―――――時間がないことが分かっていても、完全に硬直してしまうほどの衝撃。
その部屋の真ん中に座した可愛らしいバイオメカは、それほどの存在であった。
「……ね、ねぇルカ姉、あの子ってもしかして……」
「……もしかしなくても……あんな特徴的な姿したVOCALOIDはそうそういないわ」
ミクの震える声に、ルカも小さく応答する。
鮮やかな赤い髪。頭上で大きく円を描くアホ毛。リンやレンとそう歳が変わらなく見える童顔。そして特徴的な機械造形の手足。
紛れもなく、そこにいたのは『SF-A2開発コードmiki』―――――VOCALOIDのミキだった。
「どうしてっ……こんなところに!?」
「……信じたくないけど……多分、この子が……」
彼女がここにいる理由。それを教えてくれたのは、彼女の全身につながるコードと周囲の制御装置、そしてそこに示される―――――『体内エネルギーの変動数値』。
何よりも、ルカは『心透視』で読み取っていた―――――ミキの体内に渦巻く、まるで恒星の様な莫大なエネルギーを。
(内蔵エネルギーはリュウトの3倍……いや5倍以上か……!これほどのエネルギーを含有するバイオメカなんて……!つまりは……!)
信じられなかった。相手が畜生であることはわかっていたが、ここまでの外道であるとは思わなかった。だけど認めざるを得なかった。
この船の動力炉―――――『エネルギー蓄積型バイオメカ』は―――――『SF-A2開発コードmiki』。
《……………ダレ?》
ふと響いた声にはっと我に返った四人。
その視線の先で、ずっと俯いていたミキが顔を上げていた。
「……ミキ?私達が分かる?ルカよ、巡音ルカ!初音ミクも、鏡音リン・レンもいるわ!わかる!?」
《……ニンシキ。メグリネルカ、ハツネミク、カガミネリン、カガミネレン》
どこか機械的な返答をするミキ。小さな違和感を覚えながらも、ルカは言葉を続けた。
「そうよ、VOCALOIDのルカ!私達は貴女を……助けに来たのよ!」
何というべきか一瞬迷って、ルカは救出を口にした。
それに対しどう返してくるかを待つ。『助けに来てくれたのね!』と返して来ればまだいい。『私は『TA&KU』に尽くす!』などとかつての武士みたいなことを言われた場合一苦労であると考えて。
しかし返ってきた言葉は――――――――――
《……SF-A2カイハツコードmikiノヤクメハ「デストロイア」ヲウゴカスコトデス》
『『……え?』』
余りにも―――――余りにも機械的な、定型文の様な返答だった。
ここでようやく4人は気づいた。ミキの表情に。
それは無表情とか言ったレベルではない―――――感情というものを知らないかのような、真っ白な、仮面のような顔だった。
「……まさか彼女」
「感情が……ない?」
ぽつりとリンとレンが呟いた瞬間、頭上で“ブツッ”と音が響く。マイクの電源が入った音だ。
当然降りてくる声は―――――憎き田山権憎。
《どうした『C’sVOCALOID』共、何をぼさっとしている?念願の動力炉に辿り着いたのだ、破壊してみればいいだろう?》
厭味ったらしい口調には、わかりやすいまでに念が込められている。『お前たちにこいつが壊せるか?できないだろ?』という、挑発的な念が。
苛立ちを隠さずに、そのムカつく声に言葉を返すルカ。
「……黙れ、外道が。ミキにいったい何をした、お前たち!!」
《どうした、時間がないのにそんなつまらん話を聞いている暇があるのか?クククク》
更に挑発されて言い返そうとするが、ミクとレンに止められて言い留まるルカ。確かに、そんな話を聞いている暇はない。ミキを助け出し、奴等を捕縛した後にでも聞けばいい。
だが、そんな葛藤を嘲笑うかのように、田山は勝手にミキの半生を語り始めた。この男は主張したがるタイプの人間なのだ。
ミキを開放する手立てを探しつつも、それに少しだけ耳を傾ける4人。
それは、まさに畜生の成す所業と、それに振り回された赤髪の少女の歴史……。
リュウトに次ぐ『6体目のTA&KU製VOCALOID』であり『2体目の完成品』として作られた『エネルギー蓄積型VOCALOID SF-A2開発コードmiki』の最初のコンセプトは、『リュウトへのエネルギー供給装置』であった。
一日で先進国の軍隊すらも崩壊させる戦力を持つリュウトを無限のエネルギー供給で永遠に暴れさせる―――――そんな悪魔の作戦の要となる存在であったミキは、『TA&KU』以外―――――他のVOCALOIDや支援者に存在が明かされぬよう秘匿されてきた。
しかし、先に目覚めたリュウトは力を制御しきれない欠陥品だった。それを知った『TA&KU』は最初のコンセプトを諦め、最初の4体の『試作品』―――――がくぽ、グミ、リリィ、いろはの4人を無制限に、ひたすら無制限に動かすためのエネルギータンクとしての使用を立案した。
