友人達が僕の街に来るので、公園で待ち合わせ。今日は寒くて子供も見当たらない。残念…はぁ…。
この間からずっと雪が降ってる。この雪で電車が遅れてるらしい。
そういえば、"雪には吸音効果がある"って誰かが言ってたな…。
ふわふわしてるし本当のような気もするけど、どうなんだろうか。
でも、確かに、今日の街は静かだ。人が居ないからかもしれないが、
車の音もいつもより小さく、世界全てにミュートがかかっているみたいだ。
ふと、久しぶりに歌ってみたい気分になった。
他に何の音もない今僕が歌えば、正真正銘「単独ライブ」…いいかもしれない。
気分も乗ってきたし、なにか一発いこうと口を開いた時、不意にとてつもない不安に襲われた。
もしかして、僕の声も消えるのかな。ミュートがかかって、誰にも届かないのかな。
そう思うと声を出すのが怖くなって、口をあけたままだらしなく立ち尽くした。
なにも出来ない人形のように。
「…。」なにか聞こえた気がしたけど、やっぱりミュートがかかってて聞こえない。
「…。」まただ。なにかあるのかな、と音のする方向を向こうとしt「「「バカイトーーー!」」」
突然の爆音と衝撃に吹き飛ばされて雪に埋まった。
突っ込んできたのは二つの黄色い塊と…ネギ…?
何とか立ち上がって声の方向を見ると、投球後のピッチャーのポーズのツインテ、
小走りで近づいてくる二人の女性、足元にまだ埋もれている二つの黄色い塊…。
「遅れてごめんねー」「お久しぶりですカイトさん」そういう二人は息が切れている。
子守もなかなか大変そうだ。「やっぱりこっちはすごい雪ねー。どう?こっちは」
「静かでいいよ、ゆっくりできる。」
もう引退してから一年経つ。マスターがいなくなったのが主な原因だったが、
僕くらい古い個体になると、新しいソフトに対応するのも一苦労だったのだが、
一年前、とうとう限界を迎えてしまった。
「ところでさ、カイト兄はこんな何もない所でなにしてるの?」というミクの問いに
"お前達を待ってたんだろうが!"と思いながら、ふとさっきまで考えていたミュートの件を思い出した。
どうせなら話してみようと思ったが、うまくまとまらずに口をパクパクさせるだけになってしまった。
「歌うのやめたら声まで出なくなったのー?」なんてミクがからかうから、
どうにか声を出して、考えてたことを話してみた。
「なるほど…。」と考え込むルカ。「カイトらしいわね」と笑い流すメイコ。
ミクは俯いている…と「バカー!!!!」怒号とともに振り下ろされるネギ。
ネギを振り続けながらミクが
「そんなんだから私達が呼んだ時も気がつかなかったんじゃない!そんなんだからボーカロイド引退しなくちゃいけなかったんじゃない!ボーカロイドが音を見失ってどうするのよ!どんな小さな音でもそれを否定したら何もかも消えちゃうじゃない!勝手にミュートしないでよバカ兄!」
いつの間にか泣き出しているミク。返す言葉もなかった。
「ミクちゃんはね、寂しかったのよ。新しい子がどんどん増えていく中で、お兄さんがいなくなって。
頼りないかもしれないけど、ミクちゃんにとっては大切なお兄ちゃんだったんだから。」
「…ミク、ごめんな。ありがt〔ボスッ〕
…目の前が真っ白。「「あははっカイト兄のばーかw」」
“こっのクソガキ…”おもむろに足元の雪を掴み、声の方へ向けて全力投球。
「いやー、遅れてすまないでござr〔バゴッ〕ナスの凹む音。
「…いいだろう…売られた喧嘩は…買わねばなるまい…腹切れ貴様ぁ!」
「「いたっ」」「ouch!」「ちょっと、みんな待って!」
「メイコ姉!これは戦争よ!手段なんて選ぶ暇はないわ!くらえ天翔る葱の閃!!」
ミクの宣告を最後に確かな記憶はない。ただ、雪の中でも音が溢れていることは確かだった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

Last snow

閲覧数:147

投稿日:2012/12/22 20:50:16

文字数:1,578文字

カテゴリ:小説

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