[スタートエリア]
「どうしろっていうのよ…」
ミクは呟いた。…この状況。
いったいどうしてこんなことをしなければならないのだろう。
ため息をつく。…ふと、視界にネルが入った。どうやらネルはゲーム参加者ではないらしかった。
「ネルっ!」
ミクはネルを呼んだが…向けられた視線は冷たいもので、ミクは言葉を飲みこんだ。
「今お前ができることは…戦って、生き残ることだけだ。…ほら、」
ネルがミクの後ろを指し示した。
振り返ると、そこには先ほどと違う場所への扉が開かれていた。
「…行け」
ミクがその声を聞いて振り返った時には…もうネルはそこにはいなかった。
仕方なくミクは歩いていく。そうして扉を…通り抜けた。
[A区画 街‐1エリア]
そこは、まるで東京を連想させるようなビル群が立ち並んでいた。だが、人や車などは全くない。ただオブジェのように、建物が、道路があるだけ。
♪♪♪
不意にポケットから大きな音が鳴った。慌ててミクはポケットを探る。音源は、『フォン』なるものだった。
『フォンの機能について
フォンでは、この空間の全体マップと皆がいるエリアを表示することができる。
だが当然細部までは表示されないので、同じエリアに行ったら自分の足で探せ。
あと、誰かが脱落したときも、情報が届くようになっている。
需要はないだろうが、プレイヤー同士、電話やメールもすることができる。
以上だ、改めて、健闘を祈る。』
「…知らないわよ。」
ミクは誰に言うでもなく、ぽつりとこぼした。
そもそもミクは戦いなんてしたくはなかった。というか、皆だって仲間を倒すなんてこと、したがるはずもないと思っていた。
だが、人間になれると聞いたとき。
明らかに空気は変わった。…つまり…誰かしらが…どうやって皆を倒そうかと、考えをめぐらせているかもしれないのだ。
どうすればいい。
どうすれば…。
ミクは考えて…フォンを取り出した。誰か信頼できる人を…!
いつの間にか夕方になっていた。
「もしもし…ミク?なんだって連絡なんか…」
「メイコ姉さん!お願い!助けて!」
ミクはすがるような声で言った。そう、ミクは同じ出身の先輩ならと…一番信頼をよせていたメイコに電話を掛けたのだ。
ミクはすべて話した。自分はこんな戦いは嫌だという事。誰も傷つかず、すべて平和に終わってほしいこと…。
「お願い…メイコ姉さん…私だけじゃ…どうしようも…」
とぎれとぎれに言葉を発するミクは今にも泣きそうだ。メイコは大きなため息を一つつくと、言った。
「…分かったわ。ミクのその気持ち」
「ほんとに?」
「ええ。…とりあえず…今から会えないかしら?」
「うん!」
ミクの目が輝いた。
「私はA区画、街‐2にいるんだけど…そこまで来れるかしら?」
「うん!」
ミクは元気に返事をした。
「気をつけてね。Aには今、リンちゃんとレン君がいるから…。じゃあ、あとで」
プツッと、電話が切れた。とりあえずメイコが味方をしてくれたことに、ミクはほっと胸をなでおろした。
やっぱりみんな…本当は戦いたくないのよ。ミクは自分の考えは正しかったと、胸をなでおろした。
改めてフォンでマップを開く。
この空間は横長の長方形をしていて、A~Gの七つの区画に分かれていた。長方形は東側、中央、西側と三等分する境界があり、東側、西側はさらに二等分され、北からA、BおよびF、Gとなっている。中央は三等分され、上からC、D、Eとなっていた。
今ミクはA区画、空間の北東部にいて、その中の街‐1と区分される場所にいるという事、のようだ。幸いにもメイコと同じ区画で、どうやらここから街‐2へは電車を使っていくことができるようだ。ということはそんなに移動に時間はかからなさそうだ。
自分のいるエリアなら、敵情報は出てこずとも詳しい地図が引き出せた。
ミクはそれを見ながら慎重に駅へと向かった。
日は暮れ、すでに夜になっていた。
[A区画 街‐2エリア]
「メイコ姉さん!」
目的の駅で降り、外に出るとメイコがそこにいた。無事に遭遇することができたのだ。
「とりあえず、近くの建物に移動しましょうか…一応身を隠す意味でも」
メイコはそういって、ついてきて、と歩き出した。ミクはすぐ後を追う。
このエリアも、さっきミクがいた街‐1エリアに負けないくらいの建物が並んでいた。…人も車もないのに変わりもない。
こんな大きな街なのに静かなのは不気味だな、とミクは思った。
「…ここがいいかしら」
歩くこと十数分。メイコは周りを見て、その中で一番高いビルを選択した。
