かけた足をぷらぷらと揺らす。
「あぁ、二人で見て回ってきていいんだよ?」
振り返らずに言葉を返してくるKAITOにリンは「もういっぱい見たの!」と叫び返す。
職人気質なKAITOの琴線に触れたらしく、一つの飾りから離れずにずっと見物している。その間にリンとレンはぐるりと一周、二周と見物し、何度目かの声をかけている訳であるが。
「あーなったら、聞こえてないだろ」
レンが無理無理と手を振って、リンも諦めることにする。
「KAITO兄ー、アタシたちミク姉たち探しに行ってるねー」
「はーい、いってらっしゃーい」
KAITOに後ろ手に手を振られて、少し寂しい気分のリンにレンが肩を叩いて慰める。
「あら、KAITO。もしかしてずっとココにいた?」
リンとレンが去って数分と立たずにやってきたMEIKOがKAITOに尋ねる。
「わ、めーちゃん? もう買い物終わったの?」
声をかけられたKAITOは、さすがに驚いたようで時間を確認する。日が落ちるにはまだ少し時間がある。
「んーついでだから、リンとレンの誕生日プレゼントも選んでいこうと思って。どこに行ったかしらない?」
「……しまった。さっきミクちゃんたち探しに行くって行っちゃったんだ」
MEIKOがいるならミクとルカも一緒かとKAITOは探すが、どうやらMEIKO一人のようだ。
「はぐれちゃったのよね」
さらりと言うMEIKO。へー、と流しかけKAITOは、え? と驚く。
「一大事じゃないの、それ? 連絡つかないの?」
「買い物に夢中で気づいてないみたい。まぁ少なくともルカとミクは一緒でしょうから大丈夫でしょ」
リンとレンもいないのかーどうしようかな、と気楽そうに呟くMEIKOにKAITOが心配そうな表情で詰め寄る。
「僕、みんなを探してくるよ?」
「大丈夫よー! KAITOは心配性ねー」
待ってればまたここで会えるんだし、とMEIKOは笑っていたが、KAITOの不安げな表情につられ少し不安になってくる。
「迷子のアナウンスなんて頼めたかしら……」
「迷子って……。待合いの呼び出しとかの方が良いんじゃないかな……」
時間になっても来なかったら頼もうと、二人は相談しあう。
「ミク姉さん、あっちじゃね?」
「ホントだ! お姉ちゃん、お兄ちゃんー」
ひょこりとミクとレンが待ち合わせのモミの木の影から顔を出す。
「ミク! 何度も連絡したのよ?」
「うん。メッセージ聞いてー返事する前に、そこでレン君とあったから」
ついさっきMEIKOとすれ違った気がすると聞いて、ミクは直接広場にやってきたのだが。
ならよかった、と迷子の呼び出しまで相談していたMEIKOとKAITOはひとまずほっと胸をなで下ろす。
「あら……ルカとリンは?」
MEIKOとKAITOはようやくミクとレンの二人だけだと気がつく。
「ルカちゃんは他に買い物があるって、雑貨屋さんの方に行ったよ?」
「リンもなんか思いついたー、ってどっかいったな」
困ったように顔を見合わせるMEIKOとKAITOに、ミクはあのねあのね、と本題を切り出す。
「ルカちゃんと大分絞ったんだけど、まだモミの木決められなくって……お姉ちゃんたちにも一度見て貰いたいのー」
だめ? と伺うミクに、MEIKOもKAITOもにこりと笑う。ミクはぱっと笑顔になり、一番近くにいたMEIKOの手を引いて先導する。
「あっちのお店なの!」
「あら」
ルカの落胆したような溜息混じりの呟きに、リンも集合場所の中央広場のモミの木の辺りを見回して確認する。
「入れ違っちゃった?」
「そのようです」
んーあ゛ーっ!! とリンは声を上げながら大きく伸びをして、手に持った荷物を揺らす。
「っとっと。壊れ物だった」
リンはいけないいけない、と過剰包装ぎみのプレゼントが入った手提げ袋をそうっとベンチに降ろす。
「あぁ、先ほど買われたレ――」
「しぃっ!!」
ルカは言葉の途中でリンの手に抑えられ、ルカは不思議そうに小首を傾げる。
「今、周りには居られないようですが?」
「それでも、もし聞かれてたらどーするのっ?」
はてなと首をさらに傾げるルカに、仕方ないなぁという封にリンは首を振り、すぅ、と大きく息を吸い込む。
「ルカちゃんがー! 買ったー! ミ――」
「なるほど、よくわかりました」
素早く片手を上げて、ルカはリンがわざと大声でゆっくり紡いでいた言葉を止める。隠し事をするのも中々大変な作業だ、とルカは僅かに頬を赤くしながらしみじみと頷く。
「わかってくれたならいーよ」
にひひ、とリンも楽しげに笑い、ベンチに腰かける。
「リン姉さんが気に入ったモノを選ぶのが一番だと思うけどなー」
「だってどれもステキなんだもんー」
幾つかのツリーを前にうんうん唸るミクにレンはやれやれと首を振る。
「問題点を整理すると、一つめは値段が高い。二つめはテーブルにのる小さいサイズでカワイイけれどリビングに置くには小さい。三つめは安っぽさが気になる、って所かしら」
MEIKOの要約にミクは、すごーいどうしてわかるの? という表情をする。
「そうね、ひとまず値段の問題は考えないことにしましょう」
「え?」
きょとん、とした表情でMEIKOを見上げるミク。
「だって、私たちの家に置くんでしょう。お金はみんなで出せばいいわ」
ぱぁっと表情を明るくした後、でも、と戸惑い、KAITOやレンにも視線を向ける。
「いいの?」
「いいよー」
