すっかり冷え込んできたある秋の日

実家から大きなダンボール箱が送られてきた

一人暮らしをする者には、少しばかり心細い季節

実家からの仕送りは、その寂しさを、少しずつ和らげてくれるものの一つだろう

あまりパッとしない日々を送る私には、それが嬉しかった



ガムテープをはがして箱を開けると、いろいろなもので中身はギッシリと詰まっていた

その中から、一番上に入れられていた紙を広げる

その紙には、見覚えのある字が並べられていた




《　メイコへ

　　お元気ですか。お母さんたちのところはすっかり冷え込んできました。

　　東京は寒くないですか？テレビを見ていると、東京もすごく寒そうですね。

　　ちなみにお母さんは風邪をひきました。あなたも気をつけてね。》



いつも通りの母の優しさが伝わってくる

いつも元気なあの母が風邪をひいたとは　私も気をつけないとね


思えば寒さのせいか、全然秋という感じがしない

しかもこの秋も、いまいちパッとしなかった

猛暑が続き、熱中症でバタバタと倒れそうだった夏…

そのせいで海面の温度も高く、十月に入っても台風が日本に幾つも突撃してきた

台風の被害は大きく、農作物がやられて、価格が高騰

毎年楽しみにしている秋の味覚も、今年はあまり食べられなかった



《　　なんとか今年もおいしい柿が実ったので、送ります。

　　　他にも、さつまいもが沢山あるので入れておきますね。あと缶詰も。

　　　それから、冷えないようにセーターも送ります。

　　　とても温かいので、ぜひ着てくださいね。　》



箱の中身を取り出していくと、実家でとれた柿がいくつか出てきた

そして、ほどよい大きさのさつまいもも数本

缶詰はなかなか買わないが、給料日前はこれがあるととても心強い



柿を見ると、秋なんだなあとしみじみ思う

あぁ、私の大好きな秋



なつかしいなぁ

昔、こんがり焼いたさんまを、おろしポン酢で食べるのが好きだった

焼きあがると、表面を焦がすパチパチという音が落ち着き、香ばしい香りが食欲を掻き立てる

箸で身を少しばかりつまむと、ほかほかと温かい湯気が手に触れる

ぱくりと食べると、くどすぎない脂が口いっぱいに広がり、美味しさで溢れる

大根おろしの辛さとポン酢の酸味が、脂をさっぱりと流してくれる



他にもたくさん

夕焼け色に色づいた柿を、口いっぱいに頬張るのが好きだった

栗は…元から食べなかったか

松茸…値段の事情もあってか、元々食べない　うかつに手も出せない


だが今年も例年通りに秋の味覚がやってきたとしても、どうせ私は食べられなかったことだろう

不況ということもあって、私の財布も寂しいこととなっている

上京して、すこしでも多く稼いで、母に楽をさせてあげたかった

だけど厳しい東京は上手くいかず、逆に母に助けられているような環境だ


やっぱり、地元に残っていたほうがよかったのかな

ここは友達もほとんどいないし、一人は悲しい



そう思いながら箱を探っていると、最後に一枚の写真が出てきた




《　　ところで、いろいろ整理していたら、一枚写真が出てきました。

　　　あなたが高校生だったときのものです。

　　　先日、この写っている彼が訪ねてきました。

　　　あなたに会いたかったそうです。たまには帰ってきてね。　》




高校のころ、私には彼氏がいた

あのころはお互いに楽しくて、毎日笑いあっていた

彼の家で一緒にピアノを弾いたり、勉強しあったり


だけど、大学に入ってから、あまり連絡もしなかった

お互いに違う大学で忙しく、連絡を入れる暇もあまりなかったのだ

やがてその連絡も途絶えていき、合うことも無くなった

お互いの誕生日にメールを送りあったり電話したりしたものだが、上京してからはもうメールもこない

自然と別れたことになったのだ



だけど、彼は実家に来たという

何を伝えたかったんだろうか

私に会いたかった、その理由は…？



今でも時折、ケータイを開いてはため息をつく

もう彼からは決して鳴ることのないケータイの、着信履歴を見つめてしまうのだ

カイト…




「元気にしているかなあ…」


「久しぶりに、会ってみたいな」