中に入るも、当然人影はなし。だが電気はついていて、エレベーターが動いていた。
それに二人は乗り、メイコは最上階のボタンを押した。
「なんで一番上に?」
「…話の最中に誰か来て戦いになったら大変でしょう?こういうところに行った方が、例えエリアを特定できても、建物の中となれば見つかる確率は低い。奥に行けばいくほど…ね」
「…なるほど…」
ミクはメイコに信頼のまなざしを送った。
さすがメイコ姉さん、よく考えている。
でもそうすると仮に見つかった時逃げられないんじゃ…とミクは思ったがすぐ思い直す。そもそもこの辺りはビルが多い。たとえ建物の中だと察しがついても、全部探して回るのは…先に神経が参ってしまいそうだ。
エレベーターを降りて、メイコは奥へずんずん進む。ここはホテルなのだろうか、ドアがたくさん並んでいて、中にベッドや机があるのが見えた。
メイコは一番奥、通路の突き当りのドアを開け、中に入った。ミクもそれに続く。
「まあ、座って」
メイコが椅子をこちらによこしてきた。ミクはおとなしく腰掛ける。
メイコは部屋の中にあった冷蔵庫を開けた、何本かの飲み物が並んでいた。その中からサイダーとビールを取り出す。
「…ほら」
「あ…ありがとう」
ミクはそれを受け取ってふたを開け、口に含む。しみわたるような感覚に、ミクは久しぶりに落ち着けた気がした。
そんな様子を見てメイコはふっと笑うと、自分もビールをぐいっと飲む。そして、唐突に切り出した。
「…この一件について、どうしたらいいか私なりに考えてみたの」
ミクは黙ったままメイコの話を聞く。
「一番確実な解決方法は…このゲームの主催者を捕まえることかしらね」
「…主催者を?でもどうやって…」
ミクは首をかしげる。メイコは簡単よ、と人差し指を立てた。
「まずはハクがどこにいるのかを探せば、いいじゃない?」
「…そっか!ハク姉なら何かしらは知ってるはずだよね…!」
そういうこと、とメイコはビールを飲む。
「もし黒幕がハクならそれで事は解決するし、いいなりになっていたとしても、次につながる情報は持ってるはずでしょう?」
ミクの顔が晴れやかになった。
やっぱりメイコ姉さんは頼りになる。相談してみてよかった。
「すぐに動かないとね。もうどこかで争いは始まっているかもしれないし。…でも、」
メイコは外を見た。夜景が空しく光っている。いつの間にか夜も更けていたらしい。
それに気づいた瞬間、ミクの瞼も重くなった、ような気がした。フォンの時計を見ると、もう日をまたぎそうな時間だった。
その様子をみて、メイコは笑った。
「今日はもう寝なさい。明日からでも何とかなるわよ。」
メイコが言った。
…眠れない。
いや、メイコに言われるがまま、ベッドに横になった後、すぐ睡魔は襲ってきて、ミクは眠りについた。
だが、すぐに目が覚めてしまい、それ以降は全く眠くならなかったのだ。
言いようもないこれからの不安。それがミクの睡魔を妨げている。
何をすべきかは見えた。でも…これから何が起こるかわからない。もしかしたら自分が襲われて…なんてことを考えてしまうと、眠るなんてできっこない。
可能性がものすごく低いだけで、ここに私がいることがばれてしまうかもしれない。そんな時にのんきに寝ていたら…?
思考は止まらない。どんどん嫌な考えが浮かぶ。ミクはきつく目を閉じる。
「…ミクは寝たかしら…」
不意に、メイコの声が聞こえた。メイコも隣のベッドで寝ていたのだが、もしかして彼女も同じ不安にさらされているのだろうか?
ミクが話しかけようとしたとき、ごそごそと何かを探る音が聞こえた。
まさかとも考えたが、どうやらメイコが何かを探してるからだと思い直し、安心する。
だがそれは半分正解で、半分間違い。
一瞬、ミクは狙われている気配にとらわれた。いや、ここには私とメイコ姉さんしかいないはず…ここに私を倒そうとする人がいるわけが…。
いや、一人、いた。
ミクが閉じた目を開いたとき、そこにはマイクを持ち、自分を見下ろしているメイコがいた!
「『PASSIONAIRE』!」
BATTLELOID「STAGE1 苦悩・戦闘」-(1)
説明はBATTLELOID BEFORE GAME」を参照してください。
その場に一人残されてしまったミク。
どうすればいいかわからない状況で、ミクはとりあえず電話をかける。
その相手は…。
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