だいたんウサギと、めんどくさがりなオオカミ
そんな二人が織り成すちぐはぐな恋のストーリー
さてさて、迎えるのはどんなエンディング?
さあ、逃げるのはオオカミ×探すのはウサギ
アンバランスな鬼ごっこは、これから!
「一目惚れしました! 付き合って下さい!」
「却下」
リンが叫んだ告白は一瞬の内に相手に却下され、砕け散った。
そもそも、事の始まりはと言うと・・・。
「ねぇ、リン、知ってる? 今日転校生が来るんだって」
学校に来て、鞄を置きながら中の荷物を取り出しているリンにそう教えてくれたのはクラスでも情報通の亞北ネルだった。
「へぇ、そう」
それだけ言ってリンは荷物を机の中に仕舞っていく。そのリンの様子にネルはいささか不満がある様だ。むぅ、と頬を膨らませると、
「もう、何でリンはそんなに興味無さ気なのー? どんな子が来るかな、て思わないの!?」
バン! と最後の方は机を思い切り叩いてそう言った。因みにリンの机である。
「思わないねぇ」
「年寄りか! 言い方が!」
あー、はいはい、と軽くネルの言葉をあしらいながらリンは自分の席に着いた。
「だってさ、転校生が騒がれんのも最初の内だけだよ? 時間が経っちゃえば普通にそこら辺にいるのと変わんなくなるって」
「そこら辺のって・・・。毒舌だな、顔に似合わず」
「似合わなくて結構」
はっ、と鼻で笑って見せてリンは椅子の背凭れに体重を掛けた。
「でもその毒舌も何時までかな・・・?」
ニヤリ、と言った表現がピッタリ来る顔でネルはそう言った。
「どゆこと?」
「お、流石にリンも聞く気になった? あのね、今日来る転校生はね・・・」
語尾にいくに従ってネルの声が小さくなっていく。そして、フ、と一呼吸置くと、リンの顔を ビッ! と指差して、こう言った。
「なんと! リンにそっくりな男の子なんだって!」
「へぇ、そう。興醒めした」
「え、ちょ、リン酷ぉい!」
「確かに私にそっくり、て言うのは気になったけど・・・。別に」
「別に・・・って、あのね、」
ネルが反論しかけた時、ガラリと扉が開き、先生が入ってきた。「あ、ヤバッ! じゃ、また後でね!」そう言ってネルはリンの元を離れ、自分の席に着く。
「はい、それじゃ、何人かの人は知ってると思いますが、今日はうちのクラスに転校生が来ます。それじゃ、入ってきて下さい」
ス、と先生は目線を廊下の方にやり、声を掛ける。ガラリ、と扉を開け、入ってきたのは―――
「それじゃ、自己紹介、お願いね」
「・・・ハイ。鏡音レンです。これから宜しくお願いします」
リンにそっくりな、そして苗字も同じの、ネルが言った通りの男の子だった。
「えっと・・・それじゃ、鏡音君の席は・・・」
先生が言い終わらない内にリンは自分の席から立ち上がっていた。そして驚いている先生とクラスメイトの事を気にも留めずに、
「一目惚れしました! 付き合って下さい!」
上記の台詞を叫んだのだった。
それから、数週間が経ち、現在――
「だあああああああ! しつこい! もう追いかけてくんなし!」
「だが断る!」
「諦めが肝心、て言うだろ!」
「夢は何時か本当になるって誰かが歌ってたんだよ!」
「理想と現実の区別を付けろ!」
「付いてるもん!」
ダダダダダダダ・・・と廊下を物凄い勢いで走っているのはリンとレンだ。叫びながらもその声は全く息切れしていない。素晴らしい肺活量である。
その光景をクラスのメンバーは飽き飽きとした表情で見ていた。レンが転校して来てから、この追いかけっこは日常茶飯事になってきている。最初こそ面白がっていたメンバーだったが、きりの無い追いかけっこに聊かウンザリしている様だった。
「ネル、今日は如何なると思う? あたしは今日も決着が付かないに一票」
「あ~、めーちゃんはそう来たか・・・。俺はもうそろそろ終わるに一票だな」
「メイコとカイトは如何思う? あの二人の追いかけっこ」
ネルがカイトとメイコに聞くと、二人は一瞬、悩んでから、
「そうねぇ・・・。でも結局レンが折れるんじゃないかしら?」
とメイコが言い、
「俺は元々レン君はリンちゃんに一目惚れしてたんじゃないかな、て思うな。まぁ、最終的な結論はめーちゃんと一緒だよ」
とカイトは言った。
「ふむふむ・・・。ま、あたしも二人と意見は一緒ね。あの二人、付き合うとは思うけど・・・。それまでが長そうだよねぇ・・・」
「確かに」
メイコとカイトは声を揃えてそう言い、うんうん、と同時に頷いてみせる。
何一緒に頷いてんのよ! イタ! メイコに殴られた頭をカイトが抑える。その横で全く、と一見起こっている様に見えるメイコの頬は赤く染まっていた。
この二人もこの二人で・・・くっ付かないよねぇ・・・
ネルはそう心の中で一人ごちて、フゥ、と息を付いた。
男の子は誰でも、オオカミになるって聞いた
それなら女の子はウサギで、でもウサギは ぱくり、きっとひと呑みでしょ?
