あの人はただの幼馴染で、特別な感情など全くなくて
ただ一緒に居る人がいて、安心できるだけで良かった。
《安心なんて常に一時的なものなのだろうか。》

恋愛というものはこの世界にとって当たり前のもので、
私だってそのことを理解しているつもりだった。
「そういうものだ」と思い、受け入れていた。
《そのつもりだった。》

転機。いつもの部屋の定位置に腰を据え、
いつもの日常が始まるのを待っていた。

しかし何か大事があったようで彼は母親に呼ばれた後、
しばらく戻ってきそうになかった。
《この時に何があったかのは未だによく分かっていない。》

一人ぼっちは寂しい。
(というより、とてつもなく暇なんだ。)
こういうとき、私は余計なことをしてしまう悪癖があって

ずっと気になっていたことがあった。
私はあれの中身をあまりよく知らなかった。
《隠したいものがあるのは分かっていた。》
普段だったらあまり考えない私だけれど…

期待していたわけでも何でもない。
ごく自然な動作であるかのように
ちょいと蓋を開けてみた。

中身が空っぽであったならどんなにマシだったか。

その内容を事細かに見る気分にはならならず、私はその後真顔でテレビの画面を眺めることに没頭していた。
彼の親が来て私を送り出してくれてからも、頭の中はぐちゃぐちゃだった。

知ってはいても分かってはいない。
実際に目の当たりにして動揺するようなら、そういう事だ。
よくもまぁ、いままでやってきたものだと

恋愛って何だろう。恋愛をするって何だろう。

理解していないことを理解した。
理解できないことを理解した。
理解したかったことを理解した。

みんな、刺激的なものが好きなんだ。
この世界で生きていくのだから、
受け入れるしか

それに、私も変わるかもしれないから




こうやって形にしてみると結構下らないことで悩んでいたものだと思えてきたけれど

それでもそれは強烈な衝撃であって、
それまでの世界観が塗り替えられたというか、否定されたというか…。

「当たり前」があって、その「当たり前」を問い直されたとき
「今までが異常だったんだよ」
なんて言われて…すぐに受け入れられなくて当然じゃない?

あれからまたちょっとした出来事があって彼とは会わなくなった。
その時のことについては、今はまだ考えたくない。

確かに、彼と会うことは全くと言っていいほど無くなった。
それでも、彼と一緒に過ごした時間は私のなかに残り続けて、
今ある趣味の大半は彼の影響で始めたものだった。

たった数分で崩れてしまうには長すぎる付き合いだった。
お互い忘れることはないと思う。

でも不思議と残念とは思えなくて、
むしろずっと誤魔化しながら過ごしてきた「今まで」に
形容しがたい嫌悪感を覚えてしまう。

もっと上手くやれたとか、
過去に戻って昔の自分を説得したいとか、
そういうふうに思えないような絶対的な何かがそこにあるから。
何度やり直しても、結局は同じな気がする。

彼のことを気にしても仕方ない。
それよりも、そうなるまでに至ってしまった
私自身の本質的な問題について考えるべきだと思った。

どうして理解できない?どうして理解してやれない?

もしかして、私って人々とかなり違う感覚を持っているんじゃないか。
ずっと目をそらしてきたものが、急に視界に入りやすくなってしまって

そうやって導き出したのは、
不完全な知識の元で生まれた馬鹿な結論。

《私という唯一無二の人間を無理やりカテゴライズしようとしている》

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

『きっと子供なんだね』の文章

『きっと子供なんだね』という曲のMVに出てくる文章です。
https://www.nicovideo.jp/watch/sm42574651

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投稿日:2023/08/05 14:06:35

文字数:1,493文字

カテゴリ:小説

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