「叶えた夢は泣きながらどっかに行ったんだよな」
照明・音響・衣装・録画・舞台設置、すべての準備が終わった後の待ち時間、気がつけばあたしの唇からこぼれた言葉。スタート直前のステージは――体験したことがある人なら、きっとわかると思うのだが――ことさらに静寂が映える場所だから、なおさらそれは際立って聞こえた。
「なんすかリンさん急に」
「どうしたの、リンちゃん」
あかるい男声と、やさしい女声。どちらも、張り詰めていないふつうの声。目線を向けると視界の端に月を模した照明が映りこむ。
そう、ここは『月光ステージ』。
名前のない彼が教えたニセモノ、ではない月光ステージ。でも、彼が語った本物でもない月光ステージ。なんせここじゃ、「心の篭もった音楽を奏でると、なんでもひとつだけ願いがかなう」なんて易しい嘘は、奇跡は、起きない。
だけど、ここであたしは歌うのだ。ピアノを弾きながら。
心を、こめて。
そう、もう月光ステージに頼ろうなんて思わないのだ。心をこめた演奏ならあのときやった。あたしの精一杯、限界突破するくらいまでやった。そりゃまあまだ上があると言われればそうかなと思わなくもないけど、結局「願いが叶う」のが嘘なのに変わりはなかったから、あれはあれで完結だった。あの時の願いはこれからも叶いはしない。
自分の夢は自力で叶えるもんだし、叶えた。叶えられた。
なら今は――
「……なんでもない。つーかバカイトよ、ひとつ聞きたいんだが、演奏開始2分前でどうしてダッツの蓋を開けようとしてるのか説明する程度の脳はオメーにあるのかな」
「大丈夫!兄さん食べきれるから」
「そこに関しちゃ心配してないっつうの」
あたしは大げさにため息をつく。それを見て、ミクが声を上げて笑う。その間、カイトはアイスをむさぼり食う。瞬く間に消えるアイス。こいつ、本当に食べやがった。
彼がくれたのとは違う、あたらしい場所がここにある。
夢を叶えたあたしには名前だってあるんだから。
「そうだよな。あたしはあいつの夢をかなえたんだし。
……これからはずっといっしょだし。」
「うんとね、リンちゃん、本当にどうしたの?さっきから、」
「そうだよリンさん!悩みがあるならみんなの頼れるお兄さんことこの僕におまかせあれ!」
「ありがとね、ミク。バカイトは適度に黙ることをおぼえやがろうか」
「相変わらずっすねリンさん」
「ならへいきだよね」
「おう。……さ、もう時間だ。行くぞ」
あたしは鍵盤に視線を戻す。ミクが弓を構え、カイトはスティックを持ち直し、ステージが闇に包まれてぼんやりとタイトルロゴが浮かび上がる。
それを見て思う。
いくら心の篭もった演奏をしても、願いは叶わない。
だけど、心の篭もった演奏をすれば、誰かにこの気持ちを伝えることができるだろう。これは嘘でもなんでもなく、そこらじゅうを探せばきっと見つかるありふれた奇跡。
でもこれだって、心を篭めて演奏するには十分すぎる理由だ。なんたって、歌は、雲を超えた彼方にいる誰かのところにまで届くらしい。だったら、電子世界のどこかにいるはずの、誰かさんにも届くかもしれない。
・・・・・・いや、違う。届けるのだ。
だからちゃんと聞いてよね、レン。
あたしはそっと息を吐いた。
カウントダウンが、始まる。
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