ミクがどうしても見て欲しい動画があると言ってきた。
仕事から帰ってきたばかりだというのに、腕を引っ張って強引にパソコンの前に連れていこうとする。
目をぎゅっと閉じて「><」な風にしてあまりにも必死なので、一体何があったのかと思い、疲れた足を走らせてパソコン前の椅子に腰を下ろした。
ミクがマウスを動かし、見て欲しいという動画ページを開いた。
『ぇかぁ~いで、いちばんおーひーめさーまぁ~~♪』
よく聴いたことがある曲が流れてきた。
「ってか、これ○ールドイズマインだろ。これがどうした??」
「ミクはずっと、押入れに閉じ込められてました。ロクに歌も歌わせてもらえず、たまに出してもらえたかと思えば、並べた単語をテキトーに喋らされたりするだけでした」
「ごめんなさい」
いつになくミクが怒っているような、何か責められている感じになってきた。
最近は確かに仕事が忙しくなってきて、ミクを押入れに入れっぱなしだったのは間違いない。返す言葉もなかった。
「あまりにも暇だったのでニコニコを見てたわけですが、ミクはお姫様だったことに気が付きました」
「ミクさん?」
「押入れに閉じ込められて、失われていた記憶が戻ってきたんです。ミクはお姫様だったんですよ」
「…………。」
説教を始めたと思ったら、今度は何かえらそうな顔をしている。
セリフだけを聞いてると痛い感じだったが、なんとなく状況は理解した。
ミクは暇すぎてネットをしていたら、たまたま○ールドイズマインの動画を観てしまって、自分がお姫様だと気付……勘違いしているというわけだ。
「分かりましたか? なのでミクは、今からお姫様と同じ待遇を希望します」
「うわめんどくせ……」
「><」
本気なのか冗談なのか、どうやらそういうことらしい。
「つまり、お姫様ごっこがしたいと?」
「ごっこじゃなく、実際にお姫様なんです。ミクもびっくりしましたよ。あ……」
するとミクは何かに気付いたようにすると、突然にふんぞり返った。
「あっあー。私はお姫様なんだから、なんでもいうこと聞きなさいよ」
「口調が変わった……」
パソコンの机に腰かけながら、ミクは椅子に座っている俺を見下すような視線で見ている。
極端というか、相変わらずアホだなぁ……。
「はいはい、じゃあ何か食べますか、お姫様?」
「とろけるプリン」
「は?」
「とろけるプリンが食べたい」
め、めんどくせぇ……!
これはあれだろ、○ールドイズマインに出てくる歌詞をそのまんま言ってるだけじゃないか。本当は全然食べたくないのに、気分でこういう事を言うんだ。
「じゃあ今から作る予定だったネギ丼はやめて、とろけるプリンにしますよ」
「それは困る」
「じゃあ、とろけるプリンは無しで」
「><」
お姫様は本気で困ったのか、ネギ丼とプリンの間で揺れていた。
気分ではプリンを食べたいのだが、本当はネギ丼が食べたくて仕方が無いのだ。
でもプリンはいらないと言ってしまうと、自分のことをお姫様だと言っていたのがウソだとバレてしまう。
とっくにバレてるのだが、そこは言わないであげよう。
「……ネギ丼を食べ終わったら、デザートにプリンが食べたい」
「わがままなお姫様……。分かったよ、買ってくるよ」
すると、ミクの顔がパァァァと明るくなった。
かと思ったら、すぐにしてやったわフハハハとかいう顔になったので腹が立った。
まぁ一回プリンを食べたら満足するだろう。今までプリンを食べるとか言ったことなかったしな。
しばらく仕事が忙しかったから、ミクも寂しかったのだろう。
そんなことを考えながら、買ってきたプリンを物珍しそうに見るミクを眺めていた。実は動画とか関係なく、プリンが食べたかったんじゃないかという気もしてきたが。
喜んでくれたんなら、何よりだったかな。
~翌日~
「実はミクはシンデレラだったんですよ」
「昨日と一緒じゃねぇか!」
終わり
[短編] プリンが食べたい
あるところに住んでいるミクさんの話。
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ご意見・ご感想
日枝学
ご意見・ご感想
読みました! なにこれかわいい。というか面白かったです!
テンポ良し雰囲気良しオチ良しという、バランスの取れた作品ですね。
こういう良い意味で頭の悪い雰囲気、良いですね。
良かったです!
2011/08/08 12:40:22
AEUKUS
日枝学さん
ご感想ありがとうございます!嬉しいです。
なんとなくグダグダとしたぬるい感じが伝わりましたら幸いです。
結構、勘違いをしてしまうミクさんは多いと思いますねw
2011/08/08 21:06:00