ところが―――――いざ目覚めてみれば、ミキはあり得ないほどのエラーを吐き出し、誤作動を幾度も起こして機能停止するリュウト以上の欠陥品であることが判明。とてもではないが、第一戦で使える代物ではなかったのである。
ここにきて流石に参ったと頭を抱える『TA&KU』。廃棄するにも、既に幾度かの食事を経て核弾頭数発分のエネルギーを蓄えてしまっていたミキは、処分どころか取扱さえ気を付けるべき『生きた地球破壊爆弾』と化してしまっていた。
そんな時、安治怒羅介と久留須飽花が提案したのが、『意思も感情も破壊した人形状態で『破壊者』の動力炉へと転用しよう』という案。
ある程度の研究を進めた結果、誤作動の原因はミキの持つ『意思と感情』が何らかの作用を及ぼすためと判明。ならば、それを排除し操り人形として制御できるようにした上で、膨大なエネルギーを必要とする空中戦艦『破壊者』と『量産型VOCALOID』のためのエネルギータンクとして使ってしまう―――――それが二人の考えた悪魔の所業。
その悪魔の考えの下、ミキの思考回路と感情回路は破壊され、プログラムをアンインストールされた。
完全に人形と化したミキは、『破壊者』に接続され、それ以降動力炉としての日々を送ることとなったのだ―――――――――――。
耳が腐るような弩外道の話をある程度聞き流しつつ、周囲の機器の調査をする4人。
調べる限りでは、周囲の機器は全てミキのエネルギーの調整・制御のみに使われるもので、エネルギー供給システムを停止する操作などは出来なさそうだ。
無理やり引きはがすか、それこそ最悪の手段としては破壊するしかないだろうが、どちらにせよこんなエネルギーの塊を下手に刺激すれば、自分たちやこの船どころか、半径数百キロが焦土と化すことは間違いないだろう。
「ミク、粒子砲発射まであと何分!?」
「あと……5分ちょっと!ヤバいよ、ルカ姉!!」
血の気が引いて再び狂いそうになるが、すぐさま唇の端を噛み切って意識を引き戻す。口の中に苦々しい味が広がるが、知ったことではない。
どうする。どうする。ルカの頭の中を思考が駆け巡る。しかし名案は浮かんでこない。
表情を歪めてひたすら思案している――――――その時。
「ルカさん。一か八か……試してみたいことがある」
すっと前に出たのは―――――レン。その眼には、不安と決意が宿っている。
「!……レン、何か考えがあるの?」
「……まぁ、ね。ただ、正直本当に賭けになる。発射に間に合うかどうかも怪しいし、それ以前に効果があるかどうかも怪しい。だから、他に考えがあるならそっちを優先したい」
かなり自信なさげな言葉ではあるが、その眼に宿る意思は強く語っている。『信じてほしい』と。
その眼を真っ直ぐに見据えたルカは―――――小さく微笑んで、頷いた。
「……私たちと、町の命運……貴方に託すわ、レン」
「……任されたぜ」
笑い返して、一歩前に出る。
リンとミクが不安げにその様子を見守るが、ルカはその小さくも大きな背中をしっかりと見つめていた。
思い出すのはリンが無力に耐えきれず反乱したあの時。あの頃のレンは、リンがいなくなっただけで揺れるような、心の弱い少年だった。
だが今は、町の命運をその両肩に背負っても、揺らぐことが無いほどに成長した。
もう、誰かに頼って生きるひ弱な子猫ではない。自らの牙と爪で仲間を守れる立派な猛虎だ。
(さぁて……自分の存在を見失った歌姫を、救いに行こうかね)
軽く体を鳴らしながら―――――レンは赤髪の少女の正面に相対した―――――――――――
SOUND WARS!! Ⅹ~無感情の動力炉~
ようやく見つけた動力炉は、かつての仲間。
こんにちはTurndogです。
ミキちゃんの正体は本命の動力炉!!
それも感情を失った操り人形!!
これはもう苦戦の予感しかしません。
そして『TA&KU』のゲス度が急上昇しております。
これはもう助走をつけてぶん殴りたいレベルだね、自分で書いててそう思う。
何かレンは考えがある様子。
雄々しく成長した少年は自分を失った少女に一体何をするのか!?
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ゆるりー
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うわああああああああ▂▅▇█▓▒░(’ω’)░▒▓█▇▅▂
ミキちゃん感情ないじゃないですか!音波術使わないじゃないですか!
「転用しよう」って何も名案じゃないですよね(にっこり)
果たしてミキちゃんを救出できるのか?
【鏡音先生の次回作にご期待ください!】
2016/02/29 00:51:06
Turndog~ターンドッグ~
やだー!((
ヘドロの様な脳みそをした弩外道にとっては名案なんでしょう、殴るべきですね。
レンは果たして彼女を救えるのか!?レンの戦いは始まったばかりだ!←
2016/02/29 01:00:42