キヨテル先生が熱を出した。

普段俺らは風邪を引くことがないし、すぅもほぼ健康体だから熱を出す人はこの家ではあまり見ない。
それでもって、先生は健康に人一倍気を使う人だし、教員として当然の心得だと言っていたのを聞いたことがある。
昨日は何ともなかったはずだから、夜のうちに何かあったのだろうか。


...まあ、何で俺がこんなに先生のことを知ってるのかって言うとですね。
リンが容態を看ているからですね!!!
俺にとってリンは世界そのもの。リン以外は...まあほとんど興味の外側だ。
「ボカロでも風邪引くんだー!!ちょっとけんきゅ...じゃなかった様子見てくる!!」
ノートパソコンを片手に駆けていった姉を追いかけるのはさすがの俺でも愚策だと思う。多分リン廃仲間のLilyも行き先を知ると絶対についていくことはしないだろう。





「あれ、らな...さんじゃないですか」
暇つぶしに廊下を歩いていたら、薄ピンクの髪を三つ編みにした少女がドアにへばりついていた。
...今日は赤色?毎日違うカラコンでも入れてるのか?

「...誰です?」
「あの、もう来て数ヶ月は確実に経っているんですから覚えてください。俺はレンですよ」
「レン...ふーん。一応覚えておくの。それで、らなに何のご用なの?」
「別に、通りすがりですけど」
「嘘!!そうやってらなを油断させて、先輩に近づくつもりでしょ!?」

...因みにここは、Lilyの部屋の前。
つまり、らなさんはLilyの部屋の音を聞いていたことになる。

可愛い顔(もちろんリンには100倍劣るが)してこの子はキヨテル先生並に怖い。
そして好きな人が一人に集中しているから怖い。
さらに言うと、二人の想い人は天然タラシと言っても過言ではないからあの周りは恐ろしすぎる。
まあ、多分アイツは二人の熾烈な争いの種が何かなんて気付いてないだろうけど。どっちを気の毒に思うべきか分からない。

それはそうと、折角ここまで来たのだからDIVAでもしようかと思ったけど...門番を振り切るのは不可能に近い。
俺はストーカー少女を通り過ぎ、下にあるリビングへ向かった。




「あ、リン!!!...とグミさんとすぅ」
「私の名前で嫌そうな声出さないでよー」
「すいません地が出てしまいした」
「なにおー!?」

リビングへ行くと、パソコンの周りに女子3人が群がっていた。
まあ、グミさんは飽きたのかスマホを弄りながらだけど。
「...てなるじゃない?それが...」
「というか...なるの?」
リンとすぅは俺と同い年ぐらいとは思えないほど込み入った話をしてるって言うのに。というか何言ってるのかさっぱり分からない。

「あ、レン君いたの?」
俺は空気かっての。
まあすぅのことは俺も空気扱いするけど。
「リン、何話してるの?」
「あ、レン。あのね、先生の熱の原因についてすぅと話していたんだけど......」
その数秒後、俺は衝撃的な事実を告げられる。




ここのVOCALOIDは、風邪を引かないようにプログラミングされているという事。
そしてキヨテル先生のプログラムにももちろん、そんなバグは発生していないという事。

つまり―――キヨテル先生は、何者かによって外側から毒を盛られた、ということになるという事を。




改めてキヨテル先生の部屋に行くと、汗を大分かいていて...とても苦しそうだった。
「...先生が元気じゃないと、誰かさんとゲームもする気になれないので、早く元気になってください」
そう言ったあと、机にスポーツドリンクを置いた。
俺の声が聞こえたかは分からないが、少し微笑んでいた気がした。



そう言えば朝からリン廃のあいつを見ないな、とふと思った。
先生の部屋にいるのかと思ったけどいなかったし、自分の部屋に籠っているのか?まあ、単に門番がいて出れないだけかも知れないが。
どうせだから、リンはリビングに居るって伝えてやるか。今回だけだからな。
らなさんには、丁寧に謝って退いてもらおう。



あいつの部屋の前に、らなさんはいなかった。
Lilyを呼ぶためだけに殺りあう(というより一方的に殺られると思う)気はさらさらなかったし、少し安心した。
「Lily?いるかー?」
呼びかけと共にドアを3回ほど叩く。反応はない。
寝てるのかとも思ったが、流石にお昼直前まで寝ている奴も居ないだろう。
試しにドアノブに手を掛ける。鍵はかかっていない。
「入るぞ?」
そーっと中を覗くと、布団が乱れてるのが見て取れた。
よく見ると部屋全体が荒れ放題で、只事ではないとひと目で分かるほど。
そして、窓が全開。
「そこにいるのはレン君?ねぇ、リリさん知らな...」
ドアから顔を出してきたのはすぅ。彼女も、この部屋の有様を見て顔を引きつらせている。
「強盗でも入った...?」
「いや、金目のものが盗まれた形跡がない、と思うけど…」
「なら...まさか、これは...」
「ああ、多分」


Lilyは、何者かによって誘拐された。




先生の守りが、薄い時を狙って。

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【すぅ家】レン君と奇妙な1日:前編

あらあら、何だか雲行きは怪しくなってきました。
だけど犯人は見つかります。そういうものです。謎解きなんて書く予定ありませんもの。
レン君がただただ苦労する話です。

いやね、前に(うちの子で前に主役になった作品の服でも着せてみるか…)と思ったところ、うちの子としてのレン君ですら一年前が最後でした。不憫でならなかったんで今回と次回はレン君が主役です。良かったねレンくん!!
まあレン君をどうか見守ってあげてください←

閲覧数:141

投稿日:2015/04/22 20:38:43

文字数:2,110文字

カテゴリ:小説

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