その日の夕食は何だか凄く楽しかった。歩き回って疲れた話、トランプでボロ負けして悔しかったって話、箱が開かなくって爪が欠けた話もちゃんとした。疲れたけど楽しかった、皆の顔がそう言ってるみたいだった。
「浬音ちゃん、たまには一緒に大浴場行かない?ここのお風呂広くて綺麗だし
オススメだよ。」
「あ…私すぐのぼせちゃうんですよ、大きいお風呂だと。だから部屋のシャワー
使います。」
「そうなの?泳いだりとか楽しいわよ?」
「風呂は泳ぐ物じゃない…。」
誘ってくれるのは嬉しいし有難いけど、私はまだ躊躇っていた。部屋に戻ってシャワーを浴びながらふと自分の両腕に視線を落とす。もう痣は薄くなって殆ど目立たなくなってる、眠れなかった程の痛みも今は無い、だけど自分の身体がどうしても汚い物に思えて仕方無かった。そしてそんな自分が凄く嫌だった。ベッドに入っても良く無い事ばかり考えて、思い出して、目が冴えてちっとも眠れなかった。
「…密さん…。」
密さんに会いたいな…。でもこんな時間に行ったら迷惑だよね?この前だって倒れて看病させちゃったし、もう寝てるかも知れないし…。『でも』と『だけど』がぐるぐる頭の中を駆け巡った。
「あぁ!もぅ…っ!」
もう全然眠れる気がしなかった。深く溜息を吐くと部屋を出た。会いに行くつもりでは無かった、その辺りを少し散歩しようと思った。この前みたいにトカゲさんがピアノを弾いていたら眠れるかも?そんな勝手な期待をしつつラウンジに近付いた時だった。
「…はい…は…予定…。」
声がかすかに響いていた。誰か居るんだろうか、何と無く身を隠しつつ声のする方へゆっくりと進む。
「あの子には話したのか?」
「いいえ…まだ…。」
「急に言われればショックを受けるだろうから、お前の口から伝えてやれ、密。」
…密さん…?もう一人は…誰だろう?聞き覚えの無い声…。
「調査はどうだったんでしょうか?」
「酷いもんだ…口渋ったが証言もちゃんと取れてる。診断書だけでも証拠としては
充分過ぎる程だがな。」
「両親共に、ですか?」
「兄も含めてだな。朝吹浬音への虐待、傷害、ストーカー容疑で3名を摘発出来る材料
は揃ったと言う事だ。」
一瞬頭の中が真っ白になった。容疑…?摘発…?診断書…?何言ってるの?何話してるの?私への虐待ってどう言う事?摘発するって…お兄ちゃんを?お父様を?お母様を?私の…私のせいで3人とも捕まっちゃうの?!密さん…ねぇ密さん…!どうしてそんな事するの?どうしてそんな話してるの?私の家族捕まえるの?私の帰る場所を消しちゃうの?どうして?どうして?!声が出ないよ…足が動かない…嘘だよね?密さん…。フラリと後ろに下がった脚がテーブルの脚に当たり、ガタンと音がした。
「浬音…?!」
あんなに会いたかった密さんを前に、私は震えが止まらなかった。
DollsGame-62.花蘇芳-
一緒に居た人は総帥です
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