荒野の町ランブルウィードとは、イルヴァルス大陸で最も危険な地域であると言われている。その理由は、イルヴァルスの地で負の歴史に刻まれる過去の争いで戦いの舞台になった場所だからだ。
 もともとは緑が生い茂る草原の大地であったが、長きに渡る戦争の疵痕により緑は枯れ、岩は砕かれていき、残ったのは砂埃混じりの荒れた土地である。

 その荒れ方、岩が転げてきてもおかしくない起伏ある丘、枯れてしまった河はひび割れた土地になり、木々は痩せ細って触れただけで倒木する恐れがある程だ。
 このランブルウィードに住まう、ヒトびともそうだ。荒れた町に集まるのは、必然と荒くれ者たちを呼び寄せてしまう……と同時に、国から見放されてしまった貧しいヒトたちも住んでいる。

 そんなランブルウィードの町へ、一頭の白馬へ跨がった人物がやってきた。その人物は包帯を巻いた両の手に手綱を持ち、跨がる白馬を誘導していた。

「マーストンの酒場まで、あと少しだレイチェル」

 烏が『カーカー』と鳴く夕陽を背景にし、白馬のことをレイチェルと名を呼んだのは女性の声であった。女性は日除けのためにフードの着いたストールマントを羽織り、上着に膝付近まで裾が伸びた紅い色のダスターコートを着用している。暑さ対策に少し開いた首元へは、真紅の色をしたト音記号の首飾りが見える……。
 この女性が下衣へ履くのは動きやすさを重視した黒のハーフデニムパンツに、そこから伸びる足へは乗馬に適した革製のニーハイブーツを履いていた。彼女がするこのコーディネートは、ゲンジツというセカイで例えるならば西部開拓時代の服装であると表現しよう。

 西部開拓時代に生きるヒトの服装をした女性は、レイチェルと名付けた白馬を1軒の酒場へと歩ませる。

 女性が[マーストンの酒場]と掲げた看板の門を潜ると、彼女はすぐにレイチェルを繋ぎ場という馬を繋ぐための設備に手綱を掛けた。

 その後、一人で酒場のなかへ入っていく。

「私だマーストン。依頼品の酒を配達にきたぞ」

 そう告げると彼女は、ストールマントのフードを外し、自分の顔を店主の男性へ見せるようにしていた。フードを外すと見えてきたのは、赤銅色に輝く切れ長の目に整った顔立ち、さらにマットブラウンの髪色をしたボブカットヘアーの持ち主であった。

 クールで威厳ある男性的な口調であるが、彼女の性別は女性である。

「おおっ、あんたか。わざわざフォレスタ・キングダムのワインを買いに行かせて悪かったな」店主の男性は嗄れ声で女性に言った。

「依頼主のおかげで里帰りできたがな……」そう応えながら“ふくろ”から白ワインの酒瓶を取り出している。

「そうかい、あんたやっぱりフォレスタ・キングダムに住んでた人間だったんだな」と依頼品を受け取ってGと物々交換した。

「あまり私のことは詮索するなマーストン。この町で、生きるヒトの過去に触れるのは無しだろう?」

「ああ、そうだな。けど……あんたからは、ただ者じゃないオーラが隠しきれてないぜ。元・悪党だった俺にはわかるんだ……へへへっ」

「ふん、お前が元・悪党ならば、私も同類かもな……」

「あんたも同類だってか? その真逆だぜ、さすらいの配達人メイさん。あんたの持つ目は、悪党がビビっちまう正義感満載の眼だ」

 彼女は酒場の店主ことマーストンから、メイと名前を呼ばれた。そう……この彼女こそ、かつてフォレスタ・キングダムで騎士団長をしていたメイ・エリティア・ハイゴーなる人物である。

「ずいぶんと私を見上げた話だな、マーストン。それよりも腹が空いてきた、今日の夕飯はここで摂るとしよう。なにかすぐ、食べれるモノはあるか?」

 マーストンに過去を詮索されたくないメイは、話題を逸らすため食事を摂ると言いだした。酒場の中で用意されたお客用のログチェアに座っていく。

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次話
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姉御の出番です。
題材にした悪ノ娘に登場するジェヌメイヌさんとは、また違った形のキャラクターにします。

僕の設計図では、ハイパークールな姉さんを設定してます。

漢らしい台詞でイメージが湧かない方は『甲斐田裕子』さんの声を脳内で再生してください。

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投稿日:2020/02/20 04:18:40

文字数:1,603文字

カテゴリ:小説

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