好奇心は猫をも殺すなんてよく言うが、幼い頃の私の好奇心は、猫の死体に打ち壊された。
なんのことはない、町外れに人だかりが出来ていたから近付いただけだ。
私と同じくらいの年頃の女の子や男の子が輪になって何かを見ており、私も気になって覗き込んだ。
そこには──猫の死体があった。
大きな鳥に襲われたのだろう。首や腹には痛々しい傷があり、開かれた目は虚空を見つめていた。
幼い私にトラウマを植え付けるには、十分だった。
あの日もそうだ。
人だかりが出来ていて、近付こうとして、シャルテットに止められた。
止められたら逆に見たくなるものだ。
見なければ良かった。そう後悔するのは容易い。
そこには──血に濡れた父がいた。
あの日もそうだ。
革命の最後の日。ミラネ広場にできた巨大な人だかり。
中央には処刑台。響く数多くの罵声。
後悔は尽きない。
そこには──死にゆく弟が王女の姿で立っていた。
思い出したくない過去が頭の中を延々廻る。反芻し、後悔と自己嫌悪を酒ごと飲み下す。
ベルゼニア帝国、ルコルベニの居酒屋の片隅に座り、酒をあおっていた。
さすがはブラッドグレイヴの生産地──安酒でも不味くない、などと思っていたら、店内の客がバタバタと外に駆けだしていくのが見えた。
何か外で起こっているのだろうかと、主人に代金を払い、私も後に続く。
遠くに、また人だかりが出来ていた。
その人だかりの向こうでシャルテットが叫んでいる。
続いて女の悲鳴。
全身が白い骨のような化け物が飛び出し──私はため息を一つ落とす。
いつだってそうだ。
人混みには、碌なことがない。
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ブクマつながり
もっと見る◇◇◇
これは夢だ。
早々に彼がそう確信した理由は他でもない。宮殿の廊下に、本来ならばいるはずもないものがいたからだ。
加えて、窓ガラスも割れているというのに他の侍従達が騒ぎ立てている様子は無い。
目の前の事柄全てがあまりにも不自然だ。夢なのだろう。今、彼の前にいるこの「熊」は。
地を這うような低い...イレギュラーはアカシックレコードの夢を見るか?
たるみや
◇◇◇
年をとった。
肖像画を描けなくなったのはいつからだろうか。
──否。描けなくなっていた、と気付いたのはいつだったか、と考えるのが正しいかもしれない。
若い頃は絵を沢山描いていたし、画家を目指していたこともあった。
しかし、母と画家ニコライ=トールによりその夢を絶たれてからは絵筆を持つことも無...とある画家の肖像
たるみや
ギィ、と扉の開く音。
「お久しぶりね」と笑う魔道師は、最後に会ったあの日から何一つ変わっていなかった。
私が母に連れられ、彼女に初めて会ったとき、彼女は自らを「悠久の魔道師」と名乗った。悠久の時を生きる、不老の魔道師だと。
……正直、あまり信じていなかった。それも当然だろう。いくら両親の友人とはいえ...とある修道女と魔道師
いんく
自宅にも井戸端会議にも居らず、
おそらくと目処をたてていた第3の場所…居酒屋へとシャルテットは足を運んだ。
「あぁ、やっぱりッスね」
座ったままでも窓から外の景色を眺める位置に茶色の髪の女性はいた。
グラスには赤い液体が入っており、チビチビと飲んでいたようだ。
空きビンは見あたらない。
「夕方前から...居酒屋にて
ogacchi
「……やっぱり、ここにいたのね、リン」
視線の先には、リンと呼ばれた修道女が立っていた。夕闇に映える金の髪がまぶしい。砂にしゃがみ込んだリンは、服が濡れることを厭わず、ぼーっと水平線の彼方を見つめている。
夕の赤に輝いた、一筋の頬の輝き。
それは、幻か。
「……あぁ、クラリスか」
声で判断し...茜空ノ修道女
Stella
「やはり引き受けてくれると思ってましたわ」
「まあ、友人の娘の頼みだ。断る理由がない」
エルフェゴート国の小さな町の小さな喫茶店。画家である青髪の男は小さく微笑み、目の前にいる小さい小説家に問う。
「挿絵か……君の世界観を壊さずに描けるか不安だが、やってみよう」
「まあ! かつて一つの国を変えた人...悪魔の絵を描く
真宏
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