どうも。鏡音リンです。とある中学に通う14歳、です。
はっきり言って、今、暇です。
「はぁ……」
面白いこともなく、ため息をつく。テレビも大したものをやってないし、友達も遊べる状態じゃない。あぁ、つまらない! リビングの冷たい床に転がる。……うん、冷たい。
「何か面白いこと、降ってこないかな……飴とか」
「飴が降ってきたらべたべたするだろ」
聞きなれた声が、上から降ってくる。……降ってきた。飴の方が良かった! どうせ室内だし、変わらないけど。
「聞きなれた声」の持ち主。それは双子の弟の鏡音レン。本人曰く、「俺が兄だ」らしいけど、無視。
「何よ、レン。友達と遊ぶんじゃなかったの? こっちは暇過ぎてつまらなくて退屈で仕方ないの。放っておいて」
あたしは、レンにそう言った。そういえば、友達との約束はどうしたんだろう。破ったのかな。
「クオがドタキャンした。デートだとさ。……ったく」
あぁむかつく、あのリア充。
腹立ちまぎれに吐き捨てるようなレン。あ、コレちょっと面白そう。
「そんなにクオくんとの約束が楽しみだったの?」
クオくんがドタキャンする理由と言えば、まぁ、彼女―――ミクとだろう。それならもっと早く帰ってきてもいいはずなのに……お昼までレンは帰ってこなかった。てことは。
「ねぇ、レン」
「何」
「もしかしてさ、ちょっと尾行してみちゃったりした?」
ぶっ。
いつの間にか淹れていたコーヒー(コーヒーとは思えないくらいの甘さ)をレンは盛大に噴き出した。あぁ、もう汚い!
「……ちゃんと片付けてよ。それで?」
「ん? あぁ、全く、熱いよ」
「コーヒー?」
「なんでその話なんだよ」
「だって、淹れてくれないから」
さっさとあたしに淹れなさいと、命令を口調に込める。むすっとしながらも台所に向かうレン。あー、とにかく暇!
「はい……リンはブラックだよね。信じられない」
ぶつぶつ言いながらもレンがあたしのお気に入りのカップに入ったコーヒーを差し出す。
甘党のレンと、甘いものが苦手なあたし。
「まぁ、どうだったって言わずともわかるってことでしょう」
「そういう事」
あの二人の事だ。ミクが「ちゃんと手、つないでよ!」って注文して、あの無口なクオくんがそっぽ向いて手を繋ぐんだろうな。
「彼氏がいたならあたしは暇な時間を消費する暇がなかったと思うんだけど……」
「無い。絶対。そもそも、リンに彼氏ができるとは思えない」
にっこり。学校でも人気のある彼の笑顔。人気の理由。裏の見えない笑顔。なんていうか、さりげなく否定されて思わず肯定しそうになったじゃない!
「そんなレンも、きっと彼女はできないわ。一生保証してあげる。そんな性格、誰に似たのかしら……」
はぁ、とこれ見よがしにため息をついてみる。
ふと、ケータイがなっているのに気が付いた。この着メロは、ミク。
「はーい、もしもし。リア充は否定中のリンちゃんだようっ!」
『えー!何それ、リンひどいっ! せっかく、クオとのハッピーな今をお知らせしようと思ったのに!』
「……即効でこの電話切っていい?」
『きゃー、やめてやめて、嘘だって! お願い切らないで!』
「要件は?」
『レンくんがね、ストーカー紛いの行動をしたんだっ! ひどくない? ひどいよね! リンならわかってくれると思った!』
「ごめん、何も言ってない」
『とにかく、レンくんったら失礼じゃない? おねーちゃんとして何とか言っておいてよ!』
ぷんぷんと、怒っている様子のミク。ふふ、と思わず笑ってしまった。
「わかったよ。今回は、レンがごめんね? せっかくのデートだったのに」
『……いいよー。リンを責めてるんじゃないし。ま、あとで覚えておいてね☆ て言っておいてね!』
「了解しました」
それだけ言って、通話を終了する。あたしはすっと立ち上がった。
「レン」
「……何?」
「あとで覚えておいてね☆」
ウインク付きの特別スマイルでミクの伝言を伝える。さぁっと、レンの顔が青ざめた。
たたっ、と階段をのぼって部屋へ行く。勢いを殺さずにベッドにダイブ。
「うおぉっ」
ちょっと勢い強かったかな。衝撃が凄い。
暇だから、眠ることにしよう。
あ、そう言えば、コーヒー飲んでないや。
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