即答するKAITO。レンは、少しだけ悩む。ちょっと気になるゲームがあったが、せっかくのイベントごとに比べればそれほどでもない。
「ま、これぐらいならOK。リンもイイっていうと思うぜ」
一つめを指さしてこれ以上高いのはちょっと無理だけどな、とレンは一応釘を刺しておく。たかがツリーとはいえ、上を見ればキリはない。
「ありがとうっ! 実はルカちゃんもちょっと出してくれるっていってたの」
満面の笑みのミクに、一件落着とレンもつられて笑う。ミクが取り置きの依頼をしている間に、レンはついでだし、と周りの店を物色する。
「お?」
「みんな、遅いなー」
リンはベンチに腰かけた足を、ぶらぶらと揺らす。大分日は落ちている。もう少しすれば薄暗さが目立ち、イルミネーションが映える時間になるだろう。
一緒にベンチに腰かけて日が暮れていくのを見ていたルカは、そうだと思い出し、手荷物のバックの口を開ける。
「リンお姉様、一足早いですが」
どうぞ、とルカは手の平大の小さな包みを鞄から取り出す。半透明のフィルムの向こうに、この季節特有のにっこり笑う人形のクッキーが見え、リンは目を輝かせる。
「イイの? 貰っちゃって!!」
「えぇ。後で皆さんにもと、つい買い込んでしまいました」
「カワイーし、美味しそうだもんねぇ!」
わかるわかるーとリンは頷き、嬉々として袋を開ける。
「あ……夕飯前なのに、と注意されるでしょうか」
大きく口を開けてかじろうとしていたリンは、ルカの呟きに、うぐっと固まる。
「きょ、今日の夕飯当番って誰だっけ?」
「えぇと……レンさんと、MEIKOお姉様ですね」
「レン、かー。レンねー。レンならしょうがない」
リンはよくわからない理屈を呟きぱくり、とクッキーをかじる。
「あっまーい!!」
想像通りの甘さと、絶妙な食感にリンは目を輝かせ、二口目はちょっと控えめにかじり頬を緩ませる。
ルカは、リンの食べっぷりに笑みを浮かべ、しかしと首を傾げる。
「レンさんなら……? つまり、許容されることを看過して……?」
考え出すルカに、リンは横目で熱心だなぁともぐもぐクッキーを頬張りながら見守る。
「ごちそーさまっ」
包み紙を今更ながら伸ばし、リンはどこのお店のかなとラベルを確認する。たまにはお菓子作りもいいかもーとリンは考え事をしているルカに尋ねる。
「ね、ね。今年のパーティは何作る?」
「あ……えぇと」
リンの言葉に戸惑うように一瞬フリーズしたルカに、違和感を感じて、リンはん? と眉毛を跳ね上げる。イベント事がわりと好きなきょうだいなので、ルカも乗ってくれると思ったのだが。
「ミク姉がツリー買いに行ってくれてるし、雰囲気作りが出来てるんだから、ついでに料理も豪華にしたいじゃない?」
「あ、えぇ。そうですね……お料理……」
僅かに弾んだ声に、リンはまぁいいかと違和感を流し、自身も色々とイメージする。
「……洋風にまとめるのが定番ですが、あえて和風ですとか」
「おー!! 餅ピザなんかも美味しいよねーってピザは和じゃないかー……」
案を出したルカ自身もあまり満足がいかなかったらしく、そうですねと僅かに渋い顔をしている。
「年末もすぐだもんねー」
年越し、お正月の前にリンとレンの誕生日もある。
(祝って貰えたらいいなぁーっていうか祝ってくれるよね? 大丈夫、大丈夫。お祝いの言葉と、ごーかな料理と、プレゼントの一つくらい貰えるはず!)
リンは自己暗示をかける。
「――プレゼントを一つ、ですか?」
ルカがリンの口から僅かに漏れた独り言を拾い、首を傾げている。
「ぷ、プレゼント交換会とかしたくない?」
一人一つプレゼント作って、ぐるぐる回すの! とリンは無理矢理繋げる。
「まぁ――それは、楽しそうですね」
「でっしょー!」
リンは頬が熱いのを誤魔化すように声を張り上げる。
「あ、いた」
リンの大声で、集合場所に戻ってきたレンが気づいたらしく、手を振って手招きしている。他のきょうだいたちたちも勢揃いしているようだ。
「ルカちゃーん、ツリー決めたよー」
弾むミクの声に、ルカが腰浮かしかけ、リンにそっと耳打ちする。
「あの件は、二人だけの秘密です」
「OK~わかってるってー」
店先でリンが一目見て、レンが気に入るだろうと買い求めたマグカップ。
ルカが雑貨屋で見つけた、ミクへのアクセサリーと髪留めのセット。
寝て起きてビックリして貰うのが楽しみなのだから、秘密の話。
「およー? レンってばそんなに何買ったのー?」
レンの手に紙袋をみつけ、リンが覗き込もうとすれば、ばっと遠ざけられる。
「リンこそ何買ったんだよー」
「んーイイモノー?」
「じゃーオレもイイモノだー」
お互い察して、にやりと笑いながら牽制する。
「幾つか大がかりなモノは、上から見られることを前提に構成されてるらしいわ」
昇りましょうか、MEIKOが先導する。
地上に浮かび上がるイルミネーションは、音楽に合わせて明滅する光のアート。
設計の意図や、裏話などの解説をKAITOが邪魔にならない程度に楽しげに読み上げ、イルミネーションをさらに魅力的に掘り下げていく。
「帰ったらミクたちも、ステキな飾り付けしなくっちゃ」
きらきらと目を輝かせながらミクが呟く。リンは、ミクの顔を見上げ、ねぇと尋ねる。
「どんなツリーを買ったの?」
それは、家に帰ってみてのお楽しみ。
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