好奇心は猫をも殺すなんてよく言うが、幼い頃の私の好奇心は、猫の死体に打ち壊された。
なんのことはない、町外れに人だかりが出来ていたから近付いただけだ。
私と同じくらいの年頃の女の子や男の子が輪になって何かを見ており、私も気になって覗き込んだ。
そこには──猫の死体があった。
大きな鳥に襲われたのだろう。首や腹には痛々しい傷があり、開かれた目は虚空を見つめていた。
幼い私にトラウマを植え付けるには、十分だった。

あの日もそうだ。
人だかりが出来ていて、近付こうとして、シャルテットに止められた。
止められたら逆に見たくなるものだ。
見なければ良かった。そう後悔するのは容易い。
そこには──血に濡れた父がいた。

あの日もそうだ。
革命の最後の日。ミラネ広場にできた巨大な人だかり。
中央には処刑台。響く数多くの罵声。
後悔は尽きない。
そこには──死にゆく弟が王女の姿で立っていた。

思い出したくない過去が頭の中を延々廻る。反芻し、後悔と自己嫌悪を酒ごと飲み下す。
ベルゼニア帝国、ルコルベニの居酒屋の片隅に座り、酒をあおっていた。
さすがはブラッドグレイヴの生産地──安酒でも不味くない、などと思っていたら、店内の客がバタバタと外に駆けだしていくのが見えた。
何か外で起こっているのだろうかと、主人に代金を払い、私も後に続く。
遠くに、また人だかりが出来ていた。
その人だかりの向こうでシャルテットが叫んでいる。
続いて女の悲鳴。
全身が白い骨のような化け物が飛び出し──私はため息を一つ落とす。

いつだってそうだ。
人混みには、碌なことがない。

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ネコの屍

人混みが嫌いなジェルメイヌの話。短め。
ノベル『五番目のピエロ』で呟いた彼女の言葉に何夜泣き尽くしたことか。
書き上げてから、ジェルメイヌはこの後「猫の死体」にも散々振り回されるなと気付いてもう一回泣いた。

公式コラボ悪ノSS 3作目
9/19 誤字を修正しました

閲覧数:598

投稿日:2018/09/19 14:49:49

文字数:679文字

カテゴリ:小説

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