ハートの形のラビリンスに迷い込んで、
でも「めんどくさい」と君は言って、どこかでかくれんぼ
絶対に探し出して、絶対に見つけて
だいたんなウサギとめんどくさがりなオオカミ
今日も今日とておかしな追いかけっこが始まった
白い月はクスクスと二人を笑い、それでもオオカミを追いかけ、
まるでアリスのように暗く深い穴の中へ 落ちていく
「あ、レン逃げた!」
学校が終わり、さぁ、追いかけっこの続き、かと思いきやリンが荷物の整理に手間取っている間にレンはもう帰ってしまったようだ。
しゅん、と項垂れたが、気丈に持ち直し、リンは明日こそ、と意気揚揚と教室を出て行った。
学校から程遠い所、リンは周りを振り返り、誰もいない事を確かめるとハァ、と肩を落とした。
こんなにも、ずっと、いちずに想っているのにさ
君はしらんぷり なんで? なんで振り向いてくれないのかな?
とりあえず捕まえて、その後は・・・その後は・・・ノープランです・・・
そして、翌日―
「レン! 今日こそ逃がさないからね!」
「好い加減諦めろよ! しつこいぞホントに!」
こんがらがってる感情のツタにつまづいて
それでも、この気持を見失ってしまう、その前に
追いつけ、飛びつけ!
「どりゃ!」
「うわっ!?」
リンがレンに飛びつくと、その体重を支えきれなかったレンはフラリとふら付き、ドスン、と二人は一緒に床に倒れ込む。何時の間にか屋上まで来てしまった様だ。
「捕まえたよ! レン!」
倒れているレンの上でリンは誇らしげにニッコリと笑って見せた。
だいたんウサギとめんどくさがりなオオカミ
押して、引いて、それでもダメなら押し倒せ!
加速していく空回りの恋
もう誰にも止められないから 今まで逃げてた分 全部全部受け止めてよ、今すぐ!
ハァ、とレンは溜息を付くとス、と上半身を起こし、グ、とリンの手首を掴み、近距離まで顔を近付ける。
「え・・・?」
何をされてるのか未だに頭の整理が追付いていないリンを見てレンは再度溜息を付いて、そしてこう言った。
「ウサギさん、覚悟はいいね?
捕まえたら 二度と逃がさないから」
「ふぇ・・・?」
カアァ、とリンの顔が赤くなっていく。レンはリンの手首から手を放すとグイ、と額を拭った。走った所為で汗が酷い。
「俺も、リンの事、好きだから」
時が止まった、気がした。
「え・・・?」
「だーかーらー、俺もリンに一目惚れしたの。なのに行き成りそっちが『一目惚れしました! 付き合って下さい!』 て・・・。そう言われて『ハイ、分かりました』・・・なーんて事に出来る訳無いじゃん。・・・かっこ悪い・・・」
最後の方はつい、とリンから目線を逸らし、ポソリと呟いた。
おくびょうウサギと少しだいたんなオオカミ
向かい合って、もう逃げられないゼロ距離
「いただきます」
ニッコリ笑ってオオカミは言い、
「どうぞ、めしあがれ」
頬を赤らめウサギは言った。
二人が静かにまぶた閉じて迎える あっけないラストは、もうすぐ・・・
「ちょ、ちょ、押さないでよ! あ、あ!」
ズデデデデデ! 雪崩れ込む音が聞こえて二人は近付けていた顔をパッと離し、其方の方を見る。
「あいたたた・・・。ちょっと、行き成り押さないでよ! 二人共!」
「だってめーちゃんが・・・」
「だってカイトが・・・」
「言い訳無用!」
ネル、カイト、メイコだった。恐らく二人の後を追い駆けていたのだろう。
「全くもう・・・」
フン、と荒く息をついてネルは更に何か言いかけたが後ろから殺気を感じてぎこちなく振り返る。其処にいたのは凄く良い笑顔をしたリンとレンだった。因みに黒い笑いである。
「ネル・・・? 何しに来たのかなぁ・・・?」
「り、リン・・・。それにレン君も・・・」
ダラダラと冷や汗を目一杯掻き、ネルは視線を泳がせるとメイコとカイトの襟首を引っつかんで
「し、失礼しましたーーーーーーーーっ!」
と叫んで走って行ってしまった。
「ちょっとネル! 首絞まる! 離せ!」
「ね、ネル・・・。ちょ、俺死にそう・・・」
と言う二人の叫びが聞こえたのは気の所為では無いだろう。
「追い駆けないの?」
「疲れた」
「確かにね」
あはは、とリンは笑って、つとレンの方を見た。リンの視線に気付くとレンはフ、と微笑んで、リンの頬に手を添えた。
そして、二人の顔は近付いていき、そして―――
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もう、おもしろかったです!
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予想してなかったwwww
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2010/12/25 17:22:40