ポカポカと暖かい庭の中に、僕の小屋はある。今日も花壇の花に蝶が集まってきている。それを見ると僕は居ても立ってもいられなくなって駆け出してしまう。だって目の前でひらひらしているのだもの、飛びかかりたくなる。――でもいっつも駄目、紐が引っかかって花壇には届かないようになっている。子供の頃、僕がはしゃぎまわって花壇をメチャクチャにしてしまって、それからというもの花壇に届かないだけの紐をつけられてしまった。その時はいまでは優しいお爺さんもさすがに怒った。お母さんやお姉さんにかばってもらってなんとかなったけれど、それの為に紐がついたり、花壇には近づくまいと誓う事になる。
でも――甘い匂いや、それに誘われてやってくる虫たちを追い回してじゃれ合いたい、と時々思う。少しでも駆け回りたい。気の向いたときに届きそうな位置まできた虫を、届くところ目いっぱいまで体を伸ばして遊んでいる。
だけど今日は違った。紐いっぱいのところまできて、後ろ足で地面をける。前足を伸ばして――その時大きな音が後ろでしたと思ったら、体が前にばたーっと倒れ込んだ。ふにゃふにゃと立ち上がって、後ろを振り向く。小屋の近くで音がしたはずだ。――でも何の変化もない。僕は目が悪い。近くのものしか見れない。それでもそろりと僕に近寄って驚かそうするものを察知することはできる。それに僕は鼻も耳も充分すぎるくらい良くきく。
さて何が起こったかはわからないけれどとにかく、僕は遊びに戻ることにした。届きそうな所を飛んでいる蝶とじゃれ合おうと、また後ろ足に力を入れて地面をけって前足を上げると、すっと思いもよらないほど体が伸びる。思いがけず蝶に前足があたる――というところで、蝶はひらりと僕の前足をかわした。こんなことは初めてだった。もう一度後ろ足に力を入れてぴょんと前足を伸ばすと、また体が伸びる。
!
嬉しくってばたばたぴょんぴょんと跳ね回る。蝶が仲間のもとに戻ろうとしてふらふらと飛んでいく。待って!遊ぼう!追いかけていくうちにはっと気付いた。
――花壇に入るのはまずいなぁ